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追いつかれ追い越され

 私は70歳頃までは普通に歩いていたんだと今思えばですが、それが登山道でさっきまで見えなかった後方の人があっという間に近づいて「コンニチワ」「スミマセン」と言って先に行ってしまう、私は気持ちを整理して覚悟を決めたのです。この先も歩き続けるためには自分のペースで休憩、立ち休みを適時取り入れ何人に追い越されても笑顔で言葉を交わし先を譲る、これを守ることにしたのです。それに体調の具合でその日頂上まではと思った時、無理せず引き返す事を心に決めたのです。今はおおよそその行動を実践しています。
 今からだいぶ前になりますが、私が65歳の時、北アルプス新穂高温泉駅から4時間余りの鏡平山荘で東京新宿の登山者83歳と2階で隣り合わせになったことがあります。定年まで国土地理院に勤めていて、ここ北アルプス周辺も詳しく、私と色々楽しく話を交わしたのですが、家族に心配されながら好きな山の自然から離れられず挑戦している姿が、一晩話を伺っているうちに私もこの人の年齢になっても山を駆け巡ることが出来るだろうかと考えたと思うのですが、その人と会ったことで私の山への憧れが強くなったことは確かだと思うのです。私に大きな目標希望を与えてくれた人だったと今も思っています。
 翌朝、東京の人は山荘から稜線に出て弓折から笠ヶ岳へ行くと言っていましたが、私が槍の左から日の出を撮ろうと準備の所でまた対面し、熱い別れに手を振って行ってしまったのです。

                柳田 武男 83歳


鏡平山荘


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