五億年後のきみへ① 冷凍記憶
「昔、たった一人のとんでもねえバカ野郎が核の発射ボタンを押してしまってよ。それかきっかけで世界は核戦争になっちまったのさ。ほとんどの人は死んじまったけどな。生き残った人間はみな地下シェルターで暮らしてたのさ」
四十代ぐらいのひょろ長い男が、こちらに背を向けてコンピューターディスプレイを操作しながらこう言った。
おかしいな……?ここに大人はいないはず。さっき冷凍睡眠装置のカプセルから起きたばかりで頭がぼーっとしてる。
僕はかぶりを振って遠い記憶を呼び覚まそうとした……。
たしか……僕たちに特殊な訓練を施したプロフェッサーJという老人は「きみたちは未来への希望だ」と言って、特に成績が良かった僕たち十二人を冷凍睡眠カプセルに入れて、そのまま眠りに就いたのだった。
あのとき僕は十七歳だったはずだ。
他のみんなは?
辺りを見回すと他に空のカプセルが一基あるだけだ。……ということは?
「ねえ、もしかしてきみは?」
男はこっちを振り向いた。
「ああディトだよカミル。寂しかったぜ。何せ二十年間ずっと一人だったからな。他の連中はここにはいない」
「一体何があったの?」
「ふっ。博士もとんだ未来への希望を残したもんだぜ。地上に上がれば分かるが今、太陽が巨大化して生き物はほとんど死んじまった。何せ海が干からびたんだからよ」
「それって?」
「ああ、あの時から五億年もたっちまったみてえだ」
「ご、五億年!」
「俺たちは滅びゆく地球の最期のふたりかもな」
それから僕とディトは耐熱スーツを着て地上へ上がってみた。なんだか地球の最期を見届けるのが義務のように感じたからだ。
ふたりは荒涼とした灼熱の大地をゆっくり歩いた。
「ひとりで焼け死ぬのは嫌だったかおまえがいてよかったぜ」
ディトはふとそう言った。まるで二十年間、僕が目を覚ますのを待っていたみたいに。
その時、空がピカッと光った。そして一隻の葉巻型の宇宙船が現れゆっくりと降りてきた。
こちらの企画に参加します🙇(大幅文字数オーバーです💦)
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