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それぞれの帰る場所⑤
むかーし昔のことじゃった。
父と母がお庭で日向ぼっこしていると、バサバサっという音とともに綺麗な鳩が母の膝の上に乗ってきた。
わあ!なんだなんだ!とびっくりして鳩を抱き上げると、鳩は必死に母の胸に顔を寄せて、何やら切羽詰まっている様子。
おなかが空いてるのかな?と、ニワトリの餌をやってみたら、ものすごい勢いで食べた。お水もあげたら、ものすごい勢いで飲んだ。
よく見ると、足になんかついている。それは、伝書鳩の足輪だった。
さあ大変だ!と、父と母はなんとか連絡先を調べて、鳩が迷い込んでますよ、と連絡した。
すると、「ああ、大丈夫ですよ、そのままおっぱなしてください。」と、かるーく言われた。
じゃあ、自分で帰るのかな?と、しばらく様子を見ていたが、鳩は芝生の上でくうくう寝てしまった。迷って、くたびれて、おなかが空いて、でもご飯とお水が貰えて、安心したのだろう。
そのまま芝生に寝かせておくと、イタチやドブネズミにやられてしまうなあ、と父は言って、あっという間に、出入り自由の鳩小屋を作ってしまった。
本当に器用だ。内側からも外側からも簡単に開く扉がついている。
落ち着いたら帰るだろうと思って様子を見ていたが、飛び立つ様子がない。
「ふわあっとオッパなしてあげないとだめなのかな?」
父は、鳩の身体をそっと持って、ふわり、と空に飛ばした。すると、鳩はそのままパタパタと空高く飛んでいった。
ああ、よかった、帰れたんだね、と父と母は安堵のため息をついた。
が、夕方になって、その鳩は、「ただいま〜」という感じで帰ってきて、いつの間にか鳩小屋に入っていた。
どうやら、うちが気に入ったらしい。それとも、もう戻る道がわからないのかな?
父はまた件の連絡先に電話をして、預かっているので引き取りに来てください、と言ったが、どうやらとても遠い場所らしく、迎えにきては貰えなかった。
よくよく聞くと、伝書鳩レースで迷ってしまったらしく、一度迷子になった鳩は次も迷うことが多いらしい。
もういりませんよ、と案に仄めかしているのである。
鳩は、毎日自分で外に出て、しばらく空の散歩に出ては、「ただいま〜」と戻ってくるのが日課になった。
そのうち、帰り道を思い出すかな、と思っていたら、ある時、小屋にいる鳩が2匹になっていた。あり?
そのうち、雛が生まれて賑やかになった。
雛も大きくなって、連れ立って外に出るようになって、毎日ちゃんと帰ってきていた。
そんな平和で童話みたいな日々がしばらく続いていたが、そのうち、誰も帰ってこなくなった。
どうしたんだろうね、おうちに帰ったのかなぁ、と母は今でもその行方を案じている。