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関東めぐり愛①・高麗川
小学生の頃、父親に連れられて埼玉県の高麗川へよく釣りをしに行った。約20年前の高麗川は曼珠沙華が満開になる季節を別とすれば、休日でも閑散としており、釣りをするには打ってつけの川であった。そこでは鮎や鮒などが引っかかり、高麗川の水質も綺麗だった為に、それらを焼き魚にして食べたものである。
この高麗川には主に私が小学5年生から小学6年生の時、すなわち2003年〜2004年にかけて頻繁に訪れていたのだが、強烈に覚えているのは釣りそのものの記憶よりも、高麗川近くの民家でトイレを借りた時の事である。当時の高麗川から西武池袋線の高麗駅までの道のりにはコンビニがなく、よってこの途中に便意を催した際には駅まで我慢するか、野糞をする他なかったのである。で運悪い事に当時の私はある時、この道のりにおいて便意を、しかも下痢が出そうな便意を催してしまったのだった。駅までは歩いて5分、走ったら3分で着こうかと云う距離になってのハプニングである。狼狽した私は父にその事を訴えると、すかさず「我慢しろ」と言ったが、既に我慢など出来ない程腹が切羽詰まっていた私がそれを拒否するや、何と父は見ず知らずの民家にいきなりインターホンを押し、その民家の主人にトイレを貸してくれるよう、丁寧に訳を説明しながら交渉してくれたのである。
でなんと、その民家の主人は全く初対面である私にトイレを貸してくれたのだった。そのトイレは当時でも珍しい汲み取り式のトイレだったが、構わず私は腹の中の不要物を出し尽くした事を覚えている。そうして私は早速主人に感謝の言葉を述べ、その場から去ろうとしたのだったが、なんとその主人は私が下痢を出した事を知っているのに、アイスキャンディーを私に渡して来たのだった。
結局それを受け取った私は外で待っていた父親にそれを渡したが、その主人の親切なのか、不親切なのか分からぬ人間性に頭を傾げざるを得なかった事をよく覚えている。そしてそれから10年が経った2013年に私は久々に友人と高麗川を訪れたのだったが、例の民家は跡形もなく取り壊されていた。それを見て私はなんとも言いようのない複雑な気持ちに沈んだのだった。
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