私の読書遍歴⑦ (心の苦しみへの対応) -116

前回

○心の苦しみへの読書の助け

弟子:では、私が苦しんだときの読書に救われた話をします。
師匠:聞かせてもらおうか。
弟子:自分の心を苦しめることがありました。仕事が思うように進まない。上司から厳しい指摘を受ける。仕事が進まない。叱られる。さらに、自分自身で勝手に人と比較しては、自分を見下してしまう。まさに負のループに陥っていたと思っています。
師匠:それは、苦しいな。今ではパワハラといった言葉もあるが、上司によっては、「厳しくすることが、その人を育てるんだ」とか「私も厳しい上司によって育ててもらった、感謝している」という言葉も横行しているしな。
弟子:苦しかったです。夜は、酒で酩酊して布団に入っていました。枕元には4Lの焼酎が置いてありました…。この為、睡眠の質が悪く、途中で起きる。そして、途中で目がさめると自分で自分を責める、そして、あの仕事は自分の進め方が悪かったと反省し、なかなか眠れない、という状況。
師匠:心は、暴走するしな。自分の心を制御することができない。マーク・トウェインも「心は人間から完全に独立している」と言っておる。ひとたび、心が暴れ出したら、自分では制御できない。落ち着くのを待つしかないな。そして、その様なしんどい状態をどう対応したのだ。

心というものは、人間から独立しているのだ。人間にはそれをコントロールする力などなにもない。心は、ただ自分の好きなように行動する。問題をえらぶときにも、人間など無視する。それを考え続けるときにも、人間など無視する。それを捨てるときにも、人間など無視する。心は人間から完全に独立しているのだ。

人間とは何か  マーク・トウェイン 著 大久保博 訳  角川文庫

弟子:そんな中でも、なんとか本を読み、心の救いはないか自分を助けてくれる言葉はないかと読み、たまたま、図書館で宗教の棚の前に立ちました。そして、なんとなく手に取った本が、『他人と比べず生きるには 高田明和』でした。
師匠:ふむ、そこから、何を得たのか聞かせてもらっていいか。
弟子:この本は、仕事をする中で多くの不安を抱えていた私に、心の安らぎを与えてくれた一冊だと思います。ただ、それまでの私は「とにかく頑張ることや汗を流すことが大事だ」という考え方を持っていました。この本に同意すれば、自分が廃人になってしまうのではないかという不安も感じました。一方で、この本は「何もしないことが良いことだ」と思わせるような内容にも感じられましたが、おそらく、当時の私がそのように受け取っただけだったのだと思います。たとえば、社会で正しいと思われているようなことは、自分を苦しめるだけといった言葉がありました。最後に、私が下線をひきましたが、「競争は私たちに苦しみを与えるだけ」という言葉に、納得させられました。

日本には社会通念として、全員ががんばれば社会がよくなる、それで全員が幸福になるという考えがありました。しかし今は、がんばれば必ず幸せになるという保証がない時代です。がんばっても幸せになれないのであれば、競争は私たちに苦しみを与えるだけです。

他人と比べず生きるには 高田明和 PHP新書

師匠:そうだな。「がんばればいいことがある」というのは、まるで都市伝説のようなものだと私も感じている。さらに悪いのは、「結果がよくないのはがんばっていないからだ」というような風潮が存在していることだ。
弟子:そうなんです。本を読みながら、「救われた」と感じると同時に、「この本に出会わせてくれてありがとう」と深い感謝の気持ちを抱いていました。
師匠:私もそう思う。本には、そういう力があるものだ。そして、ちょうど苦しんでいるタイミングに読んだということも、大きかったのだろうな。
弟子:この著者(高田明和氏)も心を崩されたときがあり、その時に、「困ったことは起こらない」という言葉を使っていたそうです。それ以来、私の頭の中でのヘビーローテーションしている言葉になっています。

当時私が使っていた言葉は、「困ったことは起こらない」という一句でした。

他人と比べず生きるには 高田明和 PHP新書

師匠:なるほどな。それで、自分の心を少しでも楽にしてやることが大事だな。確かに、仕事を進めたり、良い成果を出したりすることも大切だとは思うが、それ以上に、自分自身を大切にすることの方がもっと重要だと思っている。
弟子:そうなんです。それが、私が最初に話した、「この本に同意すれば、自分が廃人になってしまうのではないかという不安も感じました」というところなんです。仕事より、自分を大事にするというのは、ビジネスマンとしていいのだろうかって考えたんだと思います。ですが、今ならはっきり言えます。「それでいいんだ」と。
師匠:それでいいぞ。自分がいちばん大事だ。そして、家族が大事だ。仕事は、そのずっと後でいい。
弟子:これが、私の心の苦しみがあったときの話です。ここから、仏教の教えに感銘し、さまざまな仏教の本を読み始めました。
師匠:うむ、それでいい。読書は人生の良き伴侶だ。これからも、心に響く一冊との出会いを楽しみにしておくといい。また続きを聞かせてくれ。

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