季語「夏帽子」を詠んだ句より一句
空色のリボンとりかえ夏帽子 白石茶子
目をつむると、帽子を被ってにこにこしている茶子さんの姿が思い浮かぶ。色白でふっくらした顔立ちにとても帽子が似合っていた。茶子さんと帽子は切り離せないのだ。
茶子さんの句は心境を詠んだり、実景の表現がユニークだったり、目の付けどころが面白かったり実に多彩だが、生きる者や自然へのやさしさに満ちた句が多い。「天空に夕日になりたき柿ひとつ」という洒脱なセンスが冴えた句もあるなかで、あえてこの句を取り上げたのは、とても茶子さんらしい句だからだ。
おそらく、この句の成り立ちを聞けば「ほんとうにリボンを替えたのよ」と答えが返ってくると思う。でも「リボンをとりかえ」と言う修辞はなかなか誰にでも書けるものではない。
夏が来たと感じたある日、茶子さんは去年被っていたお気に入りの夏帽子を取り出した。すると去年仕舞う時には気づかなかった帽子のリボンの色褪せに気づく、そこで茶子さんは思ったのだ。「そうだ、帽子さんが元気になるようにリボンを替えてあげよう」。この句にはそんな気持ちがこもっているのだ。
この一見さりげない句は、あらゆるものへのやさしさを大切にして生きてきた茶子さんだからこそ詠めた句だと思う。
茶子さんは俳句の号で、本名は白石冬美さん。声優でラジオパーソナリティだった方でTBSラジオの深夜放送番組「パックインミュージック」で野沢那智氏とのコンビで金曜日のパーソナリティを務めた。この時代に受験勉強だった方は、きっと記憶にあると思う。受験生にとても人気のある番組だったからね。
2019年に虚血性心不全で亡くなられた。長年、俳句を詠まれ、僕とも句会をご一緒した。座を和ませる素敵な俳人でもあった。(丸亀丸)