馴れ初め編②
↓こちらの続き
前回の最後に予言のような予感のような不思議な感覚があったと書いたのだが、
説明しておかなければいけないのは決して夫が私の好みのタイプではなかったということ。
例えばこういった場合相手が好みのタイプ、はたまた一目惚れでもしていたのならこういった予感は「願望」のような形で頭に浮かんだということもあるだろう。
しかし19歳の私にとって、ぱっと見て10歳以上の年の離れた人とどうこうなるという概念すらなかったし、正直夫のルックスは私の好みとは真逆と言っても良かった。
もちろん話した瞬間に優しい性格がわかる夫に悪い印象は全くなかったのだが。
話のつづきに戻ろう。
数時間の消灯時間が終わり食事が配られはじめた。
CAさんたちが食事を配膳しつつ飲み物を聞いててまわったりする中私たちはまた話はじめた。
「寝られましたか?」
「うーん、あんまり・・」
などと再開したと思うが
ここから私たちの会話は着陸までの数時間(おそらく4、5時間)ノンストップで続く。
これは後にわかったことだが夫はとにかく話好き。
誰とでもしゃべってしゃべって仲良くなる。
という前提がありつつも私たちの相性ははじめから良かったように思う。
どんな会話をしたか今となってはもうあやふやだが、夫の学生時代の話や私がなぜNYに行くのか、どんなミュージカルが好きなのかなどを次から次へと話した。
そしてそろそろ到着するという気配が機内に立ちはじめた。
その頃くらいに夫は紙にさらさらと自分の電話番号と苗字を書いて、
「もしなにか困ったことがあったら電話して」と言って渡してくれた。
良い人だなと思っていたので嬉しかったのだが、わたしの意識はもはや間もなく到着するマンハッタンの街へ向いていた。
いよいよ着陸。
この年は大雪で白いNYが見えた。
空港に着いた飛行機はゆっくりと移動し席を立つ時間が来た。
私たちは通路をなんとなく一緒に歩き始める。
この時夫は前列に座っていた仕事関係の連れを紹介してくれた。
ただなんとなく私たち二人は入国審査の時も一緒に行動し荷物を受けとるところまで連れだっていた。
そして荷物を受けとると同じ機内の離れた席にいたもう一人の仕事関係の男性を紹介してくれ、いよいよ別れの時が来た。
「じゃ、気をつけて」
そう言い合って別れた。
寂しさもなくはなかったが、完全にはじめて見るNYへの興奮が私の中を占めていた。
スーツケースをひいて駅の方へ踏み出す。
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こうして私の一人旅は始まった。
観光をしたり、念願のミュージカルを見たり買い物をしたりと刺激的な日々が1日1日と過ぎていく。
しかし、
博物館を見物しているとき、
美術館にいるとき、
街を歩いているとき
ふと、『あの人が今一緒にいたらもっと楽しいだろうな・・』と思うことが何度かあった。
そして何より日本人恋しかった。
たった1週間の旅行だが10代の私は寂しがりだったようだ。
無償に日本語で会話したかった。
滞在もあと2日を残した日、あのメモ書きを見て私は迷っていた・・彼に電話すべきか。
電話番号を渡された時「なにか困ったことがあったら・・」と言っていた・・別に困ってはいない私は電話しても良いものか迷いに迷った。
それにそんな大人の男性に電話して「食事でも・・」なんて言ったことがなかった。
この時点でも別に好きとか、気になるとかそういう感情があるわけでもなかく・・ただなんとなくこの街で彼に会いたいと思った。
たぶん旅行ハイのような感覚もあったと思う。
旅の恥は・・とも言うしとついに掛けてしまった。
呼び出し音が鳴り、
ポツっと応答する音が聞こえ周囲のざわめきが耳に入る。
「はい、もしもし?」
・・・・出た!
つづく