日本酒、酒販における蔵元の哀愁

webで拾った情報だが長野県には日本一多い7名の女性杜氏がいてそれぞれが評価の高いお酒をつくっているのだそうだ。(2022年のweb情報)

女性杜氏にはますますご活躍いただきたいと思うが、女性を押し出してマーケティングをはからざるを得ないところに日本酒の哀しさを感じることがある。

誤解のないように言っておくが、活躍中の女性杜氏は、女性であることを加点優遇されて酒が評価されたわけではなく、酒造りの実力が鑑評会等の公的機関から認められている。
彼女らには良酒を造る才能があり、それがじっさいの需要や高評価につながっているだけのことで、おいしいと感じた消費者にとって杜氏の性別は関係がないことは言うまでもない。

しかし消費者目線ついでに言えば、日本酒を選ぶ過程で「関係がない」性がけっこうな訴求をしていることに気づくだろう。きっとあなたは「女性杜氏」に感心をもったはずだ。

結局のところ女性を押し出してマーケティングをはからざるを得なかった酒造関係者に哀愁を感じてしまう。

この哀愁の正体を男女別に解剖してみたい。

酒造にたずさわる女性の哀愁は消費者コメントに「女性らしさ」とか「フルーティ」が入ってしまうところ。
女性らしさ、フルーティ、いいことじゃないか、とお思いになるかもしれないが、普段あまり日本酒を飲まない中産階級が蔵元で買ってきた飲みやすい吟醸酒を「女性らしい」とか「フルーティ」とか形容するのは軽薄で女性杜氏を念頭にしていたらなおさらだろう。

なんていうか、飲みやすければいいのであれば蔵元の吟醸酒じゃなくてサントリーの「ほろよい」でも飲んでおけばいいのでは──と思ってしまうのであり、こうした節操のない消費者にアピールするために女性杜氏を押し出していくことは、やはり哀愁と言わざるを得ない。

だいたい男性杜氏のつくった酒には「男性らしい」なんて形容は付かないのに女性杜氏の酒には「女性らしい」という形容が付くのは一種の差別であって、女性杜氏だって力強い飲み口を目指すことだってあるだろうに「フルーティ」とか言われちまったらどうするんだという話である。

逆に酒造にたずさわる男性の哀愁は「女性杜氏」を押し出して売れている酒と横並びで売っていかなければならないことの憂いである。
男たちは、決して口には出さないだろうが、いい日本酒をつくっているのに「女性らしい」とか「フルーティ」とか、もっともらしい形容をつけられて女性が押し出された酒が売れている現状は苦々しいものにちがいない。
だから日本酒は哀愁なのだ。

2006年、長野県のとある町でアメリカ人女性が酒造場の代表取締役に就任した。彼女は蔵元の活性化と町おこしに貢献したと言える。ただ性や容姿にたのんだマーケットは、やがてエロス資本が駆け抜けた痕跡──のようになる。悪意はなかったのであろうが、この国で頻繁に使われるマーケティングだ。

『セーラが小布施を離れた後に、小布施堂と桝一市村酒造場代表の市村次夫は小布施時代の彼女について、着眼点や突破力・発信力を評価する一方、桝一市村酒造場に作った宿泊施設の建設時に建築家との意思疎通が途中から障害を来したことや、「同時代に同じ事に携わった人には、何かしらの傷として残っているところ」の存在を挙げ、「光の部分と同時に影の部分もあって、それは拭いきれないと思います」と述べた(かかわった人がいなくなった後に「歴史」として見られたときには「光の部分だけが輝いて見えてくるのではないでしょうか」とも話している)』
(ウィキペディア「セーラ・マリ・カミングス」より)

女性銭湯絵師のように女子らしくないことに女子を充てることで俗受けをうみだすエロス資本マーケティングがある。しかし現代、銭湯絵師が仕事として成り立つのだろうか?だいたい、いま日本に銭湯がいくつあり、そのうち壁面に絵を描いてほしい銭湯がいくつあるというのか?

男臭い仕事を女子がやったら絵になる──という仕事にじっさい就いた女子に思うのは、おしゃれさか、うさんくささか。どちらを思うかは各人のリテラシー次第だが、たいていすぐに答はでる。

すなわち悪名高き「美術館女子」のごとく、写真とインタビューでコラムを埋める記事のような世界がエロス資本マーケティングであり、日本酒のマーケティングがときとしてそれに見えてしまうことを哀愁と表現したわけだが、誤解のないように再々言っておくが女性杜氏は実力と才能をそなえた職人であり、決して女性をだしにしているわけではない。

現代のアルコール飲料の種類は百花繚乱なので日本酒が劣勢にならないよう日本酒製造者たちがいろんなピーアールを試みていることは理解できるし、わたしが協会長だったとしてもやはり現況のように女性杜氏の蔵をフロントに押し出して、全体のイメージアップをはかるだろう。しかしだから哀愁と言っているわけでもある。

いいなと思ったら応援しよう!