補助犬は大切なパートナー。「障害者が自分らしく生きる社会」のために私たちがサポートできることとは?
身体に障害を持つ人のパートナーである補助犬。その存在は広く知られていますが、いったいどんな役割を担っているかまで理解している方は少ないのではないでしょうか。
「本来は、健常者も障害者も、自分らしく生きていける社会が望まれます。補助犬はそのような世の中を実現するために、必要な存在です」
こう話すのは日本補助犬協会の広報担当である安杖直人(あんづえ なおと)さん。下半身が不自由なため日常的に車いすを使用しており、補助犬と一緒に生活を送っています。
「補助犬は大切なパートナーです」と語る安杖さんに、補助犬の役割や育成の苦労、課題と感じていることについて伺いました。
補助犬の3つの種類と役割
ーー補助犬にはどんな種類があるのでしょうか?
補助犬の種類は「盲導犬」「聴導犬」「介助犬」といった役割の異なる3種類に分けられます。
盲導犬は、目の見えない人・見えにくい人が、行きたい時に行きたい場所へ出かけられるように、安全に歩くための手伝いをすることが役割です。
聴導犬は、さまざまな生活音が発生した場合に、耳の不自由な方にタッチするなど様々な動作を使って知らせることが仕事です。
介助犬は、手足の不自由な人のために、落とした物を拾う、不測の事態が起きた時に周囲の人を呼びに行く、緊急ボタンを押すなど、日常生活の手助けをしてくれる役割を担っています。
ーー補助犬になる犬種は決まっているのでしょうか?
盲導犬と介助犬は、大型犬が適しています。なぜなら、盲導犬や介助犬の仕事は、ユーザーを安全なところに導く、拾ったものをユーザーに渡すといったことが多いため、ある程度の大きさが必要だからです。
大型犬の中でも、ラブラドールレトリバーは見た目が優しい・人間に愛着がある・環境に順応しやすいことから、特に適しています。
一方、聴導犬は小型犬が多いです。音を感じたときにユーザー(飼い主)に連絡することが仕事であるため、自宅内を行ったり来たりしないとなりません。そのため、小回りが効く小型犬が適しています。
ーー現在、日本に補助犬は何頭いるのでしょうか?
厚生労働省の調査(令和6年4月1日現在)によると、補助犬の実働頭数は、盲導犬796頭、聴導犬53頭、介助犬59頭です。この頭数では需要に対して大幅に不足しています。
補助犬は大切なパートナー。一緒に暮らして良かったことは?
ーー補助犬が人間にどのように役立っているのか、もう少し詳しく教えてください。
例えば、盲導犬の場合は、目の不自由な人が安心して外出できるように、交差点や段差の前で止まったり、障害物があるとよけて歩いたりします。目の不自由な人は、目的地までの道順を頭に描きながら、ハーネス(※)から伝わってくる盲導犬の動きや周りの音や足元の変化などを基に周囲の状況を判断します。
この判断の後に、盲導犬に指示を出して歩くわけです。このように目の不自由な人と盲導犬の歩行は、人と犬による共同作業であり、まさに人間にとって犬は欠かすことができない信頼すべきパートナーといえるでしょう。
(※)ハーネスとは、犬の胴体に装着する胴輪。 首輪と同様に、リードを装着して犬をつないだり、歩かせたりするために使用します。
ーー安杖さんも、介助犬と一緒に生活しているのですよね。
現在一緒に生活している介助犬は3代目、3歳メスのラブラドールレトリバーで、名前はノースです。仕事をキチンとこなしてくれて人懐こい性格なんですよ。
ーー介助犬と一緒に暮らして良かったことはなんでしょうか?
以前、車イスからソファーに移乗して車イスのパンク修理をしていた時、修理工具が2m程飛んでしまい身動きができなくなったことがありました。その時2代目の介助犬ダンテが工具を拾って手元に持ってきてくれたので無事修理を完了することができ事なきを得ました。あの時は、心の底から安心しましたね。
その他にも、介助犬と生活して良かったことはたくさんあります。犬の世話(散歩・食事など)のために規則正しい生活となり、健康になったことも良かったです。私は身体に障がいがあるので、もし介助犬がいなければ外出をしなくなり、生活リズムが乱れていたでしょう。
1頭500万円。育成にかかる費用が足りない
ーー日本補助犬協会の活動内容について教えてください。
日本補助犬協会は、2002年の身体障害者補助犬法の成立に伴い、日本初の「盲導犬・介助犬・聴導犬のすべてを対象に育成・認定を行なう団体」として設立されました。主な活動内容は、補助犬の育成・認定、そして啓発活動です。啓発活動としては、学校・イベント・市区などから依頼があると開催し、補助犬の仕事内容を実際にデモンストレーションを交えて紹介しています。
また、日本補助犬協会の公式サイトで、トートバッグ・キーホルダー・ステッカーなどのチャリティグッズの販売も行っています。
ーー補助犬を育て上げるまでには、どのようなプロセスがあるのでしょうか?
まずは日本補助犬協会が、パピー犬(子犬)を購入します。実は、補助犬に向いた犬を繁殖させることは難しいです。そのため、繁殖技術に定評のあるオーストラリアのビクトリア盲導犬協会で繁殖させたパピー犬を採用しています。
購入したパピー犬は、生後3ヶ月から1年までの間パピー犬の世話をする「パピーファミリー」のもとに預けられます。愛情をいっぱいに受けて育てることで、人に対する信頼感を育み、人の社会で生活するマナーを身に付けさせます。
そして、生後1年で日本補助犬協会に戻され、補助犬への適性有無をテストし、合格した犬だけが補助犬となるための訓練を行います。パピー犬の中から適性検査に合格する犬は約3割と少なく、かなりの狭き門です。
訓練センターでの訓練は約1年間にわたります。その後、ユーザーとの共同訓練を約1ヶ月間実施し、認定試験を受けます。認定試験に合格すると、晴れて補助犬として認定され、ユーザーのもとに旅立つことができます。
ーー補助犬を育てるうえで大変なことは何ですか?
補助犬を育てることの困難は多いです。なかでも特に苦労していることが二つあります。
1点目は育成費用の問題です。日本補助犬協会は、各都道府県から補助犬の育成を委託されており、その委託費用は1頭あたり150~200万円です。一方、一人前の補助犬に育てるためには1頭あたり最低500万円はかかります。法人や個人による寄付で赤字にならないようにしているのが実情です。
2点目は補助犬の訓練士不足です。現在の訓練士の主力は40~50代とかなり高齢化しています。そのため、次世代の訓練士の育成が急務です。一人前の訓練士になるためには、3年間は必要ですが、訓練士の仕事は想像以上にハードなため、入ってもすぐに辞めてしまう人が少なくなく困っています。
「補助犬とユーザーを理解する社会」をつくるために必要なこと
ーー世間の補助犬への理解については、どう感じていますか?
身体障害者補助犬法が成立してから20年が過ぎました。しかし、いまだスーパーやレストランに補助犬を同伴することを拒否されたり、拒絶反応を示されたりすることが散見されています。これは非常に不幸なことであると思っています。
ーー補助犬が一人前となってユーザーのもとに旅立つとき、高齢になって協会に戻ってきたときには、どんな気持ちになりますか?
補助犬をユーザーに引き渡す時には、無事訓練を卒業したことにより、喜びや誇らしい気持ちになります。そして「事故がありませんように」と心の中で願います。
リタイアした補助犬を受け入れる時には、「長い間ご苦労様でした」「一所懸命に働いてくれてありがとう」という気持ちになりますね。
ーー最後に、読者のみなさんにメッセージをお願いします。
日本には補助犬を必要としている人は多いですが、まだまだ頭数が足りていません。しかし、資金不足で育てることが難しい状況です。
私たちが目指すのは「街角で当たり前にユーザーと補助犬に出会う社会」をつくること。そのためには賛同してくれる人がもっと必要なんです。現在、クラウドファンディングや寄付で応援してくれる方を募集しています。人と犬をつなぐ活動を広げていくために、ぜひご協力をよろしくお願いします。
公益財団法人日本補助犬協会(会員・寄付金募集)
https://www.hojyoken.or.jp/cooperate/indivisual
クラウドファンディング
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