46 通帳
46【通帳】
僕のお母さんのお父さんが亡くなった。
この自伝の中では初めて出てくるが、ともかく亡くなったのだ。
基本情報として、僕のお母さんは、自分のお父さんのことが大好きだった。なので、亡くなる前は、しょっちゅうお見舞いに行っていた。
僕も好きだった。おじいちゃんのお葬式で火葬場で骨になったおじいちゃんを見た時は泣いた。
さて、問題の日は、葬儀の日ではなく、おじいちゃんが亡くなったその日である。
僕はその日、ライブで行けなかったが、夜には自分の家に帰っていた。
自分の家で一人でぼーっとしてると、なぜかお父さんとお母さんが帰ってきた。おじいちゃんが亡くなっているんだから、その日は帰ってこないものと思っていたから不思議だった。
お母さんは目を泣き腫らしている。
その時は、おじいちゃんが亡くなったからだろうなとしか思っていなかった。
しかし、お父さんも興奮して、何やら怒っている。そして、それはお母さんに、ではないようだ。
話を聞いてみると、こういうことだ。
おじいちゃんが亡くなったからお葬式をしないといけないということでおばあちゃんは、隠していた通帳を取り出そうとした。
しかし、隠していた場所に通帳がない。
そして、おばあちゃんは、親戚がみんな見ている前で僕のお母さんをにらみつけた。
「アンタやろ!通帳返して!お金返して!おじいさんの葬式挙げられへん!お金、返して返して!」
お母さんは、もともと自分のお父さんを亡くしたショックにくわえて、みんなの前で泥棒と罵られたショックで呆然としていたらしい。
そうなのである。
虐待は虐待の連鎖を生むとよく言われるが、このおばあちゃんこそ、悪の親玉だったのである(笑)。
盗っ人扱いされたままでは、どうしようもない、ということでお父さんとお母さんはいったん家に帰ってきたのだ。
結局、通帳の隠し場所を自分で勘違いし、間違えたおばあちゃんは、娘のせいにしたあげく、その後通帳が見つかったという報告を直接お母さんにはせずに、お母さんのお姉さんに電話をし、「通帳あったって、あの子に言うといて〜」とありえないことを言ったそうである。
卑怯のかたまりである。
親子でよく似てやがる(笑)。
おばあちゃんがお母さんにした虐待のプログラムは、ここで書くとまた長くなるし、読者も読むのがしんどいだろうから、とにかくひどかった、とだけ書いておくことにする。
虐待の連鎖か。
なるほど。
この日をスタートとして、僕はすこーしだけ、お母さんのことを許せるようになっていくのである。