居酒屋銀河亭 寅さんとミサト 男はつらいよ番外編
北十字駅で一生懸命海砂糖の売(バイ)を行うもまったく売れない寅さんは今夜もふらふら居酒屋銀河亭の暖簾をくぐる。
「へい、らっしゃい」
眼鏡にバンダナ、髭を生やした長身の店主が迎える。すっかりお馴染みだ。
「おやじ酒をくれ」
「へい、旦那どうです景気の方は?」
「今日も全然だめ。ここに来る客はみんな貧乏人かい?こりゃ三途の川の渡し賃稼ぐまで何年かかるのかねえ。酒はゆる燗でな」
「あいよ!つまみは?」
「そうさね。スカイフィッシュのお造り貰おうか」
「へい」
器用な手つきでスカイフィッシュを捌く店主。
あっという間に透明なお造りが出来上がり寅次郎に差し出した。
「ありがとよ」
居酒屋にはさっきからおしゃれな曲が流れている。
ななど~めの~フランダ~~ス~のい~ぬが~とび~♪
「お、しゃれたいい曲流してるねえ。いつもは演歌のくせにようう。ゆんべは恋の季節だっけ?」
「あのね旦那。今日が何の日か知ってますか?」
「ん?肉の日か」
「いえいえ地球の暦じゃ今日は12月24日、クリスマスイヴですよ。こんな銀河の中じゃ季節感がないからね。たまにはこういうのもいいでしょ」
「そうか。じゃこいつはクリスマスソングってやつだな。今頃地球じゃ恋人たちがいちゃついてるのかねえ」
しんじ~つの~あいなどし~ら~ぬ~ものた~ち~よ~♪
「真実の愛ねえ。俺も知らねえや」
寅次郎がいつものカウンターの席で、ゆっくり曲を聴きながら酒を飲んでいると隣で若い女性がビールを飲んでるのに気がついた。
「ぷっはぁ~~!やっぱ宇宙で飲む銀河高原ビールは最高ね~♪♪」
「お、そこの姉ちゃんいい呑みっぷりだね。江戸っ子かい?」
「へ?江戸っ子かなんか知らないけどあたしは第三新東京市生まれよ。お兄さんは?」
「わたくし生まれも育ちも葛飾柴又。帝釈天で産湯を使い姓は車、名は寅次郎人呼んでフーテンの寅と発します」
「へ~。なんか面白~い。そのセリフ昔の映画で観た気がする~」
「ずいぶん酔っぱらってるみえてだけど大丈夫なのかい?」
「え?あたしの心配してくれてるの?優しいねえお兄さん。あたしね。今めっちゃ落ち込んでるのよ」
「よかったら話を聞いてやるぜ」
「聞いてくれる?あ、まだ名前言ってなかったね。あたし葛城ミサト。人類守るためにがんばったんだけどさぁ。あたしの力が足りないばかりに人類滅んじゃったのよ」
「そりゃあ大変だったな。まあ人類が滅んだぐれえでくよくよすんなよ。あんたはがんばったんだからよ」
「ありがと~。実はさ、ある人の男の子預かったんだけどね。あたしお母さん代わりになれなかったのよ」
「それで落ち込んでたってのかい。」
「うん。あたし育て方間違ったみたい。あたしもさ。ずっとひとりだったからどう接していいかわかんなくてね」
「人様の子供預かってひとりで育てるなんて大変だぁね。俺の故郷の柴又のとらや。そこに連れてくりゃなんとでもなったのによぅ」
「そうね~。その頃寅さんと知り合ってシンジくんの面倒見て貰ったらきっとシンジくん、違う生き方したとおもうわぁ。」
「まあ若いうちはいろいろあるからなぁ。俺も若い頃親父をおもいっきりぶん殴ってよ。それから20年家に帰らなかったからなぁ」
「ぐびっ。そうよ、男の子はそれぐらいでなくっちゃ。シンジくんもあんなバカ親父殴ってやればよかったのよ」
「姉ちゃん随分飲むねぇ。で、そのシンジくんってえのは親父と仲直りしたのかい?」
「それがさぁ。そのバカ親父、ゲンドウって言うんだけだね。そいつにたぶらかされてさぁ。ニアサードインパクトっての起こされて人類ほとんど死んじゃったのよ」
「そいつぁひでえ親父だな」
「そうなのよ。悪魔よ悪魔。あたしその人の元で働いててさ。人類のために一生懸命戦ってきたのにパ~よパ~」
「なんだってそのゲンドウって親父はひでえことしやがるんだ?そいつはヤクザかい?」
「あはははは。うまいこと言うねえ寅さん。まさにヤクザみたいなもんよ。グラサンして悪人面だしさ。言うこと為すこと全部パワハラ。でも中身はただの変態。亡くなった奥さんにまた会いたいなんてしょうもないこと考えてんのよ。自分の理想に人類巻き込むなっちゅ~の」
「よくわかんねえけど悪い奴にはちげえねえな。俺がひとつぶん殴って根性叩き直してやろうか。てめえが息子を騙したせいで人類滅んじまったじゃねえかってな」
「お、いいねいいね~。寅さんが殴れば根性入れ代わるよきっと。あいつ友達いなくて寂しがってるからさ」
「よし、じゃあ姉ちゃん。そのゲンドウって奴の所まで案内してくれ」
「あ、ごめん寅さん。あたしさ~ちょっちワケありでさ~。現実世界に戻れないのよ」
「なんだいそのワケありってのは?」
「つまりその‥‥死んじゃったのよ」
「死んだ?なんだ俺と同じじゃねえか。俺もいっぺん死んだのよ。京都の宿屋で雪女に騙されてな」
「雪女?あはははは。面白いこと言うねえ。でも寅さん、あんたとても死んだようには見えないよ。顔にまだ生気があるもん」
「そうかぁ?俺も自分が死んだとは思えねえんだよ」
「もしかしてさぁ。体の方はまだかろうじて生きててて魂だけが抜け出してここに迷いこんだんじゃないの?」
「そうよなぁ。俺は銀河鉄道でここまで来たはいいがこれから渡る三途の川の渡し賃がなくてよ。海砂糖ってのを売って稼いでたんだが全然駄目。なんせ666万だぜ。こりゃ10年たっても渡れねえと途方に暮れてたところよ」
「そりゃ渡らなくてよかったのよ。もしかしたら現世に戻れるかもしれないわよ」
「そうかねえ」
「そうよきっと。…寅さんみたいないい人がさ、シンジくんのお父さんだったらニアサーも起きずに済んだのに」
「おいおいあんまり買い被って貰っちゃ困るぜ。こんなぶっ壊れた面に空っぽの頭。出来るのはせいぜい渡世人ぐれえのしがねえ男よ」
「いいなぁ、ひっく。寅さんさぁ。昔付き合った男にちょっち似てるのよね~。そいつ顔は四角くないけどフーテンでさぁ。なんとなく雰囲気がねえ。‥‥あたし好きになっちゃうかも‥‥」
そう言って寅次郎になだれかかるミサト。
「おいおい姉ちゃん、俺に惚れてもしょうがねえぞ。それに酔っぱらってんだろ。本心じゃまだそいつのこと好きなんじゃねえか?」
「くは~~。なんでもお見通しね寅さんは。本当はあんな奴嫌いになりたいのよ。‥でも、でもね‥‥」
そういって泣き出すミサト。
じっと見守る寅次郎。
長々とミサトの昔話を聞く寅次郎。
泣きながら話すミサトも寅次郎に話す内段々落ち着いてきたようだ。
「‥‥そうかい。その昔付き合った男、 加持リョウジってのかい?そいつは既に死んじまっていつか自分も死んだら会えると思って頑張って生きてた。ところがくたばってあの世へ来てみるとやっこさんどこにもいねえ。寂しくて死にそうだって、こういう訳 だ」
「まぁ死んでるのに死にそうだなんてのはおかしいけどさ。大体そんな感じ。あいつ悪いことして地獄にでも落ちたのかな?」
「そいつは心配ねえよ。話を聞くといい男みてえじゃねえか。俺に似てよ。きっとまた会えるぜ」
「そうかなぁ。あいつ女好きだから美人の幽霊と浮気でもしてるんじゃないかなぁ」
「そんなことねえって。そいつは姉ちゃん一筋だぜきっと。俺に似てるならきっとそうだ」
「優しいねえ寅さん。あたしもう少しここで待ってみようかなぁ」
「ここは大勢人が来るからなぁ。ヘンテコな面した化物もいるしよ。車掌の宮澤さんに聞くとよ。ここから仏教だのキリスト教だの無宗教だのその人の信じる道に沿って鉄道が枝分かれしてるそうじゃねえか。俺は日本人だから三途の川を渡らなくっちゃならねえとおもってここにいるけどよ。きっとその加持って男もこの北十字駅に来るぜ。それに酒好きなら汽車に乗る前に一杯引っかけようとこの居酒屋に寄るかもしれねえよ。なぁオヤジ」
「へい。色んな人が来ますからねえ。善人悪人異星人。おかげさまで繁盛しております」
「その姉ちゃんが好いた男も今にきっと来るよ」
「そうかなぁ」
「そうだよぉ。俺の勘は当たるんだから。なぁオヤジよ」
「へい。おっしゃる通りでございます。ところでお客さん。その加持リョウジって男。もしかしたらこんな面じゃございませんか?」
そう言って居酒屋の店主はバンダナと眼鏡と付け髭を外すと声色も変えた。
「あ、あんた!?」 絶句するミサト。
「よう久しぶりだな。葛城」
「まさか俺に役者の才能があったなんてなぁ。声も違うだろ。声優、なれるかな」
「何だって!?ってことはオヤジ、あんたが加持さんかい?」
「ええ。俺はここで居酒屋の店主をしながら葛城が来るのをずっと待ってたんです。こいつ呑兵衛だから」
「バカっ。なんでもっと早く言わないのよ」 そう言って涙を流すミサトもどこか嬉しそうだ。
「わりぃ。ちょっと驚かしてやろうとおもってさ。寅さん、葛城の話を聞いてくれてありがとうございます」そう言ってお辞儀するリョウジ。
「いいってことよ」
「しかし色男ですねえあなたは。葛城が惚れそうになるなんて。マジで妬けましたよ」
「な~に。俺はいい三枚目よ」
そう言って寅次郎はぐいっと酒をあおった。
※これはフィクションであり男はつらいよとエヴァンゲリオンのパロディです。
見据茶(みすてぃ)さんは才能溢れる素晴らしいクリエイターで名曲の数々を生み出してます。
見据茶(みすてぃ)さんのこちらの記事からインスパイアされました。
こちらは拙作で😂