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花火の向こうの真実を願って…    (短編小説)

今日は仕事が休みの日。何をしようか考えて
掃除をして、コンビニにでお菓子と飲み物を買い、
録画しておいた番組を見て…、
結局、いつも通り過ごしている。
テレビを見ながら、そういえば…と
携帯を開きながら、ある事を思い出した。
今日は地元でお祭りがあるんだったな…。
都会に出て忙しくしている中で
幼い頃、毎年楽しみにしていたお祭り。
彼はふと足を運ぶことにした。

チケットを買い、新幹線に飛び乗った。
窓から見る景色に心が落ち着いた。
忙しさのせいだろうか。
こんなに心が穏やかな気持ちになったのは
久しぶりだった。
駅に着いた頃には、薄暗く、もう
お祭りは始まってるだろう、丁度いい時間だった。

近付くにつれ賑やかな声が聞こえてきて
屋台から漂う、焼きそばの匂いが
僕の鼻を擽る。浴衣姿の子供達が
笑い声を上げながら、目の前を走り抜け
その無邪気な背中に、いつかの自分と
あの子の姿が重なった。
子供の頃、よく一緒に遊んだ幼馴染がいた。
夏祭りは僕達にとって楽しいイベントの一つで。
今の子供達もそうだろうな。
浴衣を着て、金魚掬いやヨーヨー釣りをして、
焼きそばや綿あめを食べながら
花火を見上げる。
僕達は、ただ目の前の楽しさに
身を任せていた…。


「今日こそは絶対、金魚掬う!」

「できるかな…金魚よりも
 ヨーヨー釣りの方が…」

「絶対、掬うんだから!…」
挑戦したものの結局、掬えなくて…。

「ごめんね、僕がもっと上手くやれば
 よかった…」
涙を浮かべて目を潤ませる彼女を見て
僕は胸が痛くなった。
「もういいよ…」小さく呟きながら
さらに顔を顰め、泣きそうな顔をした。

「待って、焼きそば食べよう!
 綿あめも!」
彼女の手を取り、屋台へと向かった。

「ほら、これで機嫌直してよ。」
焼きそばと綿あめを二人で分け合いながら
食べ、彼女に自然と笑顔が戻っていく。

「ありがとう。」
そう言って笑顔を見せた。
その笑顔に僕は心の中でホッと息をついた。

「花火始まるよ、見に行こう!」

「うん!」
僕は頷き、花火が見える場所に
走っていく。
「待って、速いよ!」

「だって、花火見逃したくないから!」
僕よりも前を走る彼女。
僕は追いつこうと必死で…
振り返った彼女が「もう、遅いよ。」
僕の手を引っ張って、また一緒に隣に並んで
走り出す。

ようやく、花火が見える場所に着いた時、
夜空に大きな花火が開いて、その瞬間
僕達は、二人で空を見上げた。

「花火の向こうには何があるのかな?」

「花火の向こうかぁ…もしかしたら、あの光の先に
 別の世界が広がってるのかも…」

「別の世界?」

「うん、だって花火ってどんどん遠くに
 消えてくだろ?きっと、その先には
 僕達がまだ見たことない景色が
 広がってるんだよ。」

花火の消えた先に何かがあると思うと
ワクワクする。まだ幼かった僕は、それを信じて
疑わなかった。


消えた花火の先に何も無いことは
今なら分かる。
でも、あの頃の気持ちを忘れたくない。
花火の向こうに広がる可能性を夢見ていた自分を
大人になってからも忘れたくないと思う。
花火が消えた先に何も無いと感じても
あの頃のような希望を持ち続けることが
きっと未来に繋がるのだろう。
そう思いながら僕は静かに空を見上げた。

忙しい日常が戻ってきても、一歩ずつ
乗り越えていけると…。そう心に誓うように。
今夜、ここで感じた時間が僕に少しだけ
力をくれたから。
明日がどんな一日でもきっとまた、
今ここにある一瞬の輝きが心に残るから。

帰り道、新幹線の座席に腰掛けながら
思い浮かぶ顔。
元気にしてるかな…。
会っていなくても何年も会えなくても
きっとあの頃と変わらず
どこかで笑っているだろう。

元気ならそれで十分だ…。

そう呟き、彼は瞼を閉じ
深い眠りへと落ちていった。




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