「斉藤由貴 / 卒業」~日本のポピュラー音楽史を創った曲 Vol.61~
「斉藤由貴 / 卒業」
作詞;松本隆
作曲;筒美京平
編曲;武部聡志
~日本のポピュラー音楽史を創った曲 Vol.61~
(動画URL:できれば再生しながら、お読み下さい)
https://www.youtube.com/watch?v=oSqTaVzqPIk
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(2016/06/26 記)
<楽曲の概要>
斉藤由貴、1985年リリースのデビュー・シングル。
'80年代初頭からの本田恭章の諸作、そして’84年にユーミンのプロデュースした小林麻美の名作アルバム「CRYPTOGRAPH〜愛の暗号」でアレンジャーとして注目されてきた武部聡志が、はじめてしっかり組んだアイドルが斉藤由貴で、このデビュー曲から'88年辺りまでの斉藤のシングルAB面・アルバム全作品の、ほとんどの曲のアレンジを手掛ける事となります。
また、そこでの経験・手法が、種ともこ、KATSUMI.....など、そして17年後の一青窈のプロデュースへと繋がってゆきます。
「卒業」は同じく、松本・筒美コンビの作品である 、'75年「太田裕美 / 木綿のハンカチーフ」の続編として発想されたものと言われ、都会へ出て行く (出て行ってしまった) 男性を想う女性の気持ちが歌われています。
大まかな曲構成は (カッコ内は小節数)
・イントロ (2+8)
・Aメロ (8+8) +経過句 (4) =この20小節を2回繰り返し
・サビ (8)
このAメロとサビの小節数の差と、(そして私のようなリアルタイム世代は) この曲のテレビCMの印象の影響もあるのかもしれませんが、個人的にはサビよりもAメロに、強く魅かれます。それには音楽的な理由もあるのですが、それは次に書きます。
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サウンド的に見てみると、
・イントロ
最初に耳に入る、印象的なシンセのシーケンス音 (細かいリズムも右から鳴ってます) から、シンセ・ハープ的グリス、その後、トレモロのかかったマンドリン的な音色→木管アンサンブル→イントロをしめるフルートのトリルが順に登場、たまりません。
イントロ全体で "青春の希望と、ほろ苦さ" みたいなものを感じます。
ちなみに、時代的な事もあり、ここのシンセの音作りと打ち込みだけで、かなり時間がかかったとの事です。
・Aメロ
ヴォーカルが入り、「制服の胸のボタンを♪」「下級生たちにねだられ♪」などの、フレーズの終わりで歌の力が抜け、ビブラートがかかるという、このウィスパー的な唱法、そしてその後に "カン" と入るクラベスのリズムと音色が絶妙です。このクラベスは、Aメロの間、2小節ごとの4拍目に鳴り続けますが、この曲のカギの一つです。
その後の「ほんとうは嬉しいくせして、 ンン~♪」の「ンン~♪」のところ (歌詞には書いてないのですが) いいですね。
'80年代アイドル歌謡で言うと(この曲の3ヶ月前にリリースされた)「菊池桃子 / 雪にかいたLOVE LETTER」エンディングの「Merry Christmas」というウィスパー・ヴォイスに匹敵する名歌唱だと思います。
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また、この楽曲を聴くうえで、欠かせない関連作品として、下記の作品があります。
・「小林麻美 / 哀しみのスパイ ('84年)」
作詞;松任谷由実、作曲;玉置浩二、編曲;武部聡志
・「斉藤由貴 / 白い炎 ('85年)」
作詞;森雪之丞、作曲;玉置浩二、編曲;武部聡志
(上記の "哀しみのスパイ" のアイドル版という構想)
・「薬師丸ひろ子 / あなたを・もっと・知りたくて ('85年)」
この曲と同じく松本・筒美・武部トリオによる
また、武部は強者メンバー (武部、スガシカオ、小倉博和、根岸孝旨、屋敷豪太) によるバンド "kōkua" も始動中、こちらも気になります。
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<「卒業」参加ミュージシャン>
・武部聡志 (Keyboard)
・浦田恵司 (Synthesizer Programmer)
・木村 誠 (Percussion)
・ジェイク.H.コンセプション (Saxophone、Flute)
・比山貴咏史 (Chorus)
・木戸やすひろ (Chorus) 他
(注意・CDにクレジット記載が無いので、川瀬泰雄ほか著の「ニッポンの編曲家」よりデータ引用しましたが、完全なものではないと思われます)
(文中・敬称略)。