7 ロッカールーム
第二戦のヒーローインタビューを終え、ロッカールームに戻ると、俺のロッカーに、スプレーで【死ね】とラクガキがされてあった。
ピッチャーの木村の筆跡だった。
俺は、木村にメールをした。
「もしかして、あれ、お前?」
木村から、返信が来た。
「お前ばっかりヒーローインタビュー受けて、気持ち良さそうやな!!0失点に抑えてるのは、俺やのに!お前のリードなんて、子供でもできる!全球ど真ん中のストレートなんやからな!」
「だからといって、“死ね”とか俺のロッカーに書くのは違うやろ!!」
と、打ちかけたが、そこは理性が働き、俺は我慢した。
俺は日本シリーズに勝ちたいのだ。ここで、ピッチャーとキャッチャーの歯車が狂ってしまえば、チームはどうなる?
応援してくれるファンはどうなる?
家が突然公衆トイレにされ、応援している野球チームも負けた人はどうなる?
俺は再び、木村のメールの文面を深呼吸しながら見つめた。
「お前ばっかりヒーローインタビュー受けて、気持ち良さそうやな!!0失点に抑えてるのは、俺やのに!お前のリードなんて、子供でもできる!全球ど真ん中のストレートなんやからな!」
よし、ここは、素直に謝ろう。
「俺ばっかりヒーローインタビュー受けて、すまなかった。勝てているのは木村のおかげだ。俺のリードは確かに、サルでもできる。全球ど真ん中のストレートだからだ。明日は、工夫したリードをするよ!本当にすまなかった」
というメールを送り、俺はそのあと、ロッカーに書かれた“死ね”というスプレーの文字を消す作業に取り掛かったのだった。
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