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B01)飯山陽氏「東大教授・鈴木一人氏のUNRWA解説のウソとガザの未来」(2024/02/04)の感想:Ⅰ資料の参照方法


はじめに

本記事は、2024年2月4日に投稿された飯山陽氏の以下の有料noteを読み、参照資料について考えさせられたため、個人的な感想として記します。
有料記事に関する論考のため、引用は最小限にとどめます。
詳細は飯山氏のnoteをご覧ください。

なお、筆者個人は国際政治関連の学位はもちろん、政治に関連する学位や経歴を有しない、もっぱらの素人です。

飯山氏の記事の構成

当該記事の構成は、鈴木一人東京大学教授のYahooニュースへのコメントを皮切りに、池内恵東京大学教授のX投稿などを引用(※1)し、『パレスチナの難民問題の対処にはUNRWAが必要』との見解に対する批判の形でスタートします。以降は諸氏の論説を参照せず、飯山氏が選択した資料の参照とご自身の論説をもって一気に進み、最後に改めて「国際政治学者」を批判する形式で進みます。

※1:そのほか錦田愛子慶應大学教授の意見も動画サイトのスクリーンショットとして引用。

導入部の最後で「これらはウソです」と断じ、論拠として以下を論じます。
①「ガザには水も食料も大量にある」
②「ガザの人道支援にUNRWAは不可欠では」ない
②’「UNRWAへの拠出金が止まっても、ガザへの人道支援は止ま」らない
②’’「そもそもUNRWAはガザの人々に、食料も、人道支援も、ほとんど提供してい」ない(※2)
そして導入部の振り返りとして
③「日本の国際政治学者たち」に対する批判

※2:元記事では第三・第四の論点として切り出されていますが、おおよそ②の論点に集約できると考え、②’および②’’とします。

参照資料についての考察

ここでは、飯山氏が非常に多くの支持者を獲得し多大な影響力を持つ発言者である点を考慮し、①と②に関して飯山氏が引用する情報の妥当性・公平性について考えていきます。本稿では、飯山氏の政治的主張(特に②)に関する評価、および③に関する言及は極力控えます。

①ガザには水も食料も大量にある

2023年10月7日以降、飯山氏がイスラエルまたはエジプト等のガザ周辺域を現地取材したかは寡聞にして存じませんが、飯山氏は

今現在、ガザに逼迫した食糧難や飢餓の危機はありません

飯山陽氏「東大教授・鈴木一人氏のUNRWA解説のウソとガザの未来」(2024/02/04)

と断言されています。その主張の根拠として参照されているのは、ガザ市民の投稿と思われるTikTok動画1本と、COGAT(Coordination of Government Activities in the Territories:イスラエル占領地政府活動調整官組織、和名はArabnews.jpを参照)によるXへの投稿3本です。

最初に参照されたTikTok動画は、1月末頃のガザの市場の映像です。食料や飲料を配布または販売している様に見受けられます。(正確な場所は筆者には判断できませんでした)
なお、筆者が投稿者のアラビア語プロフィールを機械翻訳した限り、ガザ地区にお住まいの方のようですが、詳細は不明です。

ここで注意が必要なのは、当該動画1本と、それを補強するように、COGATのXポストを引用して、『ガザのパレスチナ人にとっての食料問題はない』と極端な結論を導出していることです。ガザは狭いと形容されつつも、とある限定的な地域の動画を参照してガザ全体を評価すべきでない点は自明であると考えます。
また、COGATの投稿(3本)について、飯山氏は『COGATがイスラエルの政府機関である』ことに一切言及していません。イスラエル政府組織の主張を無批判に受け入れ、それを明示せず読者に拡散することは、極めて不誠実な資料参照であると考えます。

COGAT:https://www.gov.il/en/departments/coordination-of-government-activities-in-the-territories/govil-landing-page

なお、COGATの投稿は(1)ガザ中部のDier Al-Balah marketとされる場所について紹介した記事[参照記事(i)]、(2)ラファのSchwarma stands、(3)pita breadsを焼いている職人を撮影した投稿です。
注)本記事ではCOGATと明記しましたので、代表して1投稿のみを参照します。

参照記事(i):

COGAT X投稿 2024年1月31日 21時41分 (日本時間)

飯山氏ご自身が、このnoteを紹介したX投稿には、購読したとみられるフォロワーから「ガザの人々が豊富な食料を食べられていることが知れ、安堵しました!」等のリプライが見られます。
現状、ガザ地区のすべての住民が安堵できる状況かの客観判断に関しては、英単語のキーワードで検索する方法もありますが、悲惨な動画や画像を目の当たりにする可能性があるため、手放しで推奨はできなせん。
であればこそ、X、note、Youtube等で大きな影響力を持つ飯山氏は、ガザの食料問題についても、正負双方の情報を参照して、読者やフォロワー、チャンネル登録者に対して、誠実に情報を伝達することが重要であると考える次第です。

②ガザの人道支援にUNRWAは不可欠ではない(②’、②’’含む)

次に、UNRWAの業務移管に関する論点に移りますが、①を引きずって食料が充実していることを補強しており、論点が変わらないことに頭が混乱します。(余談です)
内容は、COGATによる投稿を3本引用しての説明です。例として2024/01/22には紛争以降10,000台目のトラックが通過したことを伝えつつ、「我々はハマスと戦闘をしており、ガザ市民が対象ではない」などとする、宣伝的な内容です。
※繰り返しますが、COGATがイスラエル政府機関であることには触れられていません。
また、2024/01/31には、CNN日本語版が物資搬入は人質解放が条件だとして、ラファ検問所でトラックを妨害するイスラエル市民グループを報道していますが、それらについても触れられていません。

そして、UNRWAへの拠出金は停止しても問題はなく、他の国連組織が機能を継承可能との主張が展開されます。
以上①を継承した議論ののち、飯山氏は以下のように説明します。

UNRWAは現在、これらを配布する役割を果たしていますが、UNRWAのかわりにこの業務を行うことのできる国際機関、国連機関はあります。

飯山陽氏「東大教授・鈴木一人氏のUNRWA解説のウソとガザの未来」(2024/02/04)

概略『他の国際機関が、UNRWAのかわりに業務をつとめることができる』との主張です。
なお、『UNRWAが食料を配布する役割を果たしている』旨に言及しておられますが、論点②’’「そもそもUNRWAはガザの人々に、食料も、人道支援も、ほとんど提供してい」ないとの矛盾は、内緒に。

さて、現状はジェノサイド条約に基づいてICJの仮保全措置命令まで出された戦闘地域において、UNRWAを解体して他組織に移管すべきなどや否やなど、様々な意見が存在するものと筆者は理解しています。
そこで、UNRWAに代わる他組織への業務移管に関して、飯山氏が参照する資料をトレースして考えてみます。

当該記事では、飯山氏の主張を補強する資料として、以下のUN Watchの投稿[参照記事(ii)]が提示されます。
参照記事(ii):

UN Watch X投稿 2024年2月2日 1時19分(日本時間)

WHO報道官(リンドマイヤー氏)の答弁動画が掲載されていますが、この質疑に至った前後の経緯についての言及はありません。以下、Googleの機械翻訳です。(記号等は筆者が削除)

Q: UNRWA の資金が打ち切られた場合に追加のリソースが得られれば、WHO と UNOCHA は規模を拡大できますか?
UN:国連全般とWHOが必要なことを何でも拡大できることに疑いの余地はありません。
(WHO報道官クリスチャン・リンドマイヤー)

UN Watch X投稿 2024年2月2日 1時19分(日本時間)(筆者がGoogleで翻訳)

この記事を引用し、飯山氏は以下のように解説します。

WHOも、UNRWAのかわりにWHOやUNOCHAがその業務をつとめることができる、と述べています。

飯山陽氏「東大教授・鈴木一人氏のUNRWA解説のウソとガザの未来」(2024/02/04)

重要なポイントは、氏の主張と合致する『他の国際機関が、UNRWAのかわりに業務をつとめることができる』とする旨の解釈であり、これが飯山氏の主張を補強する、ほぼ唯一の参照資料である点です。なお、この解釈は飯山氏がUNRWAを批判する際にしばしば参照するUN Watchのノイアー氏の解釈[参照記事(iii)]とほぼリンクしています。
※2024/03/06追記 ノイアー氏の紹介メモを後段でご紹介しています。
参照記事(iii):

Hillel Neuer氏 X 投稿 2024年2月2日 1時22分(日本時間)

Google翻訳を引用します。

速報:国連は、UNRWAへの資金提供が停止された場合、他の機関が介入できると述べています。これは、テロが蔓延している機関(ガザだけでハマスとイスラム聖戦の工作員1,200人を雇用している)だけが食料パッケージを配布できるという不合理な考えに反論するものである。 UNRWAを解散する時が来た。

Hillel Neuers氏 X投稿 2024年2月2日 1時22分(日本時間)(筆者がGoogleで翻訳)

くどいですが、前後の文脈は不明であり、具体的な業務移管の方法論や克服すべき制約にも言及がないため、飯山氏やノイアー氏と同様の理解には、筆者はたどり着くことができませんでした
そこで、WHO報道官のリンドマイヤー氏に関し、他の発言が報道されていないか、Web検索しました。検索キーワードは単に「christian lindmeier 2024 jan feb」だけです。
筆者の環境では、先頭に以下のロイターX記事[参照記事(iv)]が表示されました。
参照記事(iv):

Reuter X投稿 2024年1月31日 6時15分(日本時間)

引き続きGoogle機械翻訳です。
なお「寄付者」は「資金拠出国」等に読み替えることが妥当と考えます。

WHO報道官のクリスチャン・リンドマイヤーは寄付者に対し、UNRWAへの資金提供を停止しないよう呼び掛け、資金提供が再開されなければ2月末以降ガザおよび地域全体で活動を継続することはできないだろうと述べた。

Reuters X投稿 2024年1月31日 6時15分(日本時間)(筆者がGoogleで翻訳)


先に引用した投稿[参照資料(iii)]から43時間ほど遡った時刻の投稿です。ただし実際に発言した日時の前後関係(同日の会見か否かを含め)は筆者には判断できません。
いずれにせよ、WHO広報官のリンドマイヤー氏は、この1月末頃の時点[参照記事(iv)]でUNRWAへの資金提供が再開されなければ2月一杯が限界との認識を示しています(氏の提示する期限の妥当性については考察しませんし、筆者には評価できません)。
一方の動画[参照記事(ii)]では、時間的な制約に言及がなく、資源に応じてWHOの機能を必要とされる範囲に拡張できる旨の発言をしています。つまり、[参照記事(ii)]の答弁はリソースに応じた単純な業務の拡張性についての言及であると、筆者は理解しました。

ICJの仮保全措置が出されている緊迫した状況で、時間に関する発言を取り上げないことに強い違和感を覚えます。飯山氏がどのような理由で、ロイター記事[参照資料(iv)]を引用しなかったのかは不明ですが、結果として情報に偏りが生じていることは確かかと考えます。
多大な支持者を擁する飯山氏ですので、資料を参照する際には、より『公平』に両論併記のうえでの論理の展開を望む次第です。

UN Watch Hillel Neuer氏に関するメモ(2024年3月6日追記)

本稿で参照したHillel Neuer(ヒレル・ノイアー氏)に関し、氏を紹介する記事がありましたので、参考メモとして書き留めた記事への参照を追記します。

雑感として

以上、飯山氏が自身の主張を補強する目的で参照した資料に、「はて?」と感じた筆者なりの見解を記しました。
政治は素人ですが、素人なりに「?」を抱いた際に、我々自身が自分で調べ、正解ではなくとも論ずべき要素を見出そうとする行為そのものが、国民の利益や国益に叶う言論空間だと考え、note先生に感想文を提出しました。
以上です。

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