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序ノ口の力士たち

九州場所13日目の序ノ口でアクシデント。土俵生活20年、35歳の肥後光が敗れた際、後頭部から落ち動けなくなり担架で搬送された。この肥後光、実は昨年九州場所の10日目の5番相撲澤勇戦の勝利以来負け続けている。翌日の7番相撲も不戦敗。これで30連敗となった。

肥後光に限らずベテラン序ノ口力士が増加している。今場所も

7枚目 霧丸 2001春 2勝5敗
8枚目 輝の里 1993春 4勝3敗
9枚目 森麗 2003夏 2勝5敗
11枚目 澤勇 1992名 1勝6敗
12枚目 肥後の龍 2004春 4勝3敗
17枚目 肥後光 2003春 0勝7敗


このあたりが該当する。良くも悪くもなく土俵に上がるだけ。それが仕事の力士たち。体格を見ると霧丸が171センチ・149キロ、輝の里が172センチ・190キロ、森麗が167センチ・130キロ、澤勇が167センチ・107キロ、肥後ノ龍172センチ・209キロ、肥後光170センチ・110キロ。おおむね体格は立派だがやはり小柄な力士も多い。

このうち輝の里、肥後ノ龍は三段目上位が最高位で力士として格は上である。この他潮来桜も序ノ口常連だが先場所久しぶりの勝ち越しで序二段昇格し7敗している。また165センチ60キロで奮闘の宇瑠寅もいる。 肥後光に限らず1年間で7敗を経験の力士が多い。

この中で澤勇、肥後光は最弱を争う2人。澤勇はこの1年ほぼ1勝ペース。今場所は澤勇が肥後光に勝利し1勝を勝ち取った。

肥後光について簡単にまとめると2003年の初土俵。当初より序ノ口で1~2勝ペースと一進一退だったが、新序出世力士で押し上げられた2005夏に序二段131枚目で初の勝ち越し。序二段で初の勝ち越しも珍しいが笠力、安喜ノ里といった序ノ口定位置力士と当たったのが幸運だったようだ。

2006初に初の5勝を挙げ、その後も年1度ペースで勝ち越しを続ける。2012秋に5勝を挙げ、翌場所最高位の序二段57枚目となった。その後も平均2勝ペースで時々の勝ち越しから序ノ口上位と序二段下位の往復。良くも悪くも一定の白星は挙げているため、森麗澤勇といった序ノ口常連に比べあまり注目もされなかった。しかし徐々に衰えたのか2016夏に2度目の7敗。2018九州に全休で番付外陥落後、序二段昇進が難しくなった。勝ち越しも2019九州の4勝(13枚目)が最後となり全敗は以後2022九州まで4度記録、1勝も8回と急速に力が落ちた。それ以降全敗が続き今に至る。内容も服部桜、澤勇からの白星が多いため実質全敗に近いともいえる。澤勇とは27回対戦し11回の勝利のようだ。現在序二段への昇進を17回、序ノ口筆頭を5回経験。時々髷がなくザンバラ髪で土俵に上がっているようだが何か理由があるのだろうか?

力士最年長は35歳前後の時代が長かったが、40歳以上の力士はかつての名物だった一ノ矢に始まりこの10数年で急速に増えた。朝青龍の付け人でなじみのあった輝面龍、51歳まで粘った昭和最後の華吹、さらにお祭り男の天一など多彩だが、序ノ口力士は長い力士生活の大半を序ノ口から序二段下位で過ごす。澤勇の場合初期に頸椎を負傷したことが不振の理由らしい。新弟子時代に雑誌の記事で「安芸乃島のような相撲を目指す」と抱負を語っている。

澤勇や肥後光に匹敵するのが2013年まで現役の笠力。1986春に初土俵。当時は序二段150枚、序ノ口が50枚以上の時代で当初より負け越し続き。1988秋に初の勝越、次の勝越しも2年後と厳しい時代が続いた。1991名に初の5勝を挙げるが翌場所全敗。平成初期は序二段が200枚近い力士過密時代だけに昇進は厳しく、1994名に185枚目で序二段初勝越、1999春・夏に初の連続勝越で序二段100枚目の壁を突破(97枚目)と牛歩であった。

2004秋に5勝で68枚目に昇進も7敗、これ以降序ノ口での負越しも増えたが力士数減少で序二段100枚目以内での土俵も増えたのは皮肉なこと。2011夏に序ノ口6で4勝だったのだが、大量引退の影響あってか、番付を押し上げられ序二段67に昇進。最高位を初土俵から25年で更新したが、これは力士数減少によるところが大きい。というよりもそれ以外に理由はない。以降勝越しを2度記録したが、2013初に部屋の閉鎖で強制的に力士人生を降ろされた。晩年の5年でも序二段昇進6度と序ノ口上位から序二段下位をひたすら往復する力士人生。その中でも進歩がみられるのは興味深い所である。


ベテランの場合ちゃんこ番など実質マネージャー業に近い立場のこともあるようだが序ノ口常連力士はそういった部屋での役割を聞かない。澤勇はかつて式秀部屋で犬の散歩が仕事だった記憶あり。上記の笠力も二所ノ関部屋閉鎖で強制引退、引退後所持金すらほぼない状況でプロレスラーの浜亮太(元北勝嵐)に救出されていた。社会での生活が難しいため力士として土俵に上がり続けるケースも多いようだ。部屋にとっても養成費が出る。力士からマネージャーに転向すると給料を出す必要があるが、力士である限り賃金が入る。この違いは大きい。力士数が減り続けるなかで「力士」としてあり続けることが互いにプラスなのだろう。いわば相撲界が福祉のセーフティネットの役割を担っているのか。







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