製薬ビジネスの現在地
今日も思いのままに綴りますね。
月に1度くらい医療従事者の方とお話をする機会があるのですが、製薬のビジネスモデルを正しく理解している人は殆どいないと感じます。
実際は儲かっているんでしょ?とか、薬剤の価格が高くなったのだから少しは値引きできますよね?とかいろんな事を言われるのですが、あまりに解像度が低すぎて残念です。
医療従事者はまだ仕方がないにしても、製薬を相手に商売しているベンダーやコンサルなんかも全然分かっていないな…と思うこともあります。
なので今日は、その辺りについて説明したいと思います。
製薬はそもそもハイリスク・ハイリターンな業界。
製薬ビジネスを一言で。と言って、
これが出てこなかったらそいつはモグリだ。私はそう思っています。
医薬品の研究開発にはおよそ10‐15年かかり、総コストは約1000-2000億円と言われる。一方で特許期間は約10年と決められており、その後は後発品によって売上が9割減になる。9割減…これは普通ビジネスの世界ではあり得ないことですよね??
つまり、次の新たな新薬を生み出せなければTHE ENDなのです。
次が出せなきゃ、企業として存続できない。
だから発売後のトップライン最大化は最重要課題となる。 売上を最大化して十分なボトムラインを維持し、次なる研究開発投資にキャッシュを回していく必要がある。
製薬のビジネスモデル自体は昔も今も変わっていません。
でも昔は後発品に一気に切り替わることも、毎年の薬価改定も、売れた薬が国から目をつけられて大幅に再算定されるなんて事もなかった。発売後に売上最大化さえ出来れば、あとはロングテール品(長期収載)で稼ぎ続ける事が出来たぬるま湯の業界であった。でも最近は国の財源がないのでそうはいかなくなった。あとはみなさん周知のとおり。
しかし、それだけではないんです。
最近は低分子化合物の薬剤の時代が終わり、開発自体に複雑性が増しているのでこの10年でコストが1.5‐1.8倍くらいになっている。しかも様々な事情で厚労省から認可が下りずに限定的な適応で発売せざるを得なくなったり、想定外の副作用で発売直前に中止になるケースも増えてきています。医薬品研究は医学。医学に絶対という事はない。だから仕方がない。
でも。それに加えて、発売しても以前みたいに売れなくなった。
薬剤自体が高額になっているというのもあり、病院の台所事情を理由に新薬採用が進まないなんてことは多々ある。本来、政策医療を担うべき地方の公的病院は赤字を垂れ流している状態なので高額な新薬を買う余裕などない。目の前に新薬が必要な患者さんがいても、そうした諸事情で届けられないなんてことが実際に今この日本で起きています。地域間の医療格差はますます進む事になるでしょう。
それに加えてGAFAMを始めとするAIテックの参入です。規制や非効率な部分が多かった業界特性はデジタルテクロノジーの格好の標的です。サプライチェーンそのものがガラッと変わる可能性があります。この状況は自動車産業にも似ていると言われていますよね。もはや前途多難。。
製薬業界は今や超ハイリスク、ミドルリターン。
確かに今の時代でもまれに当たる事もあります。
オプジーボのように異常に売れたなんて例もある。でも多くの薬剤ではそうはいかないのです。
なので製薬業界は今や「投資」ではなく、「投機」のビジネスになっていると揶揄されています笑。
とはいえ次の新薬がなければ存続できないので、グローバル規模でM&Aという手段が盛んに行われるようになった。つまり自前開発のスピード感ではもう間に合わないから、手っ取り早く買っちゃおう!という話です。これが世界的に食い合いが始まった背景です。
今はビジネスモデルの転換を迫られている。これが経営上の最重要課題。
どこの企業もキャッシュ確保に動いています。固定費削減、毎年リストラでダウンサイズしてモデルチェンジを図ろうとしています。今はそんな状況なのです。
だから簡単に薬の値段を下げろとか言わないでくださいね。
ビジネスパートナーとして良い関係を構築するにはまず相手の背景を正しく理解することから始まります。その上で、お互いにプロとして建設的な議論をしたいと思います。
この気持ち、伝わるといいな⭐︎
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