B04)飯山陽氏「東大教授池内恵氏の珍妙な中東解説」(2024/02/10)の感想:Ⅱ気を取り直して
前稿では失礼いたしました。
よく「小学生でもわかるパレスチナ問題」みたいな題名の本、ありますよね。読むと歴史はわかるけど、問題の本質がわからなくなる謎の本。
あの手の本を買ってしまったと思い、魂が抜けてしまいました。
しかし、せっかく購読した記事ですので、気を取り直して読みました。
標題の通り、池内恵 東京大学 先端科学技術研究センター教授(創発戦略研究オープンラボ(ROLES)代表)に対する批判記事です。
なお、本稿でも、有料記事である点を考慮し、必要最小限の引用に留めたいと思います。
<検証記事>
<検証記事で引用している東京大学広報室の記事>
本稿の観点
前稿では、飯山氏が旧約聖書に基づき、イスラエル人は自らの居住権を主張できるとの認識について、現今の中東問題を議論する姿勢に対する「?」と感じた筆者の感想を記載しました。
本稿では、記事の本題である池内教授に対する批判の妥当性を考えてみたいと思います。
池内教授に対する批判
概要
池内教授に関する批判観点は概略以下の通りです。
ハマスによる襲撃をテロと呼ばず正当性を見出している
ハマスをアクターとして認めるべきだと擁護する
ハマスは病院を軍事利用などしていないと強弁する
UNRWAも国際社会に必要不可決だと正当化する
パレスチナ問題の起点を19世紀に求め「イスラエルが悪い」と決めつける
番外編)飯山氏への侮辱、営業妨害を繰り返す
番外編)東大は東大の博士号を持つ人間を、博士号を持たない人間が公然と侮辱することを許した
最後の2点は、4.と5.の間で展開されていますが、論点整理のため後回しにしました。これらは、中東問題をめぐる池内教授への批判の検証と本質的に無関係のため、本稿では取り扱いません。SNSを通したこれらの論点については、ほかに多数の論考がありますので、そちらをご参照ください。
※特に最後は素人には意味不明ですが、文章の熱意に火傷しそうなので触れません
1.ハマスによる襲撃をテロと呼ばず正当性を見出している
まず、最初の批判から。見出しは筆者の稚拙な要約です。
誤読のリスクがある文章なので、飯山氏の記事から引用します。
池内教授へのインタビューをもとに東大広報室が発表しているので、主語が東大広報室となり、彼らという表現は池内教授と東大広報室と読み取れそうです。
主張の内容について正直なところ、正確には誰が何に正当性を見出しているのか、読み取るのが非常に困難な文章です。
それでも敢えて、飯山氏の支持者であればこう解釈できるかな、というスタンスで解読して見ます。(誤読かもしれませんが)
無理やり解読しましたが、実のところあまり意味はなさそうです。
留意すべきは、飯山氏のSNSの発信においても頻繁に見かける、相手の表現から一部を抽出したり、使用していない表現を拡大解釈して批判するという、氏の特徴的な論法が見られることです。
ここでは、池内教授の「越境攻撃」を、単なる「攻撃」と換言し、さらに「れっきとした」まで付与したうえで、何らかの恐ろしい言説であると仄めかしている点です。論点がぼやけるだけでなく、むしろ飯山氏の言説が読者を巧妙に誘導している印象を受けます。
また、「ハマスによる襲撃をテロと呼ばず正当性を見出している」との筆者の読解が正しいとしても、なぜテロと呼ばないことがハマスの正当化につながるのか、の論拠がありません。正直なところ「おっしゃりたいことがわからない」レベルで混乱します。
なお、飯山氏が自身の記事の中で参照している東大広報室の池内教授の記事の中に、以下の記載があります。現下の情勢で安直にテロと表現することのリスクを端的にご説明されていると考えます。「対テロ戦争」の悪夢を再現して欲しくないと考えていた筆者は、多大な示唆を頂いたと考えています。(飯山氏はこの文章に言及していません、念のため)
2.ハマスをアクターとして認めるべきだと擁護する
いきなり出現する単語・表現がよくわかりません。
そこで、飯山氏の記事を引用し、ヒントがないか探してみます。
ここでは、冒頭の東大広報室記事の参照はもとより、「ハマスをアクターとして認めるべき」との言説が、参照資料や論拠もなく突然現れます。引用範囲を広げても謎が深まるばかりです。
飯山氏の支持者は、他の有料noteや、Youtube等でお馴染み?なのかもしれませんが、力尽きかけの筆者には探し出せません。(そもそも主張には論拠を。。。)
なお、直前の「反イスラエル言説を発し続けてきた」「ハマスはガザにとって必要」についても、論拠不明です。
前稿で挫けた気持ちを繕いなおして感想文に着手しましたが、論拠が見出せなく、絶望的になってきました。
3.ハマスは病院を軍事利用などしていないと強弁する
これも東大広報室の記事には言及がない論点です。
すでに昨年中に結論が出た認識ですが、池内教授をはじめ国内の識者が論点としていたのは、「司令部」またはそれに相当する規模の軍事施設の存在であると理解しています。
また、アル・シファ病院への攻撃にあたり、イスラエルはにわかには信じがたいクオリティのCGまで作って、アル・シファ病院の地下に多重階層のハマスの司令部(main headquarters)があると主張していました。
アル・シファ病院への攻撃が始まっても、大規模地下施設は見つからず。
トンネルのシャフトはコンクリートで塞がれていたと。
この時期はたくさんの記事や論評が出ており、それらを参照するまでもなく、以上で議論はほぼ終了した認識です。
池内教授は強弁されていないと判断できます。
ここで終わりかと思いきや、つい最近の飯山氏のXです。
2024年2月14日 10時56分付の投稿です。
このNew York Times(NYT)の記事で、以下の動画(スクリーンショットとして引用、赤文字は筆者追記)が提示されます。なお、トンネルの全体像は昨年12月にも仏ルモンド紙などが報じており、スクープではない認識です。NYTでは、3DCGを作成したうえで、(司令部と呼べる施設はないが)ハマスやガザ当局が主張する『軍事利用していない』との見解には疑義あり、程度でしょうか。(筆者の英語力の限界です)
そもそも、素人目に見ても司令部として使えるのか甚だ疑問です。何より当初のイスラエルのプロパガンダCGが杜撰だったことは、ほぼ自明ではないでしょうか。
この動画では、アル・シファ病院の外科病棟の地下が、何らかの物体で塞がれ行き止まりになっている(病棟に上がれない)ところも録画されています。NYTも「ニューヨーク・タイムズ紙が調べた証拠は、ハマスが病院を隠れみのに使い、病院内に武器を保管し、施設の下に水、電力、空調が供給される堅固なトンネルを維持していたことを示唆している。」(筆者が機械翻訳)との言及に留めています。
池内教授と、放送大学の高橋和夫名誉教授を揶揄するコメントと共に、イスラエルの杜撰さを補強する資料を参照されており、ポストの意図するところが筆者にはわかりませんでした。
4.UNRWAも国際社会に必要不可決だと正当化する
こちらも参照記事にない論点です。
ここまでくると、池内教授が何かしら発信するのを待ち構えて、何でもいいから批判したいと考えてらっしゃたのかな?と勘繰りたくなります。
UNRWAに関しては、B01/B02で飯山氏の論拠がUN Watch(およびHillel Neuer氏)など、一部の主張に偏っている点を論じたので、ここでは省略します。
※2024/03/26 Hillel Neuer氏関連記事の雑感メモも含めURLを追記します。
◆B01)飯山陽氏「東大教授・鈴木一人氏のUNRWA解説のウソとガザの未来」(2024/02/04)の感想:Ⅰ資料の参照方法
◆B02)飯山陽氏「東大教授・鈴木一人氏のUNRWA解説のウソとガザの未来」(2024/02/04)の感想:Ⅱ主張の前提
◆Z02)資料置き場:UN Watch ノイアー氏
5.パレスチナ問題の起点を19世紀に求め「イスラエルが悪い」と決めつける
実は、前稿の時点で読了を諦めたのは、ここです。
おそらく全体の1/4から1/3ほどの箇所です。これ以降、パレスチナ問題を3000年前から論ずべしとの言説に、ほぼすべての紙幅を要されていらっしゃいます。
※2024/02/16 訂正:筆者が読み込めていませんでした。大変失礼いたしました。3000年論のほか、池内教授の冒頭記事に触れた批判もかなりの字数で展開されておられます。明らかにミスリードする説明でした。本文は訂正線として残置し、この追加文章をもって訂正とさせていただきます。
前稿との重複引用になりますが、重要と考えますので、飯山氏の主張の根幹部分と考える箇所を再度引用いたします。
パレスチナ問題を3000年前まで遡る議論は、本稿の冒頭で申し上げた類の本で十分かと思います。前稿で申した通り、筆者は移民・領土・土地・国家のような近現代の地域問題として、パレスチナ問題をとらえたうえでの二国家解決を支持します。愚かな例ですが、我々日本人の中から記紀を妄信し韓国南西部はもともと我らの土地だとして入植する人がいれば、南太平洋のとある一部族が我々こそが縄文人の末裔だとして日本に入植しに来れば、と想像するだけで十分です。パレスチナ問題を宗教問題とせず、近現代の社会課題として対処すべき問題だと認識することは、現実的な妥当性を持っていると考える次第です。
なお、池内教授が「イスラエルが悪い」と演繹的に断定している資料は、冒頭の東大広報室の記事を含め、筆者には探し出せませんでした。
むしろ、1.のパラグラフで参照した飯山氏の論調こそ、「残虐行為はテロであり何があってもテロが悪い」とのイデオロギーに依拠されており、現状の分析に無用なバイアスがかかっていないかと懸念する次第です。
以降、紙幅を使って論説されますが、有料記事でもあるので、かなり省略します。
飯山氏は、以下のようにも論じます。パラグラフの引用ではなく、センテンスやフレーズのレベルで引用し、コメントします。
①(シオニズム以前は)パレスチナ人などというものも存在したことがなかった。
⇒相対的な呼称に関する歴史的経緯のトピックであり、先に住んでいた人の暮らしを敢えて論点から除外している。イスラエル擁護の観点からも論旨不明瞭。なおペレシテ人などの説明もなし。
②(池内氏の言説にあるのは)イスラエルが悪くパレスチナが正しいといイデオロギー性です。
⇒飯山氏自身が、ハマスの政治部門や保健当局などの存在も無視するかのように、一括りに「テロ組織」と認定し、「対テロ戦争」のイデオロギーに染まっていないか懸念する(本稿で論じた通り)
③ガザには豊かな暮らしがあり、贅沢な暮らしがある。
⇒何をもって豊かというのか、④の論点を含めて言説が撞着している
夢をもって広い世界に羽ばたく自由がないことから目をそらしている
④ハマスが一般人を搾取し、国際的なパレスチナ支援を横取りし、支援金でガザにテロインフラを構築し、テロと私服をこやすことばかりにカネを使ってきた。
⇒結局、ガザは豊かなのか論理の一貫性がない、『横取り』についてはB02で、一部論考済み
最後に、以下の引用を2つ。
まず飯山氏は池内教授の東大広報室文書から、「2020年にアラブ首長国連邦(UAE)とイスラエルが国交を正常化しました」との文言を参照し、さらに以下を引用します。
そして、飯山氏は以下のように反応します。
本文を読めば、サウジアラビアとの国交正常化に向けて、イスラエルがUAEとサウジアラビア双方に対して働きかけていた状況の解説である、点は明白であると考えます。
UAEとの国交再交渉など、論外ですし揚げ足取りとしか思えない論説です。(やっぱり、何でもありで池内教授叩きの機会を待っていたんですか?と勘繰る自分を、いやいやいや、とたしなめます)
ここまでで、この記事のおおよそ2/3くらいまでです。
飯山博士にも本当に申し訳ありませんが、これ以上の感想文の執筆は無理でした。
おわりに
えらい記事を購読したな、と感慨深いです。
全体の6割から7割程度に関しての感想と、検証とも言えないコメントをしてみましたが、素人の論考であり、プロの方から見ればとても公平とは言えない代物だと思います。
さりとて、筆者なりに可能な限り平坦に書いたつもりです。
飯山氏が得意技とする、言説の抽出と拡大論法は、いつかサンプル集を作りたい(作らない)です。
ふろく
学研さんが、東京大学 鈴木啓之特任准教授の監修のもと、「1からまなべる! イスラエル・パレスチナ紛争の理由と歴史」というコンテンツを公開されていたので、共有します。
東京大学中東地域研究センター(UTCMES)のXポストを、放送大学高橋和夫名誉教授がご紹介されたポストで出会うことができました。
<改訂履歴>
2024/02/16
飯山氏の原文構成をミスリードする表記がありました。本文中に補足文章を追加し、訂正いたします。大変失礼いたしました。
2024/03/26
誤字等の修正を致しました。