45 猫
45【猫】
僕は、もう書くのがそろそろ飽きたので、お母さんの受動攻撃については、書くのをやめたいのだが、物語の伏線となる大切な話があるので、あと一つだけ、挙げさせてほしい。
僕のお母さんは猫が大嫌いである。
大嫌いなどという言葉では、充分に表現しきれていない。生半可な嫌いようではないのだ。
とにかく猫がいたら、ギャーッと叫ぶ。それも殺される前ぐらいの悲鳴をあげるから、真剣に腹がたつほどである。
そして、猫を見たことのある道のすべてを記憶していて、「あの道は猫がおるからいかへん」などと本気で言う。
猫がいたから、という理由で車を停めてある駐車場まで歩かない。他の家族は歩く。車に乗る。発進する。お母さんのところまで行く。車に乗る。
こんな具合である。
二時間サスペンスを観ていて、最後の方の一時間半ぐらいでたまたま猫が出てきたシーンでギャーッと叫ぶとチャンネルを変えてしまう。
「ずっと観ていたんちゃうの?犯人、誰か気にならへんの?」
と言うと「気持ち悪いから無理」と答える。
ドラえもんで、ギリギリアウト、なぐらい嫌いなのである。
いや、アウトなんかい(笑)。
受動攻撃の最たるものなのだが、親戚の家が猫を飼うと「私にたいする当てつけや〜」と泣きわめき、過呼吸になったりする。
「私に来るなってことやろ!そういうことやろ!」と例によって大騒ぎする。
そもそも、お母さんは、その親戚の家なんて、もともと行ったことがない。行くつもりもないのである。
そのことを指摘すると「行くつもりでおった!」などとまた平気でウソをつく。
どうしようもないぐらい、猫が嫌いなのである。
この話は、重要になるから、ともかく読者は、僕のお母さんは猫のことをとても嫌いだということを覚えておいてほしい。
真面目な話、精神病ではあると思っているし、何度かまともに精神科を薦めたことがある。
僕のススメにより、ではなく、実は一度精神科を受けたことがあるとお母さんは言っていた。
精神科の先生に、猫を親戚に飼われた話を被害者ぶって散々した挙句、先生に「今はパピちゃんが生きがいなんです」と言った僕のお母さん。
先生「パピちゃんとは?」
お母さん「飼ってる犬です」
先生「いや、ご自身は犬を飼われてるわけでしょう?他の親戚の方にいちいち断ってないのではないですか?」
そう言われ、お母さんは怒って帰ってきたらしい。
無茶苦茶である。