資格の学校TAC 斎藤博明学院長を偲んで(享年69)
私は大のTACニュース愛読者だった
税理士受験予備校に資格の学校TACがあります。そこで毎月発行されるTACニュースという雑誌がありました。
長い受験生活、楽しみがないとやってられません。唯一の楽しみは学院長の「人生悩み相談室」を読むことでした。
受験中は余計な知識を入れたくないので読書などが非常に限られてきます。そんな中、学院長のコラムは読み切りで最適な読み物だったのです。
彼の人柄からか内容もユニークでした。
一番印象に残った話 「ミミズの線の答案用紙の涙」
一番印象に残ったのはやはりなんといっても、「ミミズの線の答案用紙の涙」の回でしょう。
学院長が会計士を受ける時、猛勉強のかいあって受験2か月前の全国公開模試で1位になります。
普通ならそこで気が緩むものです。しかし学院長は違いました。
誰にも負けないようラストスパートをかけるため1日6本の栄養ドリンクを飲んで、睡眠時間を2時間に削るために睡眠を除去する錠剤を多用し、限界の壁に挑戦しました。当時はまだドーピングという言葉がない時代でした。
ただ受かるだけなら誰にでもできる、目指すは圧倒的な勝利だったのです。
ところがそれが裏目にたたって試験直前、学院長の肉体は崩壊し始めます。
普通ならここでセーブします。
しかし、学院長は突進することをやめませんでした。体の異常を示す体の震え、心臓の痛みのサインを無視し、試験日まで持てばいいとさらに調子にのって強烈に体に鞭を打ち続けます。
そこいらの受験生とは格が違うのだ、とあくまで自己探求をやめません。その結果体調に異変をきたし、最悪のコンディションで試験当日を迎えます。この時、自分自身によっていじめぬかれた肉体はすでに限界を迎えていたのです。
試験会場へ向かう道中の電車の中、学院長は不覚にもダウンします。ぐーぐーと眠りこけるような姿はまるでぐでんぐでんに酔っぱらった人のようです。
へべけれになった中、学院長はそこいらの酔っぱらいと一緒にするな、私はこれでもシラフのナンバーワン会計士受験生なんだぞと心の中で声にならない声を絞り出します。
とその時、受験仲間のK君がその姿を見つけます。
「斎藤君、斎藤君じゃないか、どうしたんだ!」
「ふがぁ?ふがふがふがふが…〇×△…ZZZ」
(やぁK君、ごきげんよう、私は絶好調だ…見てわからんか?)
K君はあまりにも学院長が弱っているのをみて、すぐに救急車を呼ぼうと言い出します。それを手で制し、余計なことをするなとおもむろに起き上がる学院長。
しかしもはや弱り切った体では自力で試験会場へたどりつくこともままならず、受験仲間に両脇を抱えられながら介抱されつつ試験会場入りをします。
本試験では意識が朦朧とする中、完全にグロッキー状態で体が震えミミズがはったような字しか書けず、信じられないことに惨敗してしまったのです。はたから見るとその体で試験会場にいること自体が奇跡でした。
合格発表の日、学院長は大粒の涙を流して嗚咽します。
他の受験生よりはるかに頑張ったのになぜか落ち、ミラクルを起こす…。努力の方向性を間違った、良くも悪くも学院長らしいエピソードでした。
その後しばらく、学院長は予備校のテキストを見ると体が拒否反応を起こしてゲーゲー吐く日々を過ごしたそうです。
なんでもやりすぎはよくありません。
学院長の渾身のラストスパートを反面教師にして
私の場合、受験1か月前くらいから集中してラストスパートをかけてました。
テレビも消音でニュースの動画だけを見ていたのですが最後はもう疲れ切って見れませんでした。寝ている時以外は勉強すると決めて、睡眠だけはたっぷりととって自習室でやってました。
休日は全く設けずに連続で試験日までできる限り可能な時間をかけてやります。そうすると、毎日連続でやることにより、知識が蓄積されていくのが実感できました。
学院長の敗因は睡眠時間を極端に削ったこと、栄養ドリンク、睡眠除去薬に依存したことの2点です。それをしなければ常人は受かると分析しました。
そして持てる限りの時間と集中力を投入することがキモです。元々飲みませんが栄養ドリンクは全く飲みませんでした。
学院長のエピソードを読んで活かしました。本当にありがとうございました。
学院長の遺志を引き継いで
学院長は2020年8月亡くなられました(69歳)。
昔脳梗塞になったと書いておられたのでその影響もあったのかもしれません。
会計士、税理士では知らない人がいない巨人ですが、意外とこのニュースは知られていません。私は著名人はちょくちょくWikipediaで調べる癖があるので知りました。
学院長のプロフェッション(専門家)を育成するという志は達成されたのではないでしょうか。いつも限界を突破しようとする姿勢と受験生目線でのアドバイスは大変役にたちました。起業家としても大成功されています。
そのひたむきな姿がユニークに映りました。
学院長は普通の人が不可能と思ったことを躊躇なくチャレンジするので起業家向きの性格でした。
学院長はTACニュースでの文筆業をされていたので非常に文章が上手です。上記のエピソードも「ビジネスの論理」2005年に収録されています。「風の二重奏」2011年もお勧めです。
学院長はプロフェッションを誕生させて個人の力を発揮させようともくろみました。
果たしてそれがこの令和の世の中に何を起こすのか目が離せません。