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トキメキメモライズ

 昔の自分や初恋を思い出しつつ、にやにやしながら読んでいただけると嬉しいです。では、ぽちぽち
 コメントお待ちしています。

テンポのよい軽い音楽に感情たっぷりのナレーションが重なる。

 かつてのときめき、覚えていますか?
 ドキドキしたいあなたに
 唯一無二の思い出を。
 トキメキメモリー
 今すぐダウンロード。

 18歳以下の方は入会できません。

 「ただの出会い系アプリのくせに18禁のギャルゲーみたいな雰囲気出すのよね。」
 テーブルの向こうでうつ伏せたまましゃべる女に「いや、どっちかっていうと乙ゲー。女の妄想はヤバいから、うまい具合に偽装して純情を装っているんだよ。」と意味不明なことを適当に返す。
 向かいに座る女は最近、彼氏の部屋で18禁のギャルゲーを見つけてしまったらしく、ここしばらくなにかと絡んでくる。彼氏ができた途端に連絡がパタリと止んだのになんて、面の皮の厚い。
女の友情なんてこんなもんか。

 女曰く、18禁のゲームよりも二次元オタクだと気が付かずに付き合ってしまったことがショックらしい。
 しょうもないプライドだ。
 二次元男の18禁なんぞどうでもいいが、ちょっとだけどんなもんなのか気になる。どこぞのレンタル屋のカーテンゾーンくらいなのだろうか。
 まぁ、カーテンゾーンの先を知らないので結局どの程度か想像はつかない。

 銭湯の休憩室で片肘つきながらでっかいテレビを眺めていると可愛い系の女優さんが男性の胸にそっと寄りかかっていた。
 彼女はこの仕事でナンボもらってんだろうか。ギャラが良ければやりがいもあるんだろうな。

 「ん?今の発言聞き捨てなりませんねぇ!ではお聞きしましょう。お嬢さん、いつもはどんな18禁ゲームをやっていらして?」 
 聞いていないと思って適当に答えていたのにテーブル越しにいきなり身を乗り出す女に驚く。だが、期待には応えられん。
 「スマブラ。」
 返事は舌打ちだった。
 「つまんねぇなー。お前もオタクかよ。今ので萎えたわ。もっと、私が喜ぶ少女漫画並みの?吐き気を催すくらいの甘々な恋バナとかぁ、年上の彼氏にめっちゃ貢がれてふられるザマァみたいな恋バナとかぁを私は聞きたいの!」吐いちゃうのかと内心ツッコミを入れてから「小学校のときのやつならあるぞ。」と答える。
 「初恋!聞きたい!」どっかの漫画のヒロインみたく胸の前で手を組む女。
 確かに初恋だけど、初恋って勝手に決めつけるな。なんかムカつく。
 「恋バナは聞きたい派だから素面じゃ話せません!だから無理。」
 暗に奢れと圧をかけるがのっかってくるか。
 足を組んで5秒ほどそれらしく宙を睨みつける女。
 「お酒だけじゃあ、私が物足りないので、特別におつまみを進呈しましょう。」
 なんだかんだでノリが良いやつだ。

 ホッカホカの唐揚げとゲソのガーリックソテーがテーブルに並び、遅れての香ばしい匂いが漂ってくる。つややかなビジュアルに目が釘付けになった。
 そういえば、銭湯来る前はなにも腹に入れなかったな。
 チラリと時計に目をやると現在の時刻は23時寄りの22時。魔の時間。夜食は良くない。でも、お腹空いているから仕方ないよねと言い訳をしながら唐揚げの付属品のレモンを大きく持ち上げて回そうとする奴の手をはたいた。
 「レモンは自分が食べるやつだけにかけな!」
 「私のお金じゃん!」
 そういえばそうだった。

 対面に座る口やかましい女とは高校からの仲で、しょっちゅう喧嘩する。だが、奴は魚並みの脳みそなので喧嘩した次の日にはなにも覚えていない。なんで仲がいいのか今でもよくわからない。 

 口の中ではじける肉汁を飲み込み、すかさず冷え冷えのレモンサワーでのどを潤す。うまい。
 物言いたげな視線にサービスでそれらしく発声練習をする。
 あーあーあーんんっん。
 「いや、そういうのいいからさっさと本題いって。」情緒のかけらもないやつ。頭スカスカのくせに意外と仕事はできる方なんだよな。と無関係なことを考えながら小学校時代に思いをはせて話し始めた。

 私さ、小学校のとき、親の都合でこっちに転校してきたじゃん。すごく心細かったんだよ。友達いないし先生は怖いし最悪だ!って思ってた。

 そこで初恋の彼が出でくるのね。慰めたりぃ、庇ってくれたぁ?

 それが、違うんだな。初恋の君はね、学年が上がったクラス替えの時じゃないと出会えないんですね。

 結構先じゃん。時を進めて。

 せっかくクラスに馴染んで共通の話題とかできたのにクラス替えのせいでまーた最初からやり直さないといけないって思うとそのときは超嫌だったんだ。

 それでそれで、初恋の君は?

 今まで他のクラスの人とは接点がなかったから、教室で見かけたとき、あの子誰!って私の中でなったんだよ。

 ビジュアルをはよ!

 うーん。なんていうか中性的な顔立ちで程よく髪が長かったんだ。髪は長いんだけどね、男子にしては長いってくらいかな。あと、笑うとエクボができてかわいかったな。

 ふむふむ、中性的にロン毛にエクボ。素敵!イケメンの定義に完全に則っているわ!パーフェクトよ。それから?

 その子は男の子とはそこまで仲良くなくて、女の子によく囲まれていたから遠くから見るってだけだったんだ。だいたい、お話する女の子はクラスの一軍的ポジションで運動できる系とか、綺麗な見た目の子ばっかりでちょっと羨ましかったな。

 きゃ!ハーレム、嫉妬、純粋な少女の片想い。なにこれ。すごくドキドキする。テンション上がりまくりよ!

 勉強はできない子だったけど、運動神経抜群で特にサッカーが上手くて、体育の時間は大活躍してた。かっこよかったな。

 サッカーねぇ。結構、王道を攻めるわね。頭が悪いとなるとまともな大人になりそうにない気がするわね。きっと今頃クズ男で女にたかるヒモなんだわ。でも、そういうタイプの男の話もいい!私は好きよ。

 それから一年後、ようやくその子と話せたんだ。


 少し、沈黙をもたせて幸せいっぱいにほおづえをつく女を見る。きっと今、私悪い顔しているんだろうな。
 「私が、その子と初めて話をしたのはな、女子更衣室だったんだよ。」

え?と予想通りの表情をするアホ。  
 息を吐いて、続ける。
「そいつ、実は女だったんだよ。」
数秒固まった後、「嫌ぁぁぁ、そんなの求めてない!嘘と言いなさい。だだの変態で女子更衣室に忍び込んだとか!罰ゲームで入ってきたとか。」たくましい想像力を働かせる女にため息をつきながらもう一度言ってやる。
 「お、ん、な、だったんだ。」
 嘘おっしゃい、だましたな!とかなんとか一人芝居を始めたが急に距離をとり、自分の体を守るように抱えた。「あんた、もしかしてレズビアン?」明後日の方向に話を捻じ曲げてきた。
 この自意識過剰。顔がいいからって調子に乗って……。
 「違うわい。私が単純にその子のことを男って勘違いしてただけ。」
 ぬるくなった酒に口をつけながらあの時のことを思い出す。
 小学校の高学年にもなれば、体に男女差が出始めた。そこで体育の時間の着替えは教室から更衣室に変わり、その日みんなソワソワしていた。
 あの日のことは今でも覚えている。堂々と更衣室に入ってきたあの子を見て息が止まった。周りの女子は誰一人注意するそぶりはなく、その子の意外にも可愛いキャラクターものの下着に心が、リアルにパリーンって割れた。本当にパリーンって、私だけに聞こえたんだ。

 それからはクラスメイトの一員として接した。女の子だと分かってから初恋は冷めてしまった。どこかの小説みたいにそれでも好き好きで仕方がないというふうには続かなかった。たぶん、レズビアンじゃなかったっていうのもあったんだと思うし、恋っていう単語に恋をしていたお年頃だったのかもしれない。過ぎたことだからこそいろんなふうに解釈ができたけど、こっそり物陰からあの子をみて勝手にドキドキして勝手にときめいていたのは否定のできない事実だ。
 初めこそ一人で盛り上がって、最後には勝手に傷ついたが。まぁ、これも一種の恋と言えるだろう。

 皿に残ったゲソをつまみながら向かいの女に「最初っから恋バナをしてやろうなんてかけらも言ってなかったから文句、言うなよ。でも、結構ときめいたでしょ。」とかなんとか適当をぬかして酒のおかわりを要求したら殴られた。

 女の友情も初恋も存外、適当なもんだなと思った。






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