名探偵コナン番外編 コナンと千速
「もしもしジュウゴ。非番の日に悪い」
突然スマホが鳴ったので出ると、警部補萩原チハヤからの国際電話だった。
「ああチハヤか。今寝たところだ」
「実はロスの街であのメガネの少年を見つけてな。様子がおかしいと思って尾行したんだ。少年は怪しい二人組の男を尾行していたらしい。すると突然後ろから黒いバイクが現れて少年を轢いてそのまま逃走したんだ。私はすぐに救急車を呼んで彼の追っていた二人組の尾行を再開したのだ……」
寝惚けまなこのジュウゴはチハヤがからかっているんじゃないかと思った。
夏季休暇にロスアンジェルスを訪れたチハヤはドジャースタジアムで大谷翔平選手の試合を見たあと、メインストリートをぶらぶら観光していた。すると以前日本で関わりのあった少年江戸川コナンが歩いているのを見かけた。
コナンは誰かを尾行しているようなので不思議に思いあとをつけていると突然、後方から黒バイクが現れコナンを轢いてしまった。バイクに轢かれたコナンを助けたチハヤはスマホで救急車を呼ぶと黒バイクは間に合わないと判断し黒スーツの二人組を追うことにした。小走りで二人組に追い付くとそのまま尾行を開始した。
やがて黒スーツの二人組は大通りを細い路上に入っていきやがて港近くの廃墟と化した工場跡地に入っていった。物陰に隠れたチハヤはここで張り込むことを決意。その間にジュウゴに電話したのだ。
「そりゃ休暇中に大変だったな」
「ああ、しかしあの怪しい二人組。見過ごす訳にはいかん。悪いがロスまで来てくれないだろうか?」
「はあ。仕方ねえな。今から東都国際空港行ってロスアンジェルスまでとなると最低でも11時間かかるぞ」
「すまん。何か大きな事件の匂いがするんだ」
「分かったよ。署には慶弔休暇を申請するよ」
「恩に着るよジュウゴ」
UCLAメディカルセンター
病院のベッドで横たわるコナン。
椅子に腰掛け心配そうに眺める灰原。
「……うーん、おめー灰原か?……ここは病院……か」
目を覚ますコナン。
「やっとお目覚めね。そうよ。チハヤさんに助けて貰ったの。あなたにしては抜かったわね」
「たしかオレ、怪しい黒スーツの二人組を追いかけていて……って痛ってー!」
包帯の巻かれた後頭部に手をやるコナン。
「バカ。頭を強く打ったんだから推理は厳禁よ。治るまで大人しく寝てなさい」
「しゃーねーな。だけどこのままじゃ犯人を取り逃がしちまう。わりーが灰原。オレを轢いた犯人と怪しい二人組捜してくんねえか?おめーの推理には期待してっからよ」
「たっくしょうがないわねー。どうせ私が犯人を見つけたとしても、肝心なところであなたが何か見落としに気づいて実は真犯人は別にいた……ってオチになるんだろうけど」
「おいおい、深読みし過ぎだって灰原。ま、捜索状況は逐一報告して貰うけどよ」
腕を組んで呆れ顔をする灰原。
「やっぱりね。どうせいい線までいっても結局、あなたには敵わなかったってなるんだろうけど、しょうがないわね」
「サンキュー灰原」
「まずはあなたが轢かれた場所に行ってみるわ」
「ああ、ところでよ灰原。この花誰が活けたんだ?」
コナンがふとベッドの脇の棚に目をやると透明な花瓶に可憐な白い花束のブーケが挿されていた。
「知らないわよ。私が来たときからあったわ。これは鈴蘭の花ね」
しげしげと鈴蘭のブーケを取って眺めるコナン。
「何よ。盗聴器なんてついてないわよ」
「いや、たしか鈴蘭の花言葉は何だったかなあと思ってさ」
「……たしか再び幸せは訪れる……だったわね」
「おめーよく知ってんな」
「昔、ある人の結婚式で贈ったことがあるのよ」
鈴蘭のブーケをバラして調べるコナン。
「へえ、結婚式でね。……ん?この鈴蘭日本産だな」
「なぜ?」
「だってほら、花束を止めてるテープにJA明日萌って書いてっぞ」
「あしもえ?ああ、あしもいのことね。北海道の地名よ。昔ドラマで観たわ」
腕を組んで考え込むコナン。
「そういやおめー、何でこの病院にオレがいることがわかったんだ?」
「簡単なことよ。チハヤさんから電話があったの。あなたがバイクに轢かれたって」
「……」
「なぜチハヤさんが私の電話番号を知ってるかって言うとあなたのスマホの着信履歴を調べたからよ」
コナンの思考を先回りして答える灰原。
「なるほど。だとするとこの花を活けたのはチハヤさんってことになるのか」
「いえ、チハヤさんは電話で救急車を呼んだあとそのまま怪しい二人組の追跡を再開したらしいわ」
再び考え込むコナン。
その時、突然灰原のスマホに電話が掛かってきた。
目で合図するコナンと灰原。
「はい……もしもし?」
「おお通じたか。あの少年は無事か?」
「ええ……あなたはさっきの?」
「ああ、私は神奈川県警交通部第三交通機動隊小隊長の萩原チハヤだ。白バイ隊を指揮してるから白バイエンジェルと呼ばれている。はっはっはー!あの少年は電話に出れるかな?」
やれやれといった表情でコナンにスマホを渡す灰原。
「あ、お姉さん?僕を助けてくれてありがとう」
「うん、君には恩があるからね。無事で何よりだ。今君が追っていた黒スーツの二人組を追跡していてね。彼らは港近くの工場跡地へ入っていったよ」
「そっか。あの二人組かなり怪しいよ。動きがプロの殺し屋みたいだったし。もしかしたらナイトバロンの残党と関わりがあるかもしれない。充分気をつけてね」
「なんの。これでも私は武術の心得があるからね。ちょうど今晩大富豪が集う女性無料の婚活パーティー出ようと思っててさ。食事前の運動にひと暴れしたいところだったんだ」
「ははは(って笑えねー)……奴らは銃を持ってるかもしれないよ。これからFBIの知り合いに連絡するからその場を動かないでね」
「ふむ。郷入っては郷に従え……か。ではFBIが来るまで待つとしよう。優しいな君は」
「えへへ。今灰原がお姉さんのところに行くから状況を詳しく教えてね」
「うむ。きみの推理力には一目置いているからな。では協同作戦といこうじゃないか」
「ありがとうチハヤお姉さん」
その時パーンという銃声がスマホから響き渡った。
「え!お姉さん!?大丈夫お姉さん?」
「……ああ少年。状況は急を要するようだ」
「おね……」
そこでスマホは途切れてしまった。
※名探偵コナンのパロディです。トップ画像はピンダレスト萩原千速のアイデアから引用しました。
見据茶さんのこちらのセカンドストーリーです