
1500字小説 三角クローバー・ミチコ編 No. 3
─ 私が愛した男たち ─
次の日、会社に行くと、川上君は黙り込んで無口だった。
ミチコが給湯室で、珈琲を作っていたら、後に川上君が立っていた。
「僕、夜に電話をしたんだけど?」
「どうして出てくれなかったの?」
川上君はミチコの側で、低い声で言った。
ミチコは、気まずかった。衝動で電話番号を渡したものの、気持ちの整理が出来ていないのだった。
「ご免ん、昨日は疲れて早めに眠ってしまったの。」
「それに、誰からの電話か解らなかったから…。」
「じゃあ、今、電話するよ。」
「これが僕の電話番号だからね。」
「今週の金曜日の夜、カラオケに行かない?」
「う~ん、どうしようかな?」
「昨日も言ったけど、友だちとしてだからね。それ以上の意味はないから!」
川上君は、少し怒ったように話した。あまり拒絶すると変に思われるので、行くことにした。
「あの、川上君さ、会社では秘密にしてね。」
「何を?」
「何って、カラオケに行くこと。」
「誤解されると困るから、みんな好きだからさ、噂話し。」
「Ok 、分かった。今まで通りにしよう。」
そう言うと、片目を瞑ってみせるのだった。三個年下だけど、川上君は馴れているような気がする。もしかしたら、遊ばれているのかな私?
まあ、でも、このまま30まで男を知らないというのもな~。
ミチコは、すっかり川上君と付き合う前提で考えていたことが、可笑しくて一人で笑った。
何事もなかったように、席に着いたが隣には川上君がいるのだ。
彼は、真面目にパソコンを見ていて、ミチコが座っても気付かない風だった。
ミチコは、蓮田をそっと見た。蓮田は、いつも疲れていた。最近は、お弁当も持って来ていない。
退社時刻になると、さっさと帰り支度をするのだ。そうして、ミチコの側を通る時、チラッとミチコを見る。
「すまん、用事があって先に帰るよ。」
「お疲れ様でした。」ミチコは、明るく挨拶をしていた。
蓮田の疲れた顔が気になっていた。
川上君とは、普段通りに会話をし、仕事の話しをしていた。
木曜の夜に、川上君から電話が来て、カラオケ店『マングース』で、6時に落ち合うことにした。
その店をミチコは知らなかった。川上君が言うには、会社の近くは不味いので、隣街のカラオケ店にしたと言う。
隣の駅から直ぐのところで、分かりやすいそうだ。各々の車で別々に向かうことにした。
(どうしてこんな面倒な事になっているのだろう。)と、ミチコは思った。
別に不倫をしている訳でもないのに。付き合っている訳でもないのに。
カラオケ店『マングース』に、先に到着したのはミチコだった。
母には、遅くなるから夕飯はいらないと言って出て来たのだった。
神経質な母は、
「あんた、悪いことをしてないでしょうね。」と、ミチコの顔をまじまじと見て言った。
「後輩の川上さんとカラオケに行くだけだよ。」
母は、特にお洒落もしていないミチコを見ると、安心したようだった。
「あまり、遅くならないうちに帰って来るのよ。夜は物騒だからね。」
「ハイハイ。」
ミチコは、カラオケ店に先に着いたので、食べ物を注文した。飲み物は好みがあるので注文はしなかったが、ポテトチップスとピザを注文した。
ミチコが注文をしてから程なく、川上君がドアを開けて入って来た。
会社の作業服とは違って、大人っぽく見えた。
「ごめん、遅くなって。待った?」
「ううん、私も今着いたところだよ。」
「ポテトチップスとピザは注文したよ。」
「飲み物は、川上君が注文して。」
「ミチコさんは、何を飲む?」
「私?わたしはコーラでいいよ。」
「じゃあ、僕もコーラにする。」
フロントにコールをして、ミチコの向かいに座り爽やかに笑った。
─ 三角クローバー・ミチコ編 No. 3─