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トッド・ソロンズ初期作品

アカデミー賞脚色賞とったアメリカンフィクションが面白かった。でだいぶ趣は異なれど、これを見ながら思い出したのがトッド・ソロンズのオムニバス『ストーリー・テリング』の一遍『フィクション』であった。大学の創作クラスで教師を務める中年男性を底意地悪く描いた話で、今回見直す気にはならなかったものの、多数派への帰属意識が希薄、というよりはっきりと拒絶された視点を足がかりに映画を撮り続けてきたソロンズの原点をいま一度探って見るのもいいかもしれない。というわけでソロンズの初期作が見られたので以下メモしておこう。

①『Feelings』1984.2m.白黒

②『Babysitter』1984.9m.白黒

③『Schatt's Last Shot』1985.10m

④『Fear, Anxiety and Depression』1989.85m

①『Feelings』1984.2m.白黒

①はフィルムスクール在学時に撮った処女作。以降2作目を除いて4作目まではソロンズが主演し、いずれも惨めで虚しい自画像を演じることになる。撮影はAndy Day(バイオが出てこず詳細不明。撮影監督としてのクレジットはこれ一本だが、その後も話題作に参加している。最近だと「アンカットダイアモンド」など)。

わずか2分ながら、感情が人に及ぼす影響を歌い上げている。タイトルにもなっている劇中ソロンズが歌う「愛のフィーリング」(原題は、Feelings)は、ブラジルのシンガーソングライター・モーリス・アルバート(Morris Albert)が1975年にリリースしたシングル。途中からフランス語混じりになっているあたりそこはかとなくおかしく、追いかけてくる女性の不釣り合いな居住まい、コニーアイランドの寂しい佇まい、どれものちのソロンズ節を予感させる。

②『Babysitter』1984.9m.白黒

Babysitter

②少年がベビーシッターとともにする一夜。ギャルに対する幻想が、細かいカットで対象化される。ゲームを通じて対決したあと脱臼して終幕する。クラム描くところのgrrlを想起。撮影はNY滞在中のセドリック・クラピッシュ(『スパニッシュ・アパートメント 』)で③も担当。

③『Schatt's Last Shot』1985.10m

Schatt's Last Shot

③ソロンズにとって学校とは地獄。体育教師が大声でがなり立てながらいじめまがいの補習を強制する。ロッカールームでうなだれたソロンズにチアガールが優しく声を掛ける。

④『Fear, Anxiety and Depression』1989.85m

Fear, Anxiety and Depression

④前作が制作会社の目に止まり初長編監督となるが、制作に際しての苦労から、次回作までの6年間雌伏を余儀なくされる。内容はアートスクールの同輩をめぐる群像と、いつもながら惨めな自画像をソロンズ自ら早口でまくしたてるほぼ自伝的なしろもの。撮影はティム・バートン、エロール・モリス作品など手掛けたステファン・チャプスキー。

処女舞台『絶望』公演を終えた若き劇作家エリス(ソロンズ)は、その奇特な内容が酷評され次回作に二の足を踏んでいる。両親からは再び実家での同居と工場での手堅い就職を勧められ、暗に才能の無さを諭されるばかり。そんな折、彼の作品に心酔した女性に付きまとわれるようになる。

当時のニューヨークの一端が見られる。イーストヴィレッジの街路、アングラ劇場、クラブ、アートスクール界隈。ジャンクという名のパフォーマンス・アーティスト(Jane Hamper)を追いかけていくことでスカムカルチャーを垣間見ることができる(というよりこのアートシーンとの決別と見るべきか)。ソロンズにしては街路で撮りすぎなほどで、同じ頃NYアートシーンを扱った映像作品が立て続けに作られており、そのあたりの要請が物見遊山として並べられたのか。また並行して描かれる恋愛要素も前後作の突き放された景色よりハッスルしていて、次のウディ・アレンを期待されたのだとしたらそれはソロンズの素質とは程遠いのであった



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