【読書会】夢見通りの人々 宮本輝 ① -117

○読書会の始まり

弟子:いよいよ読書会ですね!楽しみだなぁ。宮本輝の本での読書会は、何回かしてますね。
弟子の友:そうそう、前回は確か『錦繍』だったよね。あの時もいろいろな話題で盛り上がったなぁ。宮本輝の本って、話が尽きないんだよね。

師匠:宮本輝の描く世界には、どこか懐かしさと人間の深みがある。読むたびに新しい発見があるから、こうして皆で語り合うのが楽しみだ。
大師匠:そうだな。宮本輝の作品を通じて、人生や人間関係を考えるのは貴重な時間だ。今日も面白い話題がたくさん出そうだな。

弟子:僕も準備してるときから、早く話したい!って思ってました。今回は、『夢見通りの人々 宮本輝 新潮文庫』です。心に刺さる場面が多かったので、みんなの感想を聞くのが楽しみです。


弟子の友:同感!登場人物の言葉がどれも深くて、どの部分を話題にしようか迷ったよ。特に春太の孤独や優しさについて、語り合いたいね。
師匠:そうだな。読書会の良さは、自分が気づかなかった部分に他の人が気づいて教えてくれることだ。今日はどんな視点が飛び出すのか、私も楽しみだよ。
大師匠:宮本輝の本はいつ読んでも古びないな。読者の人生経験に寄り添ってくれる作家だ。今回もみんながどんな風に感じたのか、じっくり聞かせてもらおう。
弟子:それじゃあ始めましょうか!みんなの話を聞いて、どんどん考えが深まるのが楽しみです。
弟子の友:今日はどんな気づきがあるかワクワクするよ。さぁ、読書会スタートだ!

○幸せとは、戦争とは、

弟子の友:では、最初は私から。本の中で、おばあさん(トミ)が亡くなる時に、主人公の里見春太が入れ歯を洗ってくれたことで、大変喜んだという場面がとても印象的でした。おばあさんはそれを「幸せ」と感じ、自分の生涯についても「幸せだった」と言えるようになったんですよね。

トミは息子のことを思い浮かべていたのではなかった。里見春太が、入れ歯を洗ってくれたことに驚き、感謝で胸がふさがれたようになっていたのだった。こんなに汚ならしいものを、と彼女は思った。肉親でもいやがることを……。

夢見通りの人々(新潮文庫) 宮本 輝

弟子の友:うん。そのシーンを読んで、幸せって一つの優しさや思いやりで帳消しにされるものなのかなって考えさせられたよ。おばあさんは戦争で子どもを亡くしたり、辛い人生だったはずなのに、春太の行動で救われたように感じた。
師匠:なるほど。その「入れ歯を洗う」という些細な行為に、彼女は人間らしい優しさを見出したんだろうな。小さな行為が人の人生を変えることもある。だけど、それが「帳消しになる」という感覚、これは簡単なようで深いテーマだね。
大師匠:戦争で子を亡くしたおばあさんにとって、その喪失感は計り知れないものだ。それでも最後に春太という優しい若者に出会ったことが、彼女の「生きてきた意味」を再確認させたのだろう。だが、これは彼女個人の物語であって、戦争がもたらす悲劇そのものは別の話だ。
弟子:そうですね。戦争は、権力者が主導して行うものですよね。でも、彼らにとっての命の価値は何万人分の一、何十万人分の一でしかないんじゃないかって思うんです。家族にとってはたった一人の大切な命なのに。
弟子の友:その通りだよ。権力者の視点から見れば、戦争で失われる命はただの数字かもしれない。でも、家族にとってはかけがえのない存在なんだ。そこに大きな断絶があるよね。
師匠:その断絶が戦争を悲劇的にしているんだろうね。権力者にとっては、戦争は戦略や目標を達成するための手段だけど、戦場で命を失う人やその家族にとっては、そのたった一人を失うことが人生そのものに等しい。
大師匠:戦争が終わった後の時代を見ても、その「たった一人の命」の重さを国や社会がどう扱うかは問われ続けてきたね。戦後補償や遺族への支援がその一つの形だろうけど、それが十分かどうかは議論の余地がある。
弟子:おばあさんのように、人生の最後に「幸せだった」と思える瞬間を持てたことは救いだったと思います。でも、それを支えたのは春太の優しさですよね。権力者のような大きな視点ではなく、隣人としての一対一の関係が力になった。幾多の不幸を帳消しにしたとありますからね。

どこかに息子の面影を持つ里見春太に。トミは薄れていく意識の中でそう言い聞かせた。死の間際に訪れたしあわせは、それまでの、トミに降り注いだ幾多の不幸をすべて帳消しにしたのである。

夢見通りの人々(新潮文庫) 宮本 輝

師匠:その通り。隣人としての優しさや小さな行為が人の人生を支える。春太が入れ歯を洗うという行為は、どんな大きな政治や権力の動きよりも、そのおばあさんにとっては意味があった。それを「戦争」の中で考えるなら、こうした小さな繋がりをもっと大事にすべきだったということだろう。
弟子の友:うん、まさにそうだね。個人の命を軽んじることなく、もっと一人ひとりを大事にできる社会を目指すべきだと思うよ。
大師匠:春太のような人が「たった一人の命」を守るような社会を作っていくのだろうな。一人ひとりが優しさや思いやりを日常の中で実践していくことが、重要だと思う。
弟子:確かにそうですね。僕も、日常の中で春太のように小さな優しさを忘れずに過ごしたいと思いました。
弟子の友:では、引き続きは次回にしましょうか。


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