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小説 二つの心 ~ ある中学校での出来事 ~

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〜1月28日 13:00

はじめに

この物語は、約50年前の中学校の文化祭で行った舞台劇を題材にして、書き下ろしたものです。
舞台劇を題材にしているため、生徒の心情から出る会話が中心の構成になっていること、予めご了承ください。
私にとって、初めての小説執筆です。
粗削りな点やつじつまが合わない個所、表現が不十分な点があるかと思いますが、ご興味があればお読みいただくと嬉しいです。


あらすじ

学力レベルでクラス編成を採用しているある中学校での出来事である。
毎年恒例のスポーツ大会で試合の勝敗が決まる判定を巡って、大きな騒動に発展する。
騒動は一旦収束したように見えたが、教科書の盗難事件にエスカレートする。
教科書盗難事件は、生徒たちが日頃から抱いている「優越感」と「劣等感」が複雑に交差し、単に当事者だけの問題では無くなってきた。
教科書盗難事件の行方と生徒たちの友情や学校生活はどうなっていくのか?

登場人物の紹介

3年A組 
斎藤真一(クラス委員)
新崎真央(副クラス委員)、
村博和(ソフトボールチームキャプテン)
中村麗奈、三原祐樹、山本正弘、松本大輔、小林健斗

3年B組 
西川圭吾(ソフトボールの主審)

3年C組 
佐々木竜司(クラス委員)
島村愛実(副クラス委員)
伊藤英寿(ソフトボールチームキャプテン)
木戸啓二、谷村弘美、影山敦子、田中理恵、吉川里奈

第1章 プロローグ

これは、ある中学校での出来事である。
都会から少し離れた場所にあり、海と山に囲まれた環境で勉学やクラブ活動には最高の立地である。
この中学校は、学力レベルでクラスを編成している。
各学年とも3クラスあり学力レベル順にA組、B組、C組である。
学年末のテスト結果で、翌年のクラスが決まる。
A組は、1番から30番、B組は31番から60番、C組は61番から最後までとなる。
1学年100名程度なので、C組は40名程度となる。
 
秋晴れのある日、毎年恒例のクラス対抗スポーツ大会が開催された。
クラス対抗戦、いわゆる「クラスマッチ」である。
1年生から3年生まで同じ競技で対戦する。
競技は3種目あり、ソフトボール、バスケットボール、卓球である。
今回の舞台は、ソフトボールである。
上級生が下級生と試合をする場合は、得点にハンディキャップを付けるルールとなっている。
ソフトボールを例にとると、ハンディキャップは、1学年3点である。
 ・1年生対2年生:3対0から試合がスタートする
 ・2年生対3年生:3対0から試合がスタートする
 ・1年生対3年生:6対0から試合がスタートする
 同じ学年同士であれば、ハンディキャップはない。
3年生が1年生と試合をする場合は、既に6点ビハインドから始まる、過酷なゲームとなる。
7回戦のため、1回毎に1点以上取らないと負けることになる。

このスポーツ大会は、安全確保がされていることを前提に、先生の立ち合いは無く、生徒たちの自主運営に任されている。

第2章 決勝戦

ルール説明はこれくらいにして、試合のほうを見ていこう。
3年A組と3年C組が勝ち続け、今日が決勝戦である。
この日は、秋晴れに恵まれた。
まさに、スポーツ大会日和である。
試合は、決勝戦にふさわしい2対2の同点のシーソーゲームである。
これから、最終回の裏、A組の攻撃がはじまる。

トップバッターの小林君がヒットで出塁した。
そして、次のバッターは送りバントが成功し、1アウトでランナーが2塁。
しかし、次の3番バッターは、惜しくも内野フライで万事休す。
2アウトでランナー2塁。
次のバッターは、4番の松本君だ。
ヒットが出れば、サヨナラ勝ちの場面となった。
しかし、1球、2球と見逃して2ストライクと追い込まれた。
3球3振で終わるのか?
それとも、4番の意地を見せるのか?
ピッチャーが3球目を投げた。

第3章 試合の行方

ボールは甘く入ってきた。
フルスイングして、ボールは3遊間を抜けヒットとなった。
2塁ランナーは、3塁ベースを回った。
レフトからボールがホームに返球された。
ランナーは、ホームに突っ込んだ。
きわどいタイミングであるが、アウトのように見えた。

しかし、主審の手は、左右に広がり、セーフと判定した。
主審は、3年生で対戦クラスと別の野球部員が担当している。
この試合の主審は、B組の西川君だ。
 
「やった、やった、勝ったぞ、優勝だ!」
A組のみんなは、大歓声を上げた。
しかし、C組の選手達は、主審の判定に不服の様子だ。
選手達が、ホームに向かって走ってきた。
そして、C組のキャプテンの伊藤君が主審に詰め寄った。
「おい、主審。今のプレーはきわどいけど、アウトじゃないのか?」
伊藤君の抗議の様子を見て、C組の選手が主審の周りに集まった。
「そうだ、そうだ。アウトだ。絶対にアウトだ!」
C組全員が口をそろえた。
「いや、僕の目には一瞬、ランナーの小林君の足の方が速く見えた。だから、セーフだ。」
主審は、伊藤君に説明した。
 
「主審、本当にランナーの足の方が速かったのか?判定に自信が無いよう見えるけどな。」
伊藤君は、納得していない様子である。
ベンチにいた、C組の木戸君も飛び出して来た。
「俺も見ていたけど、絶対にアウトだぜ、主審。おかしいぜ!」
そこに、A組のキャプテンである北村君のお出ましだ。
「おまえら、往生際が悪いぞ、主審の判定に逆らうのか。」
「セーフ、セーフ、セーフ!」
A組全員から、セーフコールが鳴り響いた。
「A組の勝ちだ、優勝だ!」
北村君は、大声で叫んだ。
そして、副クラス委員の新崎さんが、みんなの前に出て怒りの一言を言い放った。
「主審の判定は絶対だわ。C組のくせに何を言うの。」
「そうよ。あなた達、これだけ言ってもわかってもらえないの?やっぱり、C組はC組のレベルね~。」
A組の中村さんも加勢し、火に油を注いだ。
「やっぱりとはなんだ。俺たちC組を馬鹿にしているのか。俺たちは、ただ主審の判定がおかしいと言っているだけなんだ。」
顔色を変えて、C組のクラス委員の佐々木君が逆襲に出た。
「そうよ、そうよ。いくら私たちがC組だからってそんな言い方はひどいじゃないの。馬鹿にしないで。」
応援していたC組の田中さんも、逆襲に加担した。
「C組だからと言っている訳じゃないわ。審判の判定にした従うべきだと言っているだけよ。」
新崎さんは高鳴る気持ちを抑えた。
「そんなことを言って、いつも何かにつけて俺達を馬鹿にしているじゃないか。」
佐々木君も徐々にヒートアップしてきた。
「そうだ、そうだ!」
C組全員が口を揃えてA組全員を睨みつけた。
「なによ、私を睨みつけちゃって。何か文句でもあるの?頭が悪いくせに。」
新崎さんは、遂に気持ちを抑えきれなくなった。
「なに、このやろう!頭が悪いとはなんだ!」
伊藤君は、日頃の我慢に限界を感じたのか、手を振り上げた。

「やめろ!元をただせば僕の判定からの問題だ。こんなつまらないことで言い争って何になるのか。」
西川君は慌てて、伊藤君を止めた。
「こんなつまらないこととはなんだ。俺たちはこのソフトボールの試合にどれだけ練習をしてきたと思っている。
遊ぶ時間を削って練習したんだ。その気持ちがわかってたまるか!」
伊藤君は、既に我慢の限界を超えていた。
「こんなことをしても何の解決にもならないわ。主審の言う通りアウトかセーフかをはっきりさせようじゃないの。」
新崎さんは、みんなの顔を見ながら主審に指をさして言った。
「そうよ、馬鹿なことをする人達だわ。やっぱり、C組ね。」
A組の中村さんも、舌打ちをしながら言った。
伊藤君は、拳に力を入れて、中村さんの前に出てきた。
「こいつら、いつも俺たちを馬鹿にしているから、我慢の限界だ。今日は、絶対にお前たちを許せない、覚悟しろ!」
「キャー、暴力はハラスメントよ。先生に言いつけやるわ。誰か助けて!」
中村さんは、A組のリーダー的な存在の三原君の後ろに逃げた。
「あんなやつらの言葉なんか、気にするな。それより、あいつらのこと撮影しておけよ。いざとなったら、証拠になるからな。」
三原君は、伊藤君に聞こえるように言った。
「なによ、少しくらい勉強が出来るからって偉そうにして。でもね、あなたこそA組の落ちこぼれじゃないの。
秀才面なんかして。おなさけで、やっとA組にいるくせに。」
三原君の顔色が明らかに変わった。
「あんたなんかC組に来たって相手になんかされないわよ。あんまり、大きな顔をしないで!」
田中さんは、涙をためて三原君と中村さんの前に出て言った。
そして、田中さんはハンカチで涙を拭きながら、走ってグランドを後にした。
「この借りは、倍返しにして返してやる。覚悟しておけよ!」
伊藤君は、捨て台詞を言ってグランドを後にした。
佐々木君も、伊藤君の後を追いかけた。
そして、他のC組の生徒達もグランドを後にした。
 
「あのやろう、みんなの前で恥をかかせやがって。絶対に許さないからな。」
三原君は、自分のプライドがひどく傷つけられた。
北村君が残っていたA組全員に声かけし、グランドを後にした。
三原君も渋々グランドを後にした。
 
その後、A組とB組、C組の先生方で話し合いが行われた。
主審の西川君の判定通り、A組の優勝ということで決着した。
勝敗をめぐる判定で騒動があったが、恒例のクラスマッチは無事に閉会した。
クラスマッチが終わると秋が深まっていき、3年生の生徒達は本格的な受験勉強シーズンへと突入するのである。
生徒たちは、受験のことで頭がいっぱいになる。
従って、クラスマッチのことは、この日を境に忘れることになる。
 

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12月29日 13:00 〜 2025年1月28日 13:00

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