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STK機関

•兼役ありで4人芝居
•20〜25分

【登場人物】
男1 
男2 
男3 
男4 
その他たくさん


男が4人、座っている。


4「どれくらいぶり?」
1「すごいぶりだよ」
4「分かるかそんなんで」
2「ちょうど壱年ぶりだ」
4「予想より空いたな」
1「よく覚えてたね」
2「俺の提案したSTK機関の名が通りし記念すべき日だからな」
3「だっせえ名前だよ」
2「貴様如きに言われる筋合いは無い」
3「だささの極み」
4「はい!そろそろ本題入ります!相変わらずの面子ですが、まあ少数精鋭ってことで。前回の失敗を振り返って、よりスムーズに進行出来るように皆さん準備してきてくれたでしょう!白熱するでしょうが今回こそはもう時間がありません!決定しましょう!」
1「よっしゃ優勝する!」
2「俺が最高とは何か教えてやろう」
3「最低の間違いだろ」
2「弱い犬ほどよく吠える」
3「かっこいいと思って言ってんの?」
4「そんなことばっか言ってたら時間無くなりますんで!リミットあるんだから!誰から行く?」
1「俺から!こういうのは早い方が良い!」


車内。
運転席に父、助手席に母、後部座席に兄と男1が座る。
男1はスケッチブックを持っている。


1「お父さんお父さん!行き先まだ秘密なの!?」
父「知らない方がわくわくするだろ?もうちょっと言わないでおこうかな。ヒントは『ゆ』がつく所だよ」
1「遊園地!?」
父「どうかな〜遊園地かもな〜」
母「もう、そういうところ相変わらずなんだから」
父「こうして出かけるのも久しぶりだからな」
1「ねー!お兄ちゃんはどこだと思う!?どこ行きたい!?俺はねジャスコ!!それでゲーセン行ってお菓子すくうやつやる!!」
兄「『ゆ』着いてないじゃん」
1「ジャスコ好きなんだもん」
兄「高速乗ってんだからジャスコな訳ないだろ。もっと遠いとこだよ。まあ…どこでも良い。」
1「ちゃんと考えてよ!」
兄「じゃあキリン公園」
1「家の近くじゃん!」
母「あんまりはしゃぐと着いた時には疲れちゃうよ」
1「疲れない!!だってこんなに元気だもん!!」
兄「声でかすぎ。耳痛くなるわ」
1「早く描きたいなあ」
兄「楽しい?」
1「うん!次の学級新聞の挿し絵描いてって先生にも言われたんだ」
母「すごいじゃない、良かったね」
父「そうだ、後でお小遣いもやろうな。せっかくならあった方が良いだろ。」
兄「俺はいいよ別に。自分で持ってきたし。」
父「子どもが遠慮すんじゃないの」
母「たっぷりしっかりもらっときなさい」
1「いいのお父さん?なんだかお正月みたい!お年玉だ!」
兄「お小遣いだよ」
1「いつもじゃないお小遣いは全部お年玉」
兄「すぐお小遣い使っちゃって、いつもお手伝いのお駄賃もらってるもんな」
1「いいじゃん別に」
母「洗濯物畳むの上手くなったもんね」
父「あ、サービスエリア近いみたいだ。寄ってくか?」
1「俺は大丈夫!早く行こうよ!」
母「コウ君さっきからジュースたくさん飲んでるじゃない。トイレ行きたくなったら困るでしょ。」
1「全然おしっこしたくないからいい!」
兄「俺寄りたい」
1「うんち?」
兄「馬鹿、違うわ」
父「休憩ついでに何か食べるか」
1「からあげ!からあげからあげ!!」
母「後でご飯食べられなくなるよ?」
父「いいだろこんな日くらい」
1「じゃあ、からあげとメロンパンとソフトクリームと、からあげ食べる!!」


戻る。


1「どうよ?」
2「ふむ」
3「正直、前に言ってた『学校のプール開放の日にめちゃめちゃ遊んで、金曜ロードショーのラピュタ見ながら寝ちゃったら親が布団に運んでくれた』の方が勝算があった。」
4「かなり良い!」
1「しゃ!!」
2「車内でのエピソードか」
3「そこが良いんだろうが、お前じゃ分かんないだろうけど」
2「喧嘩を売らなければ死ぬのか?」
1「車内なの?って言い分は分かる。でもこの、期待が盛り上がってる状態が幸せなんだよ。こんなに前菜美味しいのに、パンもスープも美味いのに、まだメインディッシュじゃないだと?ってこと。遠足の前日のわくわくは、遠足そのものを越える。」
4「分かる…!」
1「家族のなんともない会話。変わらないと思っていたもの。これこそが相応しい!優勝した!!」
2「急くな。俺の前に優勝は決まらん。」
3「俺で決定だけどね。」
2「意見の自由は奪わない。敗者の妄言だ。勝者は余裕があるからな。」
1「よし、君たち好きに争いたまえ。」
4「かなり、かなり良いけど決め手にかける。」
1「こんなに最高なのに!?」
4「その最高さは伝わってるけど、まだ上を目指せるはず。てっぺんを見せてくれ。これだけじゃ決められない。」
2「では俺が行こう。見てろ貴様ら。」


中学校。下校風景。
男2、自転車に跨って誰かを待っている。
少女が来る。


カナコ「あ」
2「ほら」
カナコ「なに」
2「いや」
カナコ「待ってたの?」
2「調子のんな。たまたまだよ。」
カナコ「ふーん」
2「…乗れば」
カナコ「どうも」


カナコ、男2の後ろに乗る。


2・カナコ「うるさい!」
カナコ「夫婦じゃないし。たまたま家近いからタクシー代わりに乗ってるだけだし」
2「片道100万」
カナコ「こいつが、どうしても乗ってくれって言うから仕方なく乗ってあげてんの」
2「俺だって乗せたくて乗っけてんじゃねえよ。この馬鹿が怪我した足で歩いて帰る姿が哀れで哀れで、カンダタに蜘蛛の糸垂らす仏様みたいなもん」
カナコ「私が仏様なら絶対アンタに糸垂らさないね」
2「俺の器は広いからな、お前と違って」
カナコ「腹立つ」
2・カナコ「いちゃついてない!」
2「何聞いてたんだ!お前の耳は飾りか?」
カナコ「ハシモトカナコじゃないから!サイトウカナコだから!」
2「用ないならもう行くからな」
カナコ「話しかけたのそっちじゃん!」
2・カナコ「また明日!」


自転車を漕ぎ出す男2。


2「……足どう」
カナコ「リハビリのおかげで良くなってるよ。でもバレーはもうちょい我慢だね。次の予選が中学最後になるのに間に合うかな。」
2「間に合う間に合う間に合う」
カナコ「適当すぎ」

カナコ「…絵はどう?」
2「まだ全然。キャンバスの前座ってるけど、クロッキー帳に手癖の落書きばっか」
カナコ「『名画になるからサインしてやろうか』って言ってたのにね」
2「モチーフ決まれば一発だよ。イメージ固まらないのに描き始めてもしょうがないだろ。良い絵にならねえよ。」
カナコ「そういうもんなんだね」
2「そういうもんだよ」
カナコ「……ねえ」
2「ん」
カナコ「あのさ」
2「なに」
カナコ「…まだ何描くか決まってないならさ、私とかさ、描いてみる?」


戻る。


3「おい!創作って言え!!」
4「強すぎる」
2「喰らえ喰らえ。骨身まで染みろ」
3「こんな漫画みたいなこと起こってたまるか!!」
2「捏造したら一瞬でバレるだろうが!ここには真実しか無い」
1「…てなかったじゃん」
2「なんだ」
1「2人乗りなんてしてなかったじゃん!!!」
2「ちゃんと思い出したら2人乗りだった」
4「青春を具現化してやがる」
3「更にここからフランス人の女子高生がマックで核心をつく一言を言い周りのみんなが立ち上がって拍手するんだろ?そこまで言え、そうなんだろ!」
2「嘘のフォーマットに当てはめようとするな」
4「良すぎて辛い。前後のディティールも詳細にしやがって。帰り道に漂うカレーの匂いまで蘇った」
2「強すぎるとはつまらんものだ…」
3「黙れ妄言野郎」
2「負け犬の遠吠え、真実を見つめろ」
1「あの思い出で勝てたはずなのに自信なくなってきた」
2「健闘は称えよう」
3「調子乗るな」
4「いや、でも」
2「何だまだ不満か?」
4「この甘酸っぱ〜〜〜い感じが逆に強過ぎるかも。ここまでだとちょっとねえ。もっと…いや良いんだけど…もうちょい違うアプローチも見たいって言うかさ…」
2「難癖つけやがって。我儘が過ぎるぞ。」
3「いいやその通りだね。恋愛が全てじゃねーんだよ!」
2「ほーんそれじゃあお前はよっぽど素晴らしいエピソードがおありなんだろうなあ?」
3「俺はお前と違うんだよ」


高校。
校長が賞状を持っている。男3は名前を呼ばれるのを待っている。


先生「2年2組、ハシモトコウスケ君。」
3「はい。」


段上に上がる3。


校長「審査員特別賞、花岡高等学校2年ハシモトコウスケ殿。あなたは第40回全国高校生文化展にて頭書のとおり優秀な成績をおさめましたので、これを賞します。」


賞状を受け取る男3。拍手。
マイクの前に立つ。


3「本日、このような場を設けてくださりありがとうございます。自分自身まさか賞を獲れると思っておらず、賞状を手にした今じわじわと実感と喜びが湧いてきました。…僕は、昔から絵を描くのが好きでした。幼稚園ではお絵描きの時間に夢中になり過ぎてクレヨンで顔も服も汚していました。小学校では図工の時間が1番好きで、何よりも楽しみにしてました。中学校で初めてキャンバスと向かい合い、白い画面に無限の可能性を感じワクワクしました。絵が好きという気持ち、それは僕がどれだけ大きくなっても変わらないと思います。…指導してくださったミヤマ先生、共に絵を描き高めあった美術部のみんな、そのお陰で獲れた賞です。本日は本当にありがとうございました。これからも頑張ります。」


拍手が男3を包む。

戻る。


4「おお〜!!」
3「どうよ!」
1「審査員特別賞ってすごいの?」
4「全国の応募がある中で1人だけ」
1「すごいじゃん!」
3「すごいんだよ!」
2「イマイチ」
3「はあ!?」
2「もっと密なエピソード無いのか。これでよく俺に喧嘩を売ったもんだ」
3「お前の女子とちょっとイチャついたエピソードよりよっぽど良いだろうが!作ったものがきちんと評価されて高校生が所属する中で1番大きいであろう共同体でそれが発表されて全校生徒から拍手だぞ。あの演説も結構褒められたんだからな。」
4「そうそう!なかなか無いよなそういう経験は。」
1「単純にすごい。俺はそんなこと無かったし」
3「そういう素直なリアクションを求めていた」
1「俺がもらったことある賞皆勤賞だけだよ」
3「いつかは獲れるさきっと」
2「俺は認めん」
3「お前のエピソードが女子一点突破だから無理やり突っかかろうとしてんだろ」
2「お前こそ語るに落ちやがって」
3「恋愛脳!」
2「人生灰色!」
3「ピンク妄想!」
2「承認欲求!」
3「思春期野郎!」
2「自己愛人間!」
4「ちょっとちょっと」
3「自己愛と成功体験の差も分からないのか!」
2「『本日ぅ〜このような場を設けてくださりぃ』」
4「やめろやめろ!そんなことしてる時間無いんだって!」
2「『僕はあ、昔から絵を描くのがあ』」
3「1ミリも似てねえよ!ブサイクな表情しやがって!」
1「いや似てる似てる」
2「『絵が好きという気持ちぃ』」
3「お前いい加減にしろ!知ってるんだからな!」
2「『僕がどれだけ大きくなってもぉ、変わらないとぉ』」
3「あのあとカナコと全然上手くいってないだろ!」


一瞬、間

男4とカナコが自転車に2人乗りしている。


カナコ「……ねえ」
4「ん」
カナコ「あのさ」
4「なに」
カナコ「…まだ何描くか決まってないならさ、私とかさ、描いてみる?」
4「おまっお前何言ってんの!」
カナコ「…なんか困ってるみたいだし?自転車乗っけてくれてるお礼みたいな?」
4「…お前みたいなブス描かねえよ!絶対描かない!描いてたまるか!」
カナコ「…」
4「お前なんか描いたら筆全部折れるわ!絵の具腐るわ!キャンバス破れるわ!」
カナコ「…」
4「まあどうしても描いてほしいなら別にまあ考えないことも無いけどそれはまあ本当にどうしてもというかデッサン人形よりはマシというかお前描いても別に筆進まないだろうし名画になんかならないだろうけどまあ本当に描いて欲しいなら考えないこともまあ無いけども」

カナコ「…冗談だから。」
4「…あ、そ…」
カナコ「ありがと。もう降りるわ。」
4「え」
カナコ「いいから。」


カナコ、自転車を降りる。


4「また明日」


カナコ、答えずに去る。

戻る。


3「思春期爆発させ過ぎてイイ感じだったのに傷付けて」
1「これはお前が悪い」
4「あれ」
3「謝ることも出来ずにあれきり疎遠になったけど、お前が変に照れて攻撃しなかったら仲良かっただろうにな」
4「ちょっと待って」
1「彼女なってた?」
3「可能性は、あった」
1「あ〜あ」
4「おかしくないか」
2「うるさい!第一ルール違反だろうが!勝手に引っ張り出すな!」
3「元はと言えばお前が難癖付けて下手なモノマネするからだろ!」
2「正確に模写した結果だ」
1「似てたもんね」
3「お前はどっちの味方だよ!」
1「どっちでもないし、この調子なら俺の勝ちだなって思ってる」
2「その余裕もここまでだ、こうなったらお前も引きずり下ろしてやる」


車内。
男4と兄が後部座席、父が運転席、母が助手席に座る。


父「あ、サービスエリア近いみたいだ。寄ってくか?」
4「俺は大丈夫!早く行こうよ!」
母「コウ君さっきからジュースたくさん飲んでるじゃない。トイレ行きたくなったら困るでしょ。」
4「全然おしっこしたくないからいい!」
兄「俺寄りたい」
4「うんち?」
兄「馬鹿、違うわ」
父「休憩ついでに何か食べるか」
4「からあげ!からあげからあげ!!」
母「後でご飯食べられなくなるよ?」
父「いいだろこんな日くらい」
4「じゃあ、からあげとメロンパンとソフトクリームと、からあげ食べる!!」
父「なんでも食べろ、お父さんがなんでも買ってあげるからな」
母「コウくん、お母さんのお弁当あるからね」
4「うん!」
父「要らないって言っただろ」
母「コウくんの好きな甘い玉子焼きも、お兄ちゃんの好きなエビフライも入ってるからね」
兄「…知ってる」
父「あっちで食べるって話したろ」
母「レストラン?それともお弁当?」
父「ちゃんと考えてる」
母「あの女に用意させてるの?」
父「おい子どもの前で」
母「騙して連れてきたくせに」
父「騙してない」
母「遊園地に行くって子どもたち釣って。本当はあの女に会わせるのが目的でしょ。あなたは騙してばっかり。私の事だって何回裏切ったか覚えてる?」
父「お前はすぐねちねち言うな」
兄「…楽しく過ごそうよ、コウだってはしゃいでたじゃん」
母「お兄ちゃんだって嫌だよねえ、会いたくなんかないよねえ」
父「子どもに言わせようとするな」
母「コウ君も嫌だよねえ、お父さんって最低だよねえ、遊園地なんか行きたくないよねえ」
4「…俺は」
母「コウ君は?」
4「…家族みんなで、遊園地行きたい」


戻る。


4「ん?」
2「結局遊園地には行けなかったし、離婚して母さんと兄ちゃんとは別々で暮らすことになったもんな!」
1「あそこまでだったら楽しかったじゃん、ほじくり返さないでよ!」
2「俺だって無理矢理続けなければ良い思い出だった」
4「おかしいおかしい」
3「お前が突っかかってきたのがそもそもの始まりだろうが」
4「待て待て」
2「意見して当たり前だろう、優勝は決めねばならぬ」
4「おかしいんだってさっきから」
1「なにがおかしいんだ!」
2「そうだぞさっきから余所事ばっか考えやがって」
4「あのさ」
3「第一俺だけ部外者ですみたいな顔してるけど、お前もエピソード無いのかよ!勝手に仕切って適当に口出してるだけでさ!」
2「それには同意する!お前は前回もそうだった!披露しろ!」
4「俺は、別にいいだろ」
1「良くない!お前もエピソード言え!全員巻き添えだ!」


アパートの一室。
男4、1人キャンバスに向かっている。

戻る。


1「何も起きてない」
2「エピソード“無”か?」
4「絵描いてたろ」
3「絵なら俺だってコイツらだって描いてたわ。出展なり個展開くなり賞獲るなり何でも良いから山場ないの?」
4「…ねーよ」
2「灰色どころか真っ暗だな」
3「自分が良いと思ってればいいんだぞ。絵描き友達ができたとかSNSでちょいバズしたとか」
4「だから無いって」
3「ちゃんと描いてるのか?真面目に向き合ってんのか?挑戦したか?」
4「真面目にやってる!!!!」
3「それなら印象的な出来事の1つでも」
4「好き勝手言うけど、お前だってあのあと覚えてるのかよ!」


高校になる。


先生「これにて、全校集会を終わります。」


教室に戻ろうとする男4。
深山先生と部員を見つけ声をかけようとする。


部員1「深山先生、何で橋本が賞獲れたんですか」
部員2「正直、別に上手くないじゃないですか。」
深山「絵は技術の上手い下手もあるけど、情熱とかかける思いとかも大事なんだよ。」
部員2「その、情熱とかがよく分かんないんです。あの絵だって描く工程見てましたけど、他の部員の方がよっぽど真面目に描いてたと思うんです。橋本はヘラヘラしたりふざけたりしてたし。」
深山「そうだねえ」
部員1「先生だって賞とったって聞いた時、あの絵が、驚いたって言ってたじゃないですか」
部員2「技術がある上で崩すのは分かるんですけど、橋本の評価は審査員の講評聞いても分からなくて。先生はどう思ったんですか。」
深山「…絵に良い悪いは無いと先生は思ってる。ただ、ウケる絵とウケない絵はあると思う。審査員も人の子だから好き嫌いはあるからね。…橋本君の絵は前者だったんだろうね。」


戻る。


4「先生にも部員にも全く評価されてなかったろ!」
3「あれは、俺は別にしょうがないと思ってる。アイツらにはウケなかった、でも評価されたのは俺だ!」
4「絵描くの怖くなったのあれからだろ!それまで自由に描けてたのに描き方が分からなくなって!考えてばっかで筆が進まなくなって!」
1「描けなくなったの?」
3「少しだよ!熱意は変わらねー!」
2「俺だってあのあとずっと描いてたのに」
3「あれから美術教室にも通ったし上手くなったろ!」
4「自分より小さい子の方がデッサンしっかりしてて、井の中の蛙だって気づけて良かったよな」
3「今分かってまだマシだった」
4「でも第一志望の美大の受験は失敗したし二浪して受かった滑り止めの美大もギリギリだったろ!それでも周りはめちゃくちゃ絵が上手くて絵が好きで、美術に対する思いが熱くて、気持ちだけは負けないと思ってたのにそれも負けて、打ち込めば打ち込むほど周囲とズレて浮いていった!周りが合コンだなんだって遊んでる時も絵描いてたのに、自分が何を描きたくて何で描いてたか分からなくなって真っ白なキャンバス見ると胃が痛んだ!個展は失敗するわグループ展は誘われないわ誘う人もいないわ孤独な4年間だったよな!卒業制作だって誰よりも時間かけて死ぬ気で臨んだのに講評はボロくそだし、ポートフォリオにまとめた作品は独りよがりだって教授にも面接官にも言われるし、就活失敗して絵を描く時間も無いほど使い潰されるし!1年でクビだし金も無いし恋人も居ないし家族とは絶縁だし絵を描く気力も情熱も消えたし俺の人生なんて全く上手くいってないんだから、首吊るのもしょうがないだろ!!!」


首吊りの縄がぶらんと落ちてくる。


1「勝手に終わらすんじゃねー!」
2「彼女も出来ずに俺を殺すな!」
3「何首吊ってくれてんだ!」
4「うるさい!」


男1、男2、男3、絵の具を男4に投げつける。
男4、絵の具で汚れていく。


1「お父さんの住所は知ってるだろ!」
4「新しい家庭に居場所なかったろ、母さんと兄貴は小学校以来会ってないし」
2「カナコに謝れば良かったろ!」
4「俺だって謝りたかったよ」
3「自分が自分の絵好きじゃなくなってどうすんだ!」
4「あの時まではちゃんと好きだった」
1「お前が馴染もうとしなかったんだろ!」
4「馴染めるかよ」
1「お父さんを選んだのはお前だろ!お母さんやお兄ちゃんにも会おうとすれば会えた!中学の時連絡くれたじゃんか!」
4「どんな顔して会うんだよ、俺だって傷付いてんたんだ」
2「変にカッコつけて、傷つけたのはお前だからな!」
4「自分が1番分かってるわ。お前だって分かってるだろ!」
3「人の評価気にするのはすごい分かる!めっちゃ分かる!でも根本は絵を描くのが好きだって気持ちだろ!」
4「幼稚園の頃から絵ばっか描いてたもんな!」
3「友達も恋人も家族もいなくても、絵だけはあったろうが!」
4「描くのが苦しかったろ!描けなくて泣きながら筆握って吐きそうになりながらキャンバスの前に座ってたろ!」
1「傷ついてようが何してようが会えば良かったんだ!1年前と違って今日は本当に死にそうじゃないか!」
4「成功するなんて自分でも驚きだよ!」
2「ちくしょーごめんカナコ!!好きだから照れた!!」
4「あの時は素直に言えなくてごめん!ブスじゃない、可愛い!本当は描きたかった!!」
3「人生でずっと一緒にいたのは絵だろ!俺が絵を、俺自身を裏切ってどうすんだ!」
4「悪かったな走馬灯ども!お前らの行く末がこんなクソで!」
1「これでいいのかよ!」
2「人生のピーク俺になるぞ!」
3「まだ何でも出来ただろ!」
4「うるせーー!何が走馬灯決定機関だ!俺だって、ずっと、ずっと後悔してるわ!!」


ぶつん、と縄の切れる音。


橋本が1人部屋に倒れている。首に巻いたロープはちぎれている。
体は何ともない。一瞬の出来事だったようだ。

橋本、キャンバスと絵の具の埃を払い絵筆をとる。



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