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CRYAMYへ

私は別に古参でも熱烈なファンでもない。

割と初期の頃から存在は知っていたが、例えばライブに足繁く通ったとか遠征したとかいった人間ではないし、なんなら近くでやっていたら毎回行くというわけでもない。
新譜のリリースを指折り数えて待ち侘びているわけでもなければカワノさんの言葉を反芻してお守りにしていることもない。
曲名と曲が一致している曲も多くない(これは他のバンドでも言える。頭のてっぺんからつま先まで、心血注いだ作品たちだろうに申し訳ないが、単純に私が覚えるのが苦手だという話である)。
バンドの動向を逐一チェックしてる、なんてこともない。

だから、いったいどんな状況を経てどんな心持ちで昨日野音で音を鳴らしていたか、全然知らないし想像もできない。
本当はそんな私が文章を書くべきではないのかもしれない。


野音でやるということを、私は情報解禁の数日後に知ったんだと思う。
行こうかな、どうしようかな、と思っている間に他の予定が入ってしまって、でも予定の後にいけない距離ではないしやっぱり行こうかなと迷っている間にチケットが売り切れた。
再販された時もギリギリまで悩もうと思ったらやっぱり売り切れた。

悩んでいた理由はひとえに私の体力のなさゆえなのだが、何も考えず買ってしまえばよかったと思った時に、なんだ思っているより行きたかったのか、と自覚した。


結局せっかくならば音漏れでも聴くか、と用事が終わったその足で野音に向かった。
履き慣れていない靴のせいで疲れ切っていたがそれでも足取りは軽かった。
雨予報だった空は穏やかな青空で、風が心地よかった。
良い夕方だった。


会場に駆け込んでいく見知らぬ人たちを眺めながら石の上に腰を据えた。
私と似たような状況の人が点在している中、1曲目が始まった。
相変わらずの爆音で、野外のステージで、しかも会場外からこれならステージ近くはいかほどなんだろうかと思った。
最近(といってもライブ自体に足を運ぶことが少なくなってしまったけど)ライブを観に行った後に耳に違和感が残るのはCRYAMYくらいだったなと思い出した。
会場外からも見え隠れしていたスモークは、立ち昇る熱気のようだった。

中でしか見えないものもあれば外からしかわからないこともある。
これは抽象的な意味も含めてだけど、今回は具体的な話。

偶然通りかかったと思しき人が時々CRYAMYの音楽に足を止めている。
誰のライブだろうね、と検索しながら去っていく2人組がいる。
ベンチで雑談をしている人たちのBGMになっている。
わたしみたいに音漏れを聴きに来ている人がいる。
会場内には彼らの音楽とその姿を目に焼き付けようと食い入るように観ている人がいたんだろう。

彼らの音楽が今、人生において色濃く残る景色の中心になっている誰かがいて、彼らの音楽が今、人生の忘れてしまうような景色の背景になっている誰かがいた。
ビル群の中の、緑に覆われた公園の中の、日比谷野外音楽堂から、4人の音楽が鳴り響いて世界に溶けていくみたいだった。
やっぱり今日はいい日だと思った。


結局本編をすっかり聴き終えてしまうほどには居座ってしまった。
空はまだ明るくて、ライブはアンコールに入ったようだった。
いよいよ体力の限界を感じて動けなくなる前に去ることにした。
最後まで聴けなくて残念ではあったが道端で座り込むわけにはいかない。

自宅にたどり着いてTwitterを開いたら今回のライブの愛のこもった感想が溢れていた。
そのどれもが数秒前、数分前の投稿で、添えられていた写真はしっかりと夜で、私が去った後のライブの長さを思うと笑ってしまった。


Twitterでパブサすると「解散しないと思えた」という声と「解散ということなんだろう」という声、どちらも見かけた。
明日死ぬかもしれないし生き続けるかもしれない、生命みたいなバンドなんだと思った。
人生において確かな終わりの予告がある出来事の方が珍しい。
目撃者ですら感想が割れているのだ、大して追いかけてもない、外で音漏れを聴いていただけの私がわかるはずもないな、と思った。

バンドがどうなるのか知らないし、気にしつつもそんな心配も薄れてまたいつも通りの日常を過ごすんだろう。
でも、1番好きな曲を私の都合で聴けなかったから、もう1回聴きたいから、続けてくれたら嬉しい。
これは、決して熱量が高いとは言えないただのいちファンの、自分勝手な願い。

例えばライブに足繁く通ったとか遠征したとかいった人間ではないし、なんなら近くでやっていたら毎回行くというわけでもない。
新譜のリリースを指折り数えて待ち侘びているわけでもなければカワノさんの言葉を反芻してお守りにしていることもない。
曲名と曲が一致している曲も多くなくて、バンドの動向を逐一チェックしてる、なんてこともない。
そんな、ただの、ちょっと音楽が好きなだけの、どこかの誰かの願いです。





公式より発表があった。

野音の目撃者たちの感想が割れていたのも納得だと思った。
カワノさん、お疲れ様でした。
願わくば、これからのカワノさんとCRYAMYの進む道に、幸多からんことを。
悲しい思いをしなくて済みますように。

(2024/07/05 追記)

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