【30秒小説】星
とある病院の中で若い恋人同士が会話している。
「体調はどうだい?」
「え? えーと誰か知らないけど大丈夫よ」
「それは良かった……。先週のデート楽しかったね」
「知らない貴方とデートしたことないけど?」
「でも君が生きてて良かった。それだけで嬉しいよマヤ」
「私サヤカだけど……誰よその女! まさか浮気!」
「……そうだった、そうだった。君はサヤカだったね。ごめんごめん」
「ほんとひどいわ、私の名前を忘れて。シュウイチ。今度は許さないからね!」
「ちょっと外出かけてくるよ」
男は外に出ると、すぐ近くに医者のような人がいた。
「どうですか? マサトさん」
「ダメです……彼女は自分のことをサヤカだと思ってます。僕の名前も忘れてて」
「そうですか……。まだ記憶が戻らないようで」
「……彼女は治りますか?」
「どうでしょう、早く症状が良くなるかはマヤさん自身です。ところでどうして彼女はこんな目になったんですか?」
「はい……実は先週辺り僕たち星を見に行ったんです」
「星……」
「以前彼女は星空が見たいと言ってたので、僕が彼女のために遠くまで綺麗な夜景と夜空が見える場所までデートしてました」
「彼女思いなんですね」
「ええ、ですが、私がトイレに行っている間に彼女は倒れてました。後頭部から血が垂れていたので誰かに殴られた可能性も。それで彼女があんな目に……」
「……それは大変でしたね。恋人の容態がおかしくなって、マサトさんはずっと彼女のお見舞い欠かさず行ってましたから……」
「ええ、彼女ことが心配ですので」
「夜空で思い出しましだが、私にも息子がいるんですよ」
「へぇそうなんですね、いくつぐらいですか?」
「ちょうどマサトさんと同じぐらいです。息子の学生の頃は野球部のエースでした」
「野球をされてたんですね」
「ええ、そして2週間前、息子も恋人と星を見にいくと言ってました」
「素敵なことじゃないですか、その息子さんの名前はなんでいうんですか?」
「シュウイチです。いい名前でしょ?」