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名もなき詩が好きな理由

Mr.Childrenの「名もなき詩」が好きである。名曲なので色んなバージョンがある事は知っているが、特に1996年の6月に日本テレビのFANで放送されたこのバージョンが僕は好きである。

特に曲の序盤で「苛立つような街並みに立ったって、感情さえもリアルに持てなくなりそうだけど」という歌詞を早口で歌っている桜井和寿さんが素敵だ。そう、この曲が発売された1996年の街並みも今の街並みも大して変わらないかもしれないが、(いやより1996年より今の方が本来の人間が持つ魅力を発散しにくくなっている街並みになっているかもしれない。)高度経済成長が終わった後の昭和50年以降の日本の街並みは、アスファルトも完全に舗装されて便利にはなったものの、ビルやマンションが連なっていて無機質な冷たい印象をどこか漂わせているので、僕にとってはどこか苛立つ街並みなのだ。そんな街並みで生きていたら、感情さえもリアルに持てなくなってしまうのは仕方のない事だとも思う。

その後の「こんな不調和な暮らしの中で、たまに情緒不安定になるだろ」という歌詞もぐっと心に響く。この1996年はバブルが崩壊してまだ間もない頃だが、人々は日常生活の中で不安や焦りを感じ始めていたのかもしれない。当時4歳だった僕には何も分からないが、きっとそうなのだろう。だからそんな物質的にはまだ豊かだけれども、精神的な豊かさがなくなっている不調和な生活の中では、情緒不安定になる大人が増えても仕方のない事なのだろう。確か自殺者が年間3万人を超えるのはこの2年後の1998年の事だった気がする。日本社会はこの時でさえもうすでに行き詰まりを迎えていたのかもしれない。

そして「名もなき詩」と言えばやはりサビだ。「あるがままの心で生きられぬ弱さを、誰かのせいにして過ごしてる。知らぬ間に築いてた自分らしさの檻の中でもがいてるなら、誰だってそうなんだ。」僕はこのサビを聴くたびに、人生の真理をついた凄い歌詞だなぁと思ってしまう。知らぬ間に築いていた自分らしさの檻の中で、とかよくこんな言葉を思いついたものだと思う。25歳でこの曲を作った桜井和寿さんはやはり天才なのか。

名もなき詩は厳密に言えば恋愛ソングなのだろうが、恋愛をイメージしなければ楽しめない曲でもないと思う。特に若者の焦りや苦悩を代弁している曲だとも思うので、青春ソングだとも言えると思うのだ。ただ思えばこの曲が誕生して既に28年が経とうとしているから驚きである。語り継がれる曲はやはり歌詞が色褪せないという事なのだろうか。

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