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マーシャ戦記⑤ 戦闘開始



  宇宙艦隊をぐるりと囲んだラージノーズグレイの巨大葉巻型UFO群に対して右舷方向の敵に攻撃を集中し強行突破することを決意したマーシャ。
 しかしそれよりも前に五キロ前方で警戒していたハヤト少将率いる12隻の巡洋艦隊が単縦陣でUFO艦隊に突っ込んでいった。
 これには静止していたUFO艦隊もハヤト艦隊を避けるように左右に動き始めた。
 突如先頭艦のキタカミが眩い光に包まれると船首が爆発が爆炎を上げた。
 葉巻型UFOがビーム砲を放ったのだ。
 これを合図に各艦攻撃を開始する。
 撃破された二番艦以降右舷に転舵しつつ次々と光子魚雷を発射してゆく。
 同時に各艦最も近い敵艦に光学粒子砲の砲撃を開始した。


 
 これを後方12キロ地点で見守っていたマーシャも攻撃開始を命じた。
「先頭艦キタカミ撃沈しました!」
オペレーターが悲鳴をあげる。
「くっ遅かったか。戦闘開始!」
 ビル艦長が号令する。
「魚雷発射管開け!主砲一斉発射」
「テー!」ビル艦長が咆哮する。
 ニライカナイ級戦艦に備えられている九連想の光学粒子砲が一斉に青白い粒子を放出する。
  そのうち一発が一隻の葉巻型UFOの横腹に着弾爆発した。
 艦橋から歓声があがる。
  予想通りラージノーズグレイの宇宙艦は表面を特殊な金属で覆われているためレーダーが透過して連動射撃が出来ず、昔ながらの測距儀を使った観測射撃である。
 最初の斉射で命中弾を出すのは至難の技である。
 砲術長のマユズミ大佐の日頃の訓練の賜物である。
 前方の敵は光子魚雷を避けようと隊列が乱れたようだ。
「よしこのまま右舷の敵へ突っ込もう。なんとか包囲を抜けられそうだ……」
 マーシャが安心したのも束の間、旗艦スピッツの左舷前方一キロ地点を航行していた僚艦ロビンソンが突如爆発炎上した。
 周囲に十数機の円盤型UFOが現れレーザー攻撃したらしい。
「対空戦闘用意!」
 スピッツの上空にも七機の円盤が現れ攻撃を開始する。
「退避」
 ビル艦長の巧みな操艦で左舷に舵を切りレーザー攻撃を間一髪かわす。
 そこへ宇宙空母から発艦した機動猟兵が飛来し円盤へビームキャノンで攻撃する。
 目まぐるしく移り変わる戦場。
 第二艦隊の巡洋艦がシールドを張り対空防御に徹しているため、宇宙空母に被害は出てないようだ。
 しかしその後方輪形陣の外側でも戦闘が開始されたようだ。
「マーシャ司令。後方でも戦端が開かれたようです」
「うん、敵は包囲殲滅を狙っているようだな」
「どうします?このままでは……」
 このまま輪形陣を維持しながら戦えば後方の艦が背後から攻撃されることになり不利だ。それに魚雷が使えない。
「よし、艦隊を分離しよう。宇宙空母より後ろの艦は左舷へ転進。各艦前方の敵を攻撃し包囲を突破すべし!」
 艦隊の分離は一種の賭けだった。
 各個撃破される危険がある。
「マーシャ司令、宇宙空母と補給艦だけでもワープで逃がしたらどうですか?」とブリューゲルが進言する。
「うん、それも考えた。だけどワープする瞬間無防備になるし敵を連れていくかもしれない。あのうるさい円盤を撃墜しないと」
 ワープ中は攻撃ができない。移動中に砲撃すると自艦に跳ね返ってくる可能性がある。
「うわっ!」
 その時艦橋が眩しい光に包まれると激しく振動した。
「っ…。被害報告!」
「主砲付近に着弾。小破!」
 ニライカナイ級宇宙戦艦は艦橋や砲塔、機関部などを特殊なネオチタニウム合金の装甲で造られているため防御力は高い。
 自艦の持つ光学粒子砲の直撃にも耐えられるよう設計されている。
 それに比べて宇宙空母と巡洋艦、駆逐艦はスピードは出るが装甲が脆弱だ。
「ロビンソンの被害はどうだ」
「はっ。大破かと。しかし後部三連装砲は未だに応戦してるようです」
 ロビンソンが健在なことに胸を撫でおそすマーシャ。大破しながらも応戦する姿は軍人の鑑であり感動を覚えた。
「もう充分だ。ロビンソンのコジマ艦長に総員退艦を伝えよ」
「はっ」
 艦隊の周りでは宇宙空母を発艦した機動猟兵がビームキャノンで円盤を次々撃墜し制空権を取り持ちしつつあるようだ。
 先遣艦隊の突撃が功を奏し敵左舷方向の敵は多数の葉巻型UFOが撃破され左右に退避しつつある。
 このまま攻撃を続ければ包囲を突破できそうだ。
 しかし敵が送りこんできた円盤UFOの数が増え対空戦闘により艦隊の足並みが揃わず落伍する艦も出てきた。
 また後方の分離した艦隊もUFO艦隊により包囲され夥しい数の円盤から激しい攻撃を受けていた。
 ハリネズミのように対空レーザー砲の弾幕を張り必死に円盤を撃退する旗艦スピッツ。
 主砲も対空戦用の拡散ビーム砲に切り替えた。
「先遣艦隊。半数を喪いましたが包囲を抜けたようです」
「よし、なんとか抜けられそうだね」
「はい、このまま周囲の敵を撃破して突破口拡げましょう」
 しかしマーシャには懸念があった。
「しかし前方の敵減ってないか?」
「私もそうおもいます。恐らく多数の戦艦を有する我々前衛を避けて、分離した後ろの艦隊へ攻撃の主軸を移したのでしょう」
「奴ら後ろの艦隊を包囲殲滅させるつもりだな」
 再三後方の艦隊から被害報告が届いている。
「……まずいですね」
 マーシャは悩んだ。このまま包囲を突破したあと宇宙空母と共に安全な宙域までワープするか。しかしそれでは後方の艦隊を見捨てることになる。艦隊の半数を喪っては今後の作戦行動が覚束なくなるだろう。目的を果たせないまま地球へ帰還するわけにはいかない。
「空母を逃がしたあと無傷の艦艇だけ集めて再度反転するか?」
「司令、それは危険過ぎます。敵は包囲に厚くするでしょう。ご再考を……」
 主力である宇宙空母が無傷なら半数を見捨てる非情な決断も必要かもしれない。
「……」
 腕を組み塾考するマーシャ。


 後方の艦隊は進路を90度左舷に変え、そのまま直進して前方の敵に激しい砲撃と雷撃を加えたが、二重三重に囲んだ敵の艦隊を抜けず完全に包囲されてしまった。
 また遠巻きしたUFO母艦から次々と円盤を繰り出し激しい空宙攻撃を加えていった。
 巡洋艦が密集した隊列を組みハリネズミのような対空砲火で必死に応戦する。
 しかし弾幕を掻い潜った円盤隊の攻撃により八隻の重巡洋艦が大破炎上三隻の軽巡洋艦が撃沈、駆逐艦十四隻が撃沈してしまった。
 

 
 このときようやく最初の攻撃隊が戻ってくる
「アカイ隊長、艦隊が攻撃を受けています」
 副官のブンター中佐は青い機動猟兵を駆り、アカイ大佐を補佐している。
「ああ、我々はまんまとはめられたらしい。マーシャ司令は艦隊を分離したようだな。あの素早い奴は後回しにして敵の母艦を叩こう」 
 アカイ大佐の咄嗟の判断で円盤群には目もくれず、遠巻きに包囲していた巨体葉巻型UFO群に、ブーストを最大にして接近する機動猟兵隊。ビームキャノンを撃ち込むも撃破するのは難しいようだ。
 UFO艦隊もビーム砲で応戦五、六機撃破されるも、先頭を行く真紅のアカイ機が卓越した操縦回避しながら接近、UFOに取りつくと外壁にビームサーベルを突き立てた。
 そのままブーストしながら真一文字に切り裂くと、UFO母艦は眩い閃光を放って爆発した。
 退避しつつすぐさま次の獲物を探すアカイ機。
 他の機もアカイ機に倣って次々とUFO母艦に接近戦を挑んでいく。
 そのとき包囲していたUFO艦隊の後方に閃光が走り一隻の中型艦が爆発した。
 無傷の艦を集めたマーシャが反転攻勢に来たのだ。
 光学粒子砲の猛射を受けて次々と撃沈するUFO母艦。
 

 アカイ隊とマーシャ艦隊の出現により数的に優勢なラージノーズグレイの宇宙艦隊も、一部包囲される形となり、約二時間にわたる激戦の末、遂に退却を開始した。
 マーシャは追撃を命じず傷ついた後衛艦隊と合流すると、撃破された艦船から宇宙艇で脱出した将兵の救助作業にあたる。
 この戦いで多くの敵を撃破したものの、味方も多くの艦船を喪い、全艦艇の30%が損傷を受けてしまった。
 救助完了後、戦死した将兵を宇宙葬に付すとアカイ隊の護衛のもと先に退避した空母艦隊の宙域へタイムワープした。


【続く】


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