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引きこもり番組に考える
山口県で40年程ひきこもっていたという男性。テレメンタリーという各地方局制作のドキュメンタリーの番組で視聴したが、youtubeではyab山口ニュースなどで数回にわたって放送されていた。
引きこもりとされる男性は国近斉さん。58歳の頃より密着し、現在62歳。
こういった引きこもりの実態は知られていない。 当人が当然出ない、出たがらない、周囲も引きこもりとしたがらない、存在も隠したいというのがある。特に長期にわたって引きこもりといわれる人の実態はいまだ明らかではない。それだけにリアルなものである。
国近さんの場合は進学校に合格、ここで友人は不合格で自分だけ合格というのがつまずきの始まりだった。その後勉強についていけず。高2で退学。その後一時働くも、やはりうまくいかず3か月でやめる。そこから40年という。1980年頃からのようだ。
気になるのは40年もどうやって暮らしていたか。
数年にわたって密着しているだけいろいろと話があるが、別の回をみると母が脳梗塞やがんなどを患い、家事や介護、病院への付き添いなどをこなしていたようだ。つまり全くの引きこもりではないといえる。しかし他者とのつながりは薄い。ネット環境もないようで、家事に追われ趣味といったものが一切なかったのか。初めの頃は昼頃に起きる生活で昼夜逆転に近かったという話もある。テレビをぼっと見ていたともいうが、長い時間をどう過ごしていたかそこはよくわからない。
両親は80代で相次いで亡くなった。その後は両親の残した貯金で暮らしていたようだが、その蓄えも減る一方。意を決して55歳の時にNPO法人ふらっとコミュニティ(宇部市)への相談をした。そこでのふれあいから次第に明るくなり、法人の仲介もあってかハウスクリーニングの仕事への就労も果たした。さらに自治会長に就任し、地域とのつながりも持ち始めた。
ここまで来るにはおそらくかなり苦悩があったと見え、正直年齢(60代)から見るとかなり老けているともいえる。
ただ番組内容に「約40年にわたるひきこもりのツケは大きく、様々な試練が待ち受けていた」とある通り、これで解決とはいかない。それは住居。国近さんは市営住宅に暮らしている。しかし市役所からは退去勧告を受けていた。もともとは亡くなった父親名義で借りているためで、子への継承というのは認められていない、一人となると60歳以上、あるいは障害者という規定がある。どこもそうであるはず。
国近さんは当時58歳なので資格がないということだ。父親の収入申告書の提出といってもすでに故人。生活保護も貯金があるため対象とならない。さらに連帯保証人の署名も要する。しかし付き合いのある親族もおらず、友人もなく厳しい。「じゃあ出ていけ」「誰もいないわけないから何とか調べろ」といった具合に役所から突き付けられる。最後通告といってもいい脅迫めいた書類も送られた。
実際にはここまで厳しい要求はなくとも、内容としては同義である。おそらく事情は分かっているだろうが事務的に対応している。番組側の視点もそうである。
結局数度の申請を経て、2年間の自治会長としての実績、住む場所がないといった理由で連帯保証人の免除が認められ、退去もなく家賃の据え置きとなった。
ただしこういった苦難がありながら国近さんは明るく日々を過ごしている。健康状態もよく、長く介護もしていただけあってか真面目で誠実なのは伺える。何もできない、人とは関われない、引きこもりに至った経緯など自己分析もしっかりしている。
両親の納骨もできず遺骨は自宅に安置しているが、なんとかそのうち納骨をしたいと、自分の情けなさを憂えるのもそれほど暗さがない。好きだった飲み物や果物、花など供えるなど供養を欠かさない。 孤独死に関する本を手に取るなど、今後のことを考えているが悲壮感はない。引きこもりといっても一般に思われるそれとは少し異なる。
そもそも公営住宅へ不法入居という例も数多くあるが、 職を持つ日本人が規定に違反とは言え、数十年住み続ける住宅から退去を求められるのもおかしなことである。行政というのはどこまで役に立つのか。慎ましく日々を送る人が行き場がなくなるといったことがあっていいのか。 引きこもりが発端とはいえ日本の縮図というべき欠陥や問題点も見え、考えてしまう。