花とおじさん。
休日に近くのショッピングモールに出かけた。
目的は、いつも飲んでいるコーヒーと去年亡くなった猫の仏壇に供える花を買うため。
ちなみに仏壇といっても、猫が使っていた「まんま台(ごはんが、食べやすい高さにできる食器台)」に、写真や大好きだったオモチャを並べているだけのものである。そこに小さな花瓶も置いて、花を飾っているのだ。
この日はかなり強風だったので、しっかり厚着をして家を出る。外は天気は良いいけれど、やはりびゅうびゅうと吹く風が冷たい。ネックウォーマーを口元まで引き上げ、コートのポケットに手を突っ込んで、肩をすくめながら歩き出す。民家が建ち並ぶ静かな通りを足元だけ見ながら、黙々と進む。
ふと、前から人が来る気配がして顔を上げる。と、同時に目が釘付けになる。
(えっ⁈なんだ?あのド派手なおじさんは?)
例えるなら、DJ KOOが山本寛斎デザインの衣装を着て歩いているような(分かり難くてスミマセン)、サイケデリックというか、とにかく奇抜な格好をした人が強風にロン毛を振り乱しながらこちらに向かって来る。
こんな極彩色な人は、ハロウィンの日に渋谷のスクランブル交差点にしかいないんじゃないだろうか。地方の、しかも普通の生活道路を歩いているなんて違和感あり過ぎだ。
(どうしよう、ヤバい人だったら…)
ちょっと怖くなった。
周りには誰もいない。
思わず目を向けてしまいそうになる衝動を必死で抑え、内心はドキドキだが顔は平静を装い、ひたすら前だけを向いて歩く。
そして、何事も無くすれ違った。
よかった。どうやら、ただ変わったファッションをしてるだけの人だったらしい。変に考え過ぎてしまった。
気を取り直して、私はショッピングモールへ急いだ。
余談だが、私は昔もっと衝撃的な格好をした人に出会った事がある。
それは何かの用事で都内に行った帰り、最寄りの駅で電車を降りると、私の目の前にセーラー服を着て三つ編みをしたおじさんがいた。
最初は、あまりの衝撃に自分の目を疑った。なんだか見てはいけないものを見てしまったような気がした。
私と同じ電車に乗っていたらしいセーラー服おじさんは、改札に向かって普通に歩いている。その時ホームには結構人がいたのだが、おじさんの周りだけ妙な空間が出来ていた。
もしやこの人は芸人さんかなにかで、ロケの撮影でもしているのでは?とも思ったが、カメラクルーらしき人は誰もいなかった。
家に帰ってから、どうしても気になったのでネットで調べてみると、どうやらこの方はセーラー服でいろんな場所に出没しているらしく、かなり有名な人だと分かった。
今も活動されているのかは不明だが、もし気になったら「セーラー服おじさん」で検索すると画像が出てくる。
実物のインパクトは、その数倍であるが。
ショッピングモールに入っている花屋さんの店先には、いつも可愛らしいミニブーケが小さな木箱に10種類ほど並んでいる。その中から好きなものを選ぶ。
今回は淡いピンクの花がメインの(花に詳しくないので名前は分からず)ブーケに決めた。
店員さんから花を受け取り、振り返って(あれっ?)と思った。
なんと人混みの中に、先ほどの極彩色おじさんがいたのである。やはり、物凄いオーラだ。
だがしかし、さっきすれ違ったという事はショッピングモールとは反対方向に歩いて行ったはず。もしかして別人?いやいや、あんなひとりクーピーペンシルセットみたいな人が、他にいるはずがない。
本日2度目の出会いも、私は目を合わせないように正面を向いてポーカーフェイスですれ違った。
自宅に戻り、買って来た花を花瓶にさしながら、あのおじさんは何者だったんだろうと考えた。
そもそも、私が見たのは本物の人間だったのだろうか?なんてアホな事まで想像した。
もしもすれ違ったあと、振り返ってみたら姿が無かったりして。
もしかしてあの人は、おじさんの格好をした、もうじき訪れる春の精だったりして。