ネズミにだまされた猫
むかしむかし 神様が動物たちに言いました
「一月一日の朝、私のところに来なさい。
十二番目までを順番に、その年の王さまとしよう」
動物たちははりきって、神様の住む山をめざします。
体が小さいネズミさんは、なんとしても一番乗りをするつもりです。
ずるがしこいネズミさんは、朝早く出かけた牛さんの背中に飛び乗りました。
そして、神さまのところに着くと、ぴょんと飛びおりて一番になってしまいます。
「我ながら素晴らしい!頭は生きているうちに使わなきゃ意味がないからな」
ネズミさんは、有頂天になって言いました。
かわいそうな牛さんは二番で、トラ リュウ ヘビ ウマ ヒツジ サル ニワトリ イヌ イノシシの順で、次の年からの王さまが決まったのです。
次の日の朝、神さまのところに猫さんがやってきました。
「おや 今頃きたのかね。約束の日は昨日だよ」
神さまにそう言われた猫さんは、ネズミさんにウソを教えられたのだと気づきました。
いつも、ぼーっとしている猫さんは、ネズミさんの話を鵜呑みにして、確かめなかったのです。
「まんまと出し抜かれたようだね」
「これからはもっと気をつけるんだよ」
神さまは笑いながら言いました。
猫さんは仕方なく、トボトボと帰って行きました。
家の近くに来ると、ネズミさんがいました。
「猫さんどうしたんだい、元気がないようだけど」
ネズミさんは、笑いをこらえながら声をかけました。
「ネズミさん、どうしてウソを教えたんだい!」
猫さんは、ネズミさんを問いつめます。
「ちゃんと確かめない、君が間抜けなのさ」
ネズミさんは笑いながら、猫さんをバカにすることを言いました。
猫さんは騙されただけでなく、バカにされてくやしくて仕方ありません。
「もう あっちに行け!」
猫さんは、イライラして叫びました。
「おお 怖い」
ネズミさんは大げさに、怖がってみせます。
すると、我慢していた猫さんは、ネズミさんに飛びかかりました。
しかし、すばしっこいネズミさんは、あっという間に木にのぼってしまいます。
猫さんも勢いよく後を追いかけます。
「ほらほら、おそいおそい、早くおりてきなよ」
ネズミさんは、猫さんが木にのぼっているすきに、すでに木からおりていました。
猫さんは、木の上でぼうぜんとしています。
なんと!猫さんはのぼるのは得意なのですが、おりるのは苦手だったのです。
「あーあ 何をしても間が抜けてるんだね」
ネズミさんは、猫さんをからかって、楽しんでいるようです。
猫さんはくやしいやら、はずかしいやらで、
悲しくなってしまいました。
すると、牛さんがのそのそと、やってきました。
「牛さん!牛さん!」
猫さんは、助けてもらいたくて、牛さんを呼びとめました。
「やあ 猫さん」「そんな所で何をしてるんだい」
「ぼくを追いかけて木にのぼったのに、おりられないんだよ」
そばにいたネズミさんが、わざわざ牛さんに言いました。
「それは大変だ!」
「よし いま助けてあげるから」
牛さんは、地面に寝ころがり、お腹の上に飛び下りるように猫さんに言いました。
「お腹はやわらかいから怖くないよ」
猫さんは、牛さんを信じて、勇気を出して飛びおります。
牛さんのお腹はフワフワで、猫さんは痛い思いもしませんでした。
「牛さん、どうもありがとう」
猫さんは、牛さんに何度も、お礼を言いました。
「猫さんが無事でよかった」
牛さんも、猫さんが無事で安心しています。
ネズミさんは、猫さんと牛さんが仲良くしているので、なんだか面白くないようです。
ネズミさんは「じゃあ またねー」と、言い残して、そっけなく帰って行きました。
「おとなしく帰るんだよ」
おだやかな牛さんは、ネズミさんを心配して声をかけました。
「牛さんは誰にでも優しいんだね」
「ぼくなんか、誰にでも優しくなんて、とてもできないよ」
すると、牛さんは笑いながら言いました。
「ぼくだって同じだよ」
「ただ、これがぼくのやり方なんだ」
牛さんは、神さまのところに行った時の話をしました。
その話を聞いた猫さんは、牛さんがネズミさんを恨んでいないことに驚きます。
「ぼくは体が大きくて動きが遅いから、すばしっこいネズミさんに先を越されたんだよ」
「でも、だから朝早く出発したんでしょう」
猫さんは、牛さんの気持ちがわかりません。
「それに一番も二番も、同じようなものだから、ぼくは満足なんだ」
猫さんは、どうも納得できないという顔で、牛さんを見つめています。
「猫さんは、僕と同じやり方を、する必要はないんだよ」
「猫さんには、ぼくとは違う魅力があるんだから」
「優しさだって、いろいろな優しさがあるんだよ」
そう言うと牛さんは、ゆっくり歩いて帰って行きました。
残された猫さんは、牛さんの話を聞いて、少しだけ気が楽になっていることに、気づきました。
そして、ネズミさんのウソを確かめなかった自分にも、責任があると反省しました。
「もう ぼーっとするのはやめだ」
それから猫さんは、ぼーっとしないよう、いつも顔を洗うようになったのです。
おしまい