写真集制作の工程(前編)
福島県を拠点に写真家として活動している熊田誠です。
今回は2023年4月に出版しました写真集「海とはなにか」をクリエイターの視点で解説します。
写真集制作について、撮影や編集を誰がどのように行うかでさまざまな形態があります。本作の撮影は写真家が行い、それ以外の編集・制作は専門家チームにお願いするスタイルでした。
例えるなら、写真家が漁師で編集が料理人のようなイメージ。
漁師さんが料理人も兼務するケースもありますが、僕にはその器用がありません。
ただ、写真集制作を2回経験した身からすると、編集ができる人にお願いした方が良いと思います。理由は後ほど。
写真集制作の工程(前編)
編集チームとの顔合わせ
みなさんは写真集制作にどんな人たちが関わっているかご存知でしょうか?
僕のように小規模な写真集制作でも、主な登場人物が5名はいます。
写真家、ディレクター、デザイナー、制作進行、プリンティングディレクターです。
2022年11月某日。プリンティングディレクターを除く4名が、1st写真集「霞が晴れたら」からブックデザインを担当されたTOR DESIGNの橋詰冬樹さんの事務所(杉並区)に集まり制作の打合せがスタートしました。
橋詰さんは常に僕をフラットにみてくれていて、無くてはならない存在。
写真展のポストカード、案内板のデザインなど全てお願いしています。
本作からは、新たに編集として写真史家・写真評論家である打林俊さん。制作進行に(株)山田写真製版所の澤崎達雄さんに加わってもらいました。
事前に、撮影されたセレクトが完了済みの写真は、チーム内で共有されています。この日は、僕がどんなことを感じて写真を撮ってきたか雑談を交えて話をしつつ、写真集のサイズ・帯を含めた表装イメージの共有、予算、ロット数を決めました。
細かいを話をするというより、お互いに顔を合わせてどんな人なんだろう感じとるようなもので、リラックスした雰囲気の中で4名+α(4歳の息子 熊田士恩)キックオフ的な形で打ち合わせを終えました。
この場に制作進行の澤崎さんがいることが重要で、制作物は予算や納期など縛りがあります。希望の仕様で予算内で収まるかどうか、納期はクリア出来るかを聞きにくい部分を答えてくれます。
写真家も編集も安心して仕事ができます。
編集が入ること
12月中旬、編集の打林さんから僕にPDFで「編集ご提案書」が届きました。
そこには、今回の写真集がどういった立ち位置で、何を伝えて、どのような方向に向かっていくのかが示されていました。
「写真家と編集の向いている方向性が、ズレないように言語化して整理するのだな」と驚いたことを覚えています。
なかでも一番驚いたのは、打林さんから「抽象的・曖昧さと未来を表現する要素の写真がほしい」をカット増しのオーダーがあったことです。
おもな追加のカットは2枚でしたが、共有するイメージの写真が表現できす、12月〜翌年2月位まで何度か現場に足を運び撮影しました。
客観的に写真を見て活かしてくれるのは、編集あってこそだと思います。
僕はこれまでに写真集は300冊程度しか見たことがありませんし、制作には2回しか携わっていません。
一方、編集チームは何千冊近く読んだり、制作に関わるいわばこの道のプロ。
わずかな知識や経験で自己主張するのではなく、素直に彼らの話に耳を傾けることが大切だと思います。
写真集の印刷・製本直前までのやり取り(写真入稿〜バラ校〜再校正の流れ)
2023年2月末、写真集に使うリサイズ済みの写真とステイトメント(作者の声明文)、自己紹介を編集チームに入稿しました。
その後、3月3日にバラ校(入稿した写真データをプリントしたもの)と束見本(帯と本体からなる写真集の外側だけの状態)が自宅に郵送で届き、実物のプリントの色味、写真集の外観確認を行い、ZOOMで感想をやり取りをしました。
このタイミングで(株)山田写真製版所の高智之さんが加わり、プリンティングの細かな色味の指示を受け付けてくれます。
例えば、
◯上の隅2ヶ所だけ暗くしてください。
◯全体の黄色がかった部分を抜いてください。
◯もう少し、淡いイメージの青にしてください。
◯余計な写り込みがあるので見えないようにしてください。
かなり細かい要望に応えてくれます。
校正を重ねることで、写真家や編集サイドが「この色だよね!」と共通認識となるプリントに仕上がっていきます。
バラ校の確認を終えたら、日をあらためて(株)山田写真製版所東京本部(中野区)で再校正の確認へ。
3月10日、編集チームと全員顔を合わせて再校正の最終確認となりました。
ビルのワンフロアが東京本部となっており、室内には大型の業務用プリンター、白衣を着たプリンティングディレクター、営業スタッフの皆さんがたくさんいます。
通路を抜け奥にあるミーティングルームで打合せがスタート。
写真にあるように、再校正のプリントを確認した後に直しがあればPDに伝えます。
ちょっとでも色味に違和感があれば質問をしてみるのが大事です。
「やっぱりそう感じます?」とか、「僕はそんな風に感じないからそのままでいいんじゃない?」とその場ならではの聞きやすさでお互いに確認ができます。
基本的にはこの場で確認を完結させます。(最終局面である印刷所でのプリントに立ち会えば、若干の色味の微調整はできます。繰り返しになりますが、直しがあるならこの場が最後と思った方が良いです)
再校正が終わると、山田写真製版所の本社がある富山市にデータが渡り、印刷・製本作業が始まります。
編集チームが全員で集まるのは、この日が最後。
色んな方が加わって、工程ごとにバトンを渡しながら進んでいきます。
名残惜しいのですが、次の写真集の制作できっとまた会える。
そう自分に言い聞かせ次に向かいます。
高校生の文化祭を進めた時のあの感動、個人的な体感では5倍以上の楽しさが写真集制作にはあります。
僕のように「自分らしい写真や表現ってなんだろう」と迷ったことのあるフォトグラファーがいるなら、客観的に作品を見てくれる専門家がいることで、その答えに近づけると思います。
次回、写真集制作の工程(後編)では富山県で行われた印刷工程の様子をお伝えしますので、是非noteの登録をお願いします!
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