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夏との邂逅

男2人、女1人の3人芝居
20分程度



アイカワナツ…女子大生
ハルヤマアキラ…男子高校生、学ラン
アイカワタカヒロ…ナツの父親



公園。




ナツ「ポルターガイスト、呪い、心霊写真、その他霊でお悩みの方なんでもご相談ください!達成率ほぼ100%!霊媒師ハルヤマアキラ」
ハルヤマ「はい!アイカワさんのお悩みばっちり解決させていただきます!」
ナツ「すみません。言おう言おうとしてたのですが、やお帰りいただいて大丈夫です」
ハルヤマ「え」
ナツ「正直、あなたが『アイカワさん!アイカワナツさーん!』って駆け寄って来てからずっとタイミング見計らってました」
ハルヤマ「公園入ってすぐじゃないっすか」
ナツ「お帰りください」
ハルヤマ「人生経験はまだまだっすけど、心霊体験は山ほどあるっす」
ナツ「自称霊媒師、お友達の間では結構です。でも、ホンモノの方は滲み出るオーラとか溢れ出る経験値とかあるって聞きます」
ハルヤマ「滲んでないっすか、オーラ」
ナツ「自慢じゃないですけど、私もその手の知識は豊富なんです。休みとバイト代のほとんどを全国津々浦々心霊すぽっと巡りに費やしてましたので」
ハルヤマ「じゃあ、せーので最恐スポット言い合いっこし」
ナツ「しません。こっくりさんだってひとりかくれんぼだってスリーキングスだって、深夜のトンネルでクラクション鳴らしたってお墓の写真撮りまくったって旧校舎の女子トイレノックしたって、霊に会うどころかラップ音の1つも聞いたことありませんでした。霊なんかね、いないんですよ」
ハルヤマ「確実に霊っす。親族が夢枕に立つのは心霊体験トップ5のあるあるじゃないっすか」
ナツ「本当に霊なら今まで呼び込むようなことばかりしてたんだから、1回くらい会えたはずでしょう」
ハルヤマ「頑固っすねえ」
ナツ「お帰りください」
ハルヤマ「自分だって遊びでやってるわけじゃないんすよ」
ナツ「そもそも最初からおかしかったんです。誰にもどこにも話してないのに。何で父が夢に出てくること知ってるんですか」
ハルヤマ「アイカワさん本人から聞いたんす」
ナツ「私あなたのことは一切知らないですし、今初めて会ったんですよ」
ハルヤマ「パパさんの方っすよ!」







ハルヤマ「アイカワタカヒロさん45歳。眼鏡で痩せ型背はやや高め。サラリーマンで食品会社の営業職。妻のカオリさんを亡くされてからは男手一つでアイカワさんを育ててる。小1まで毎晩お気に入りの絵本を読み聞かせしていた。10歳の誕生日プレゼントは『入門!霊能力者セット』。藁人形が上手に作れなくてパパさんと一緒に作った。13歳の」
ナツ「マジ?」
ハルヤマ「マジっす」
ナツ「ストーカー?探偵とか雇いました?」
ハルヤマ「んなことしません!」
ナツ「…分かりました。一旦ハルヤマさんがレーバイシだと信じましょう。レーバイシのハルヤマさん。私が見た夢に理由があるなら教えてもらえますでしょうか?」
ハルヤマ「アイカワさん、パパさんと直接話した方が良いっす」
ナツ「直接?」
ハルヤマ「もう既にいらっしゃってるっす」
ナツ「…は?」
ハルヤマ「自分が間に入ってそのまま進めるケースもあるんす。でも、アイカワさんの様子を見てる感じ、直で行った方が良さそうっすね」
ナツ「父どころか猫の子1匹いませんけど」
ハルヤマ「あれ。いるって聞いて、気配とか、声が聞こえるとかあったりしないっすか?」
ナツ「全く。第一物質化現象も物体浮遊もラップ音もポルターガイスト現象もないのに、父がいると言われましても」
ハルヤマ「…やっぱり。話を聞いてておかしいなと思ってたんすよ。普通ならあれだけ呼び込むようなマネをしたらトラウマや人格破壊レベルの経験をしてもおかしくない。影響を受けた様子もない。恐らくアイカワさんはちょっと霊的素養が薄いというか霊能力系があんまり無いというか第六感がほぼ皆無というか」
ナツ「え?」
ハルヤマ「アイカワさんは休みとバイト代のほとんどをフツーのご旅行に費やしてたってことっす」
ナツ「……」
ハルヤマ「なんで、力技を使わないとパパさんと直接お話できないってことっす」
ナツ「ちょっと待って」
ハルヤマ「アイカワさん、今から自分の言うことを集中して聞いてください。やり直しになると、とんでもないことになるっす」
ナツ「やるとは言ってません!」
ハルヤマ「パパさんとお話しなくていいんすか!」
ナツ「……」
ハルヤマ「絶対にアイカワさんとパパさんを会わせます。絶対です。ほんの少しだけ、自分にお付き合いしてもらえないっすか」
ナツ「…少しだけですからね!」


ハルヤマ、鞄からお札を取り出す。



ハルヤマ「まだお互いに声も聞こえなければ姿も見えてません。霊と人間が会うためには、あの世とこの世を繋ぐための浄化された媒介と、強い感情の揺れが必要になるっす。このお札を両手で握って、相手のことを強く思ってください。合図を出したら、お札を撒いて『お父さん大好き』と叫んでください」
ナツ「は?」
ハルヤマ「『お父さん大好き』と叫んでください」
ナツ「あの」
ハルヤマ「自分は少しでも繋がりやすくなるよう、祈祷を始めるっす」



ハルヤマ、大幣を振りながら祈祷を始める。


ハルヤマ「アイカワさん!」
ナツ「お父さん大好き!!!!」






ハルヤマ「嘘っす」
ナツ「ちょっと!!!何やらすんですか!!!」



タカヒロ現れる。



タカヒロ「…ナツ」
ハルヤマ「アイカワさん成功しました!」
ナツ「何がですか!ドッキリがですか!?」
タカヒロ「あれ」
ハルヤマ「…何で!?」
ナツ「聞きたいのはこっちなんですけど!」
ハルヤマ「アイカワさん、パパさん!パパさん!」
タカヒロ「ナツ!」
ナツ「どっかで動画でも撮ってるんですかもしかして!」
ハルヤマ「そんなことしないっすよ」
ナツ「手の込んだイタズラを!それっぽいお札まで作って!」
ハルヤマ「夜なべして作ったのに」
タカヒロ「ハルヤマ君」
ナツ「悪質過ぎる!」
タカヒロ「ハルヤマ君どうなってるんですか!これでナツと話せるんじゃないんですか!」
ハルヤマ「そのはずっす!この方法はほぼ100パーで会えるんすよ」
ナツ「警察行きます」
ハルヤマ「待ってください!」
タカヒロ「待てません!何でナツには僕が分からないんですか!こんなにはっきり見えているのに、どうして僕にはナツの声が聞こえないんですか!」
ハルヤマ「え!?手順にミスは無いっすよ!」
ナツ「さっきから誰と話してるんですか」
ハルヤマ「パパさんっす」
タカヒロ「ナツ、お父さんだよ」
ナツ「つくならもっとマシな嘘ついてください!」
ハルヤマ「嘘じゃないっすよ」
タカヒロ「ナツ、本当にお父さんだ」
ナツ「どこかに隠れたお友達としゃべってるんですか」
ハルヤマ「信じてくださいよ」
タカヒロ「このTシャツ、覚えてるだろ。お土産で買ってきてくれたやつ」
ハルヤマ「こんなにでっかい金字プリントの恐山Tシャツ、着こなせるのパパさんくらいっすよ」
タカヒロ「よく着てたろ、ナツは着ないで良いって言ってたけど」
ナツ「…Tシャ」
ハルヤマ「あーーーー!!!」
2人「…どうしたんですか急に」
ハルヤマ「分かりましたよ!お話できない理由!」
2人「え」
ハルヤマ「アイカワさんはマジで霊感がないんすけど、それが自分の遥か予想を越えるレベルで無かったんすよ。だから感情の揺れが足りなかった」
タカヒロ「はあ」
ナツ「さっきの恥晒しのこと言ってます?」
ハルヤマ「強烈なパワーがあれば喜びでも悲しみでもなんでもいいんすよ。あの方法が手っ取り早いだけで。アイカワさんにはもっともっと大きい揺れが必要だったんすね」
ナツ「やった人全員バチ切れるのは保証します」
タカヒロ「理由は分かりました。じゃあどうしたらナツと話せますか?僕に出来ることがあればなんでもします!」
ハルヤマ「パパさんがやれることは無いんすよ…アイカワさん、さっきレベルの揺れがあと…5回もあればいけるっす」
タカヒロ「頼む、ナツ!」
ナツ「絶対嫌です!」
ハルヤマ「そこをなんとか」
ナツ「恐山Tシャツ、かっこいいと思って買った訳じゃ無いからね!ハルヤマさん、父には私が見えてはいるんですよね?何言ってるか伝えてください。それでいいです」
ハルヤマ「アイカワさん、思いが強く残ってるからこうなってるんす。相手と直接言葉を交わして分かることってあるんすよ」
ナツ「仕事ばかりで最近は会話も全く無かったんです。顔を合わせたとて気まずいだけなので」
タカヒロ「ハルヤマ君、ナツはもしかした僕と話したくないんじゃないですか」
ハルヤマ「え、いや…ある側面から捉えるとそうっすけど、多面的に捉えると」
タカヒロ「大丈夫です、その可能性も考えてました。ナツの良いようにやってください」
ハルヤマ「やりたくなったら言ってください。おかわりできるんで」
ナツ「それで!原因は分かるんですか?」
ハルヤマ「パパさん、思い当たる節ってあります?」
タカヒロ「ナツと埋めたタイムカプセルだと思います。それを一緒に掘り返せれば」
ハルヤマ「アイカワさん、パパさんと埋めたタイムカプセル覚えてます?」
ナツ「あ〜〜…?」
ハルヤマ「微妙っす」
タカヒロ「ナツが6歳の時、僕と2人でここの林に埋めたんです。この公園は妻が生きてる時に3人でよく来た場所でした。絵本でタイムカプセルを知ったナツは、どうしてもここに埋めたいと」
ハルヤマ「この公園に埋めた思い出のタイムカプセル、それを掘り出しちゃいましょと」
ナツ「じゃあさっさと掘り出しましょう。パッと掘ってパッと終わらせましょ」
ハルヤマ「アイカワさんもやる気満々っすよ!」
タカヒロ「こちらです」
ハルヤマ「アイカワさんこっちっす」



掘り出すハルヤマとタカヒロ。
古びたお菓子の缶が出てくる。



タカヒロ「…懐かしいな」
ハルヤマ「懐かしいそうっすよ。アイカワさんはどうっすか?」
ナツ「そうは言われましてもね」



タカヒロ、缶の中からティアラを取り出す。



ナツ「あ」



14年前の夏。
ナツとタカヒロは穴を掘っている。



ナツ「ランドセルさ、ママにもほんものみてほしかったな」
タカヒロ「うん」
ナツ「しゃしんよりぜったいかわいいもんみずいろのやつ。あ、もしかしてママもほしいかも」
タカヒロ「そうだね」
ナツ「そしたらさ、ママもしょってパパもしょって3人でしょうがっこういったらすごいたのしいんじゃない?」
タカヒロ「…うん、楽しいね」
ナツ「パパさ、なつがしょうがっこういっちゃったらさびしいでしょ」
タカヒロ「なっちゃんが大きくなるのはちょっと寂しいけど嬉しいよ。ママもそれが嬉しいよきっと」
ナツ「じゃあはやくおおきくなろ!パパよりおおきくなってひこうきなつがやったげる」
タカヒロ「楽しみだなあ」
ナツ「へへへ」
タカヒロ「…なっちゃん、本当にティアラ入れちゃっていいの?」
ナツ「うん」
タカヒロ「そっか」
ナツ「なつさ、ママとのやくそくよりはやくもらっちゃったもんね」
タカヒロ「うん」
ナツ「パパ、ママには次いつ会えるの!?」
タカヒロ「…そうだね、夜になったら会えるよ」
ナツ「あ〜!おほしさまっていってたやつ?」
タカヒロ「うん、言ってたでしょ。ママはなっちゃんのことずっとお空から見てるからねって」
ナツ「でもさ、なつはママとあいたいからおほしさまはちょっとちがう」
タカヒロ「…いつかなあ、パパも会いたいな、ママに」
ナツ「じゃあ、もしなつがママに会えたらパパにもおしえてあげる!」
タカヒロ「え」
ナツ「それで、3人でピクニックしよ!」
タカヒロ「…なっちゃんの好きなたまご焼き、いっぱい持って行こうね」
ナツ「ミートボールとうどんとシチューも!」
タカヒロ「うん」
ナツ「あ〜はやくおおきくなりたいな」
タカヒロ「ゆっくり大きくなればいいんだよ」
ナツ「タイムカプセルさ、あけるのいつにする?ぜったいなつがあけるからね、パパがひとりでこっそりあけちゃだめだからね!」
タカヒロ「…なっちゃんが大人になったらあげるって約束だったもんね。二十歳になったら開けようか」
ナツ「お〜はたちか〜」
タカヒロ「誕生日があと14回来たらもう二十歳だよ」
ナツ「すぐじゃん!」
タカヒロ「そうだよ、すぐなんだよ。二十歳なんてあっという間だ」



現在



ナツ「どうして忘れてたんだろ」
タカヒロ「……」
ナツ「…ううん、本当はずっと覚えてたんだ。悲しさが蘇りそうで怖くて、無理に蓋して見ないふりしてただけで」
タカヒロ「…ナツ」
ナツ「強がってたけど、ママが死んじゃってから寂しかった。お父さんは、私が困らないようにって頑張って働いてくれたけど、もっとさ、2人で過ごしても良かったかな」
タカヒロ「ごめん」
ナツ「私もだけど、お父さんにもう1回ママに会って欲しかったんだな。リビングでこっそり1人夜中に泣くなら、一緒にママの思い出話して泣くのもありだったよ」
タカヒロ「ごめんね」
ナツ「私こそごめん、意地張って」
タカヒロ「……」
ナツ「あ〜一瞬だった!もっとゆっくり大きくなれば良かったな!!」
タカヒロ「うん」
ナツ「そしたらお父さんにもうすこし上手に甘えられたかも」
タカヒロ「うん」
ナツ「一緒に全国津々浦々まわったりしてさ」
タカヒロ「あの日、伝えられなかったから」
ナツ「……」
タカヒロ「二十歳の誕生日、おめでとう」



タカヒロ、ナツにティアラをつけようとするが通り抜けて落ちる。



ナツ「ハルヤマさん、色々言ってすいませんでした」
ハルヤマ「いえ」
ナツ「…お父さん」
タカヒロ「……」
ナツ「…お父さん、ごめんね。ありがと」
タカヒロ「…お父さんの方こそごめん。…ありがとう、なっちゃん」
ナツ「……じゃね」


ナツ、去る。
公園で遊ぶ子どもたちの声。


タカヒロ「…あの子は成仏できたんですか?」
ハルヤマ「はい」
タカヒロ「…そうですか」


ハルヤマ、リュックからタケノコの里を出す。


ハルヤマ「食べます?」


ベンチに座って食べる2人。


タカヒロ「…あの子を縛り付けてしまったのは僕なんですね」
ハルヤマ「自分、めちゃくちゃ推しのアイドルがいるんすよ。ライブも通っててグッズも買ってて」
タカヒロ「…はい」
ハルヤマ「だから、夢に出てきた時超テンション上がりました。でも、平安時代なんかは、逆に相手が自分のこと好きだから夢に出てくるってのが一般的だったんすよ」
タカヒロ「そうなんですね」
ハルヤマ「アイカワさんは亡くなった自覚も無くて、パパさんを夢で見たと思ってた。パパさんもアイカワさんを夢で見た。…ええっと、つまりっすね、パパさんだけじゃなくて、アイカワさんも相手のことを強く思ってたってことっす」
タカヒロ「そうですか」
ハルヤマ「そうっす」
タカヒロ「……ナツは、きのこの山が好きでした。家では僕だけたけのこ派でね、妻とナツにきのこの方が美味しいのに〜!って言われてました」
ハルヤマ「はい」
タカヒロ「すこし頑固だけど優しい子で。旅行先のお土産なんか、毎回きっちり買ってきてくれたんです。全部捨てずにとっといてあるのを知ると恥ずかしがるかなと思って…例えば、結婚の挨拶なんかに来たら相手にこっそり自慢しようと思ってたんです」
ハルヤマ「はい」
タカヒロ「妻に会いたいからだとはね、気づいていたんです。でも僕に聞く勇気がなくて。そうだと言われた時、かける言葉があるか分からなくて」
ハルヤマ「はい」
タカヒロ「でも、僕にも会わせたいからだとは気付かなかったなあ」
ハルヤマ「はい」
タカヒロ「…事故にあったって連絡を受けた日は、あの子の誕生日だったんです」
ハルヤマ「……」
タカヒロ「振袖を、ううん、ウエディングドレスや赤いちゃんちゃんこ着る時だって、僕は見るつもりでいました」
ハルヤマ「……」
タカヒロ「入院した妻がそのまま帰って来れなかった時、胸に大きな穴が空いたようでした。でも、ナツがいてくれました。…あの子までいなくたったら僕は」



ハルヤマ、きのこの山を渡す。


ハルヤマ「きのこも持ってるっす」
タカヒロ「……」
ハルヤマ「すんません、本当はもっとなんか、パパさんに言いたいこととか伝えたいことたくさんあるんすけど、言葉になんなくて。……美味しいもの食べて、たくさん寝て、元気になって…おふたりのこと、大事に思い出してあげてください」


タカヒロ、きのこの山を食べる。



タカヒロ「……きのこも良いですよね」
ハルヤマ「…はい」






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