レース前の追い込み【自転車と歩んだ4000日】
健康診断で血糖値がひっかかり、自転車に乗り始めた男がひとり。その名を御堂彰という。
ロードバイクを買って半年もしないうちに、今度は便潜血でひっかかり、大腸ポリープを取った男がいる。その名を御堂彰という。
良性か悪性か。僕は死ぬのか…?御堂は震えていた。
結果は良性。御堂は人生を見直すことに決めた。このまま何もしないで死にたくない。
SNSでつぶやいたのは、死ぬまでにやっておきたい事だった。
「富士ヒルクライムと鈴鹿エンデューロに出たい」
この御堂のつぶやきに反応した自転車仲間がいて、御堂の鈴鹿参戦が決定した。
これは30代から始めた自転車で、心身ともに人生を再構築していった作者の自叙小説である。
初めての鈴鹿参戦。緊張の中力を振り絞る。
そしてラップタイム10分以上という情けない結果が待っていた。
あれから2回参戦し、その都度トレーニングプランや体調管理をグレードアップさせていった。
努力の結果順調にタイムを削っている。
そして2024年。今年の目標は9分を切ること。いや、真の目標は8分半を切る事だった。
ちなみに速い人たちは7分台で一周回る。優勝クラスとなると…考えたくもない。
レース前一ヶ月は飲酒を止める。これはものすごく効果が高い。
肝臓が本来の働きを全うしてくれるのだ。アルコールを摂らないだけでも体重は落ちてくれる。
それだけではない。アルコールを摂った時には出せなかったパフォーマンスが、禁酒中は出せるようになる。
よりきつい練習に耐えられるようになるのだ。加えて夜間の糖質制限を心がける。
糖質を制限する…ではない。「夜間」と「心がける」が重要だった。
御堂は糖質制限を一度経験していた。
たんぱく質と脂質中心の生活を一ヶ月続けた事があったのだ。社長がやるからと、巻き込まれた。
糖質が枯渇すると、御堂の体はみるみる痩せていった。痩せたいなら糖質制限はかなり有効だと、御堂は知った。だがしかし、体に力が入らない。思考回路も停滞し、ボーッとすることが増えた。仕事でのミスも増えていった。
糖質制限を終えてからも半月は、自転車に乗ってもすぐにバテてしまう。
体組成計で確認すると、脂肪は確かに減っていたが、それ以上に筋肉も減っていた。
力が出ないとはすなわち、それだけ筋肉が使えないと言うこと。持久系スポーツである自転車では、すぐにバテて筋肉も落ちる減量など、下の下。
御堂がたどり着いたのは、運動のパフォーマンスを残せる程度の糖質制限だった。
要は血糖値が上がらなければいいのである。もちろんゼロカロリーで埋め合わせるのは論外。人工甘味料は血糖値を上昇させやすくする。
血糖値を上げない糖質の摂り方。そんな都合のいい話はこの世の中に存在しない。
だけど答えは御堂のすぐそこにあったのだ。
自転車。
トレーニングの合間に、もしくは直前に糖質を摂って、吸収される前に燃やせば良い。
糖質を摂るのは運動30分前。そしてインターバルトレーニングで一気に糖質を燃やしてしまう。
それでトレーニングのための糖質は補充できる。
朝昼は仕事のエネルギーを摂る必要があり、制限はしない。スイーツはトレーニングする時だけ食べた。
夕食は、その後のトレーニングに応じて量をコントロールする。
おやつは豆腐バーかサラダチキンだ。揚げ物は衣が糖質なので避けた。
あとはアルコール依存の体と心をどうするのか。これはノンアルコールが禁断症状を抑えてくれた。味がするだけでもだいぶ違う。
それでも人工甘味料による肝臓への負担を考えて、量はコントロールした。
全ては筋肉のために。筋肉は全てのために。
鈴鹿は自分の全てだと心に強く受け付けて。
そして体重が5kg近く減ったが、御堂には力がみなぎっている。40代半ばにしてパワー、持久力ともに過去最高レベルのパフォーマンスを得ることができた。
現在2024年10月末。11月2日の大会は目の前だ。
くそ!なんで11月に台風なんか来るんだよ!