あの公園で【春弦サビ小説】
何もない日曜日。
今日は朝からずっと雨が降っている。
部屋にはページをめくる音と、しとしとと降る雨の音だけが響いている。
今日はどこへも出掛けず家でゆっくりしようか。読書のかたわらそんなことを考えているうち私はウトウトと眠ってしまった。
そして昔の夢を見た。
雨上がりの近所の公園で、彼と枝下桜と眺めながら歩いていた。
だしぬけに彼は「なぜしょくぱんまんはモテるのかな?」と言った。
わたしはえへへと笑いながら「きっとやさしい紳士だからだよ」と答えた。
「じゃ、俺はしょくぱんまんにはなれないな。こんなおふざけキャラだし。アンパンマンは無理だしカレーパンマンかな」
「そっか……でも私、カレーパン好きだよ」
「ありがと。フォローしてくれて」
私はただ本当にカレーパンが好きだっただけなんだけど。
「ま、本当はソーセージパンマンだけどね」
「ふふふっ。なにそれ」
私はふとしょくぱんまんに恋するドキンちゃんのことを考えた。実はしょくぱんまんにはサニー姫っていう恋人?がいるのだ。ふたりでいるところを見たドキンちゃんは嫉妬に狂ってたっけ?ばいきんまんはドキンちゃんのことが好きだしアンパンマンって三角関係だよな~。あ、そういえば──。
──ねえねえ知ってた?カレーパンマンってけっこう気が多いんだよ。シュークリーム姫と相思相愛なのに、ハッパちゃんとりんごちゃんとおしるこちゃんも好きなんだよ。──ってマメ知識を彼に言おうと思ったけどやめた。
なんとなく私たちに似てると思ったから。
彼とはずっと友達のままでいようと思ってた。
彼のことが好きだったけど、それはずっと心の奥底に隠してきた。
告白して関係が変わるのが怖かったら。
彼は明るい性格で面白くて、女友達も男友達もたくさんいた。
彼はいったい誰が好きなんだろう?
私にはそれを聞く勇気がなかった。
「雨上がりの桜もきれいだね」
「うん」
「何か考えごと?」
「ううん、別になんでもないよ」
歩道には一面桜の絨毯が出来ていた。
ふと目を覚ますと雨は上がっていて、窓辺からまばゆい日が射している。
ふいにさっき見た夢を思い出して微笑ましい気持ちになった。
あの頃の幼い自分が愛おしく撫でてあげたくなった。
目の端の涙の跡に気づいてティッシュで拭いた。
私は立ち上がって部屋を出ると台所に行ってお湯を沸かした。
そして丁寧に時間をかけて桜の紅茶を作った。
ほどなくして出来た紅茶の馥郁たる香りをゆっくり味わう。
そうだ、もう葉桜になってしまったけどあの公園に行ってみようかな?
まだ少し桜が残ってるかもしれない。
私は思いきって花柄のワンピースに着替え、その上にカーディガンを羽織って外に出た。
すると郵便ポストに封筒が来ていることに気づいた。
取り出してみると懐かしい彼の名前だ。
封を切ってみる。
「若葉の候 ますますご壮健のこととお喜び申し上げます……」