政治的人間オモダカ氏の経営する、ポケモンリーグという名のフィンテック企業
2023/9/18
先日、ついにポケットモンスタースカーレット・バイオレットの追加DLCが配信された。
せっかくなので、以前からポケモンスカーレットをプレイする上で頭の片隅にあったあの地方の最高権力者について、考えた事を書いておきたい。
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1.政治的人間、オモダカ
1.1権力においても権威においても至高の存在、オモダカ
ポケモンスカーレット・バイオレットの舞台であるパルデア地方には、揺るぎない最高権力者がいる。
オレンジアカデミー理事長にして、ポケモンリーグ委員長、かつ全てのチャンピオンの上に立つトップチャンピオンという、権力においても権威においてもパルデア地方の頂点に立つオモダカ氏である。
作中のチャンピオンロードがメインの出場だが、このエピソード全般にわたり彼女の「台頭してきた若い連中には、絶対に権力は渡さないぞ!」という強靭な政治的人間としての意志が感じられて、非常に好感が持てる。
・ポケモンリーグ委員長の権限を使って(推測)トップチャンピオンという名誉職を作る
⇒ポケモンの強さが社会的地位に直結するあの世界において、オモダカに勝ってもオモダカの優位性が揺るがないというルールを権力で決めてしまったのは実に凄い。オモダカ氏一人だけ、果てしない殺し合いの輪廻を抜け、観客としてワインを飲みながら殺し合いを観戦する地位を作ったのだ。
・優秀な若手のリクルートに余念がない。
⇒しかし、あまりにも敗北していれば権威が揺らぐ可能性があるため、自分を敗北させそうな若手は将来のポジションを餌に自分の部下になるように勧誘する。潜在的な脅威を力として取り込む事に余念がない。事実、四天王もそのようにリクルートした。
・街の顔役にジムリーダーとして業務を委託し、間接的に街をグリップしている。
⇒パルデア地方には立法、行政、司法の各機関が存在しておらず、住民間の揉め事は各街が顔役を中心に寄り合いを中心とした自治で解決していると推察する。それならば、その顔役にジムリーダーの業務を委託し、資金提供を行うことで、彼らを通じて街の寄り合いに影響を与える事ができる。
まさに政治的人間と表現するにふさわしい人間であると言える。
正直、なぜオモダカ氏がラスボスでないのか不思議である。
地位、性格、立ち振る舞いの全てにおいて、彼女ほどラスボスにふさわしい人間はいない。
2.2 膨大な維持費を必要とするオモダカ氏の支配体制
オモダカ氏の動きの異様さは、スターダストストリートにおいても顕著である。
過去の自組織の不祥事に対する不作為と隠蔽に対する口止めと、現在の自組織が運営する基幹システムの脆弱性の口止め及び無償改修を行わせるために、敢えてあのような寛大な措置を取って相手に貸しを作るあたり、相変わらず一人だけ徹底して政治的な動きをしている。
また、彼女が委員長を務めるポケモンリーグ運営には膨大な維持費が必要である。
まず日常経費として各地のポケモンセンターの運営(人件費、治療機器)、ジムの運営(施設、スタッフ人件費、仮想通貨リーグペイシステムの運用費用)がかかる。
また、課外授業の時期限定と考えても、センターのポケモン勝負についてアイテムを渡す職員の人件費、そら飛ぶタクシーの包括使用契約費用、ジムリーダーに対する業務委託費用(ないしはバーターとしてジムリーダーの本業の製品を学園などに導入する費用)などが考えられる。
さらに、オモダカがこれはと思う生徒へのプレゼントやスカウト費用、ポケモンとの戦闘や怪我をした生徒へのケアとして積み立ておく保険費用等が考えられる。
これほどの巨額の費用の調達は並大抵の事ではない。恐らく、オモダカ氏が今の地位にいるのも、ひとえに彼女の資金調達能力の高さを買われているのだと推察する。
そこで最初の疑問が湧く。
1)一体オモダカ氏は、どのようにしてその巨額の資金を調達していたのか?
またオモダカ氏にとっての最側近は、作中で見る限り、間違いなくアオキ氏である。
彼はポケモンリーグ営業部、チャンプルタウンジムリーダー、四天王と3つの役職を兼務させられている。ジムリーダーと四天王の兼務は間違いなく本部経費削減のためであろうが、凄まじい激務である。かつどれも恐ろしい程高難度の仕事である。
彼はそんな境遇に対しても愚痴はいうが、特に反抗もすることなく粛々と従っている。
アオキ氏は、オモダカ氏にとって間違いなく、費用対効果の高い部下のはずである。
しかしそのような功績にも関わらず、アオキ氏に浴びせられるのは、同僚である四天王からの声が小さい、暗いという嘲笑と、オモダカからの数字の詰めである。
オモダカ氏、これほどの兼務にもかかわらず、よく最側近をあそこまで雑に扱えるものだ。
そこで2つめの疑問が湧く。
2)なぜ、オモダカ氏はアオキ氏を冷遇していたのか?
2.オモダカ氏のLPフィンテック体制とアオキ氏を冷遇する理由
まず、ストーリーを開始した段階で判明しているパルデア地方の通貨に関する前提情報を整理する。
【前提情報】
・ポケモン世界の基軸通貨は¥であり、どの地方でも通用する。
・パルデア地方のポケモンリーグは、パルデア地方のみで通用するリーグペイ(LP)という電子マネーを発行している。
・1LP=¥1である。
・LPの決済端末はパルデア地方のほぼ全ての店舗に導入されており、人々は円と同じ感覚で買い物ができる。
・LPは各町にある「わざマシンマシン」でいつでも買える。(いつでも¥⇒LPにできる)
・自分のポケモンの強さは、ポケモン世界における有能さの指標であるが、ポケモン強化に必要なわざマシンがはLPでしか買えない。
・野生のポケモンやポケモントレーナーに敗北すると¥を取られるが、LPは無傷。
実によくできたシステム設計である。
この情報だけでポケモントレーナーとして立身出世を目指す多くの若人は、現金である¥をLPに替える強力なインセンティブが働く。
さらに、スターダストストリートとチャンピオンロードをクリアした事で、以下の情報が追加された。
LPのシステムには不正発行を行って任意の人間に送金できる脆弱性があり、それが可能になる権限は容易に奪取可能である。(犯人談)
(⇒これは現金の裏付けがなくても、管理者権限があれば、LPを任意で追加で発行し、外部に送金可能であることを示唆している。)
パルデア地方に住み、他の地方に行かない人にとっては、資産を¥で持つ意味がない。当然、敗北リスクも考えて、¥をLPに替える。
全額ではないにせよ、結構な割合で替える。
この段階でオモダカ氏の支配が完成している。
彼女は、権力、権威、のみならず人々の財布まで抑えているのだ。
恐らく、誰がどこにLPを払ったのかという決済情報は全てリアルタイムでポケモンリーグに送信され、DB化されているだろう。
そして、ロトムの開発会社から街の食堂に至るまで、国民の決済情報が喉から手が出るほど欲しい人間はいくらでもいる。
さらに、LPの情報だけであれば、在庫とも連動した決算サービスや経営コンサルティングなども提供することも可能だろう。
しかも、LPはパルデア地方以外では使えない。もし他地方の人間が来ていれば、せっかく買ったLPは全てパルデア地方内で使い切ろうとするだろう。
完璧なLPエコシステムの構築が完了している。
そうすると、アオキ氏が営業部として販売していた物も、おおよそ想像がつく。各店舗へのLP決済端末と、各町へのわざマシンマシンの導入である。
(PayPayの営業のようなものかと推察する。)
彼の努力もあって、ほぼ、LPはパルデア地方全域で¥と遜色なく決済できるようになった。
そうなれば、オモダカの元には何もしなくても膨大な¥が転がり込んでくる。
さらに基本的にLPが信認されている限りは取り付け騒ぎも起こらないため、オモダカは入金された¥を他の地方へ好き勝手に投資することができる。
このLPフィンテック体制こそが、オモダカ氏の資金調達能力とそれに伴う彼女の力の根源であると推測する。
だかこそ、LP発行システムへのハッキングは、LPの信認の毀損という致命的な事態を生む可能性があった。
しかし、ここでも彼女は幸運だった。
犯人がLPを大量に第3者にばらまいていない事、そしてその意志がない事を確認すると、一見寛大な措置を取ることで、犯人に脆弱性対応を無償でやらせることに成功する。
さらに、卒業後のポストまで用意し、技術の囲い込みに成功する。
最悪の敵をとりこむのだ。厚遇は当然である
(その実、無償労働の押し付けなので一見厚遇、というのがとても重要)
オモダカ氏の犯人への厚遇に対してのアオキ氏への冷遇もこれで説明が着く。
LPは¥と同様に全ての店で通用するようになった。
しかし、その結果、アオキ氏は用済みになったのだ。
一度プラットフォームを構築すれば、後は黙っていても金が入ってくるのだ。
彼女からしてみればこれ以上、お金を産む可能性の低い部下を厚遇する理由はない。
恐らく、いつ辞めてもらってもよいのだ。
だからこそ、オモダカはアオキ氏にジムリーダー、四天王、そして営業部を兼任させた。
さらに、彼の担当のチャンプルタウンは、エリアゼロ最前線に位置する。
もし、エリアゼロから多数のモンスターが出てくる等の事態になったら、真っ先に捨て石になれと言っているに等しい配置である。
(……そして、責任感が強いアオキ氏は、そんなオモダカ氏の意図を読み取った上で「やれやれ」と首を振りながら、自分を犠牲にして、街の人間を最期まで守るだろう)
3.スター団が孤立した間接的原因もオモダカ氏にある
オモダカの自分に利益をもたらす人間には優しく、利益をもたらさない人間には徹底的に冷酷な一面は、前校長イヌガヤの話にも現れている。
イヌガヤの話によれば、スター団が現在の状況になった経緯は以下のとおりである。
・かつてアカデミーでは虐めが横行。
・いじめられっ子が中心となってスター団を結成し、虐めていた人間に反撃。
・虐めていた生徒は無条件降伏。学園を自主退学
・スター団が虐めていた生徒を集団で退学に追い込んだ構図になり、アカデミー内で孤立化。
・マジボス、スター団の解散を宣言し、イヌガヤに全てを告白。
・イヌガヤ、マジボスをガラル地方にて療養させる。
・前教頭、保身のためにいじめの痕跡をサーバから削除。
・イヌガヤ、教頭を処分し、自分も含めた全ての教員を総退陣させる。
・情報の引き継ぎが不十分なまま、グラベル新体制が発足。
ここで大きな疑問が残る。
イヌガヤは比較的真っ当で、常識的な判断をする人である。
まあ、教師の総退陣はどうかと思うが、気持ちは分からなくもない。
ただ、普通に仕事ができる彼ならば、新体制に引き継ぎを十分に行う時間を確保しようとするだろう。
しかし、それは果たせなかった。なぜか?
恐らく、退職日が先に決められ、最低限の引き継ぎ日数しか与えられなかった可能性が高い。
このような引き継ぎのための教員給与の二重払いを極度に嫌いそうな人間がアカデミーに一人だけいる。
部下に三役を兼務させる理事長殿である。
ただ、引き継ぎが不十分な状況では、スター団のメンバーに対してあらぬ誤解が生まれ、彼等が不利益を被る事は予想はついていたはずである。
しかし、オモダカは実行した。
理由は、学費を払う生徒を退学に追い込んだスター団は、彼女にとって損害を与えた人間だからである。
自分に損害を与えた人間に温情を与える義理はない。
そして、全てを隠蔽し、無かった事にしたのだ。
こうしたスター団を間接的に退学寸前に追い込んだ遠因を作り込んだ事を一切悟られることなく、彼女はリーグペイをハッキングした犯人にできる限りの厚遇をするだろう。
無償作業は最低限にし、早々に有償で囲い込み、好きな機器や望む環境をを与えるだろう。
「なぜ、ここまでしてくれるのですか?」
そう聞く犯人に、彼女は悲しそうな顔をしてこのように言うだろう。
「"私が知らなかった事とはいえ"、危うく才能ある皆さんを失ってしまうところでした。これはせめてもの皆さんへのお詫びです」
……政治的人間にとって根は善良なハッカーを転がすことなど、赤子の手をひねるようなものである。
権力、権威、財力で他を圧倒し、人民の財布の情報を握る一方で、自組織の不祥事は平気で隠蔽し、自分に利益を生まない存在は平気で追い出す冷酷さ。
本来であれば、このような存在はラスボスとして主人公の挑戦を受け、王座から引きずり降ろされる運命にある。
しかし、オモダカ氏は主人公と敵対することを徹底的して避け、最後までボロを出さずに主人公をサポートし、称賛し、表彰する存在としてのポジションを確保することに成功した。
これで、彼女の支配を揺るがすものはいない。
彼女は、勝ったのだ。