どうしてもピカチュウのおくちのなかが知りたい!!(切実)
2022年12月16日、私の人生の中で最大級の衝撃が走った!
世界的にも有名なアニメ、ポケットモンスターの主人公・サトシの引退報道だ。
時を経て、2023年3月24日。
サトシは本当に引退した。
たまたまその日が休みだった私は朝から『ポケットモンスター めざせポケモンマスター』を10話分一気見し、心の限り荒ぶった。その日の酒は妙に進んだ。
しかし、この女。実のところピカチュウも愛している。
X(旧Twitter)では定期的にサトシについて執着を感じさせる言及しているが、ピカチュウに対してもそれは顕著だ。
そして時が過ぎ、2023年4月末、ふと思ってしまった。
どうしてもピカチュウのおくちのなかが知りたい!!それはもう切実に!!
それを友達に話したところ、「noteでも書けば?」と言われたのでこうして筆を執った。
ありがとう友達。
これは切実にピカチュウのおくちの構造に迫るアラサー女が記す文章だ。
ピカチュウのおくちにお色気展開を期待したそこの君。
その観点でこれを読んでも時間の無駄になる。即刻ブラウザバックを推奨する。
さて、ここで問題にぶち当たる。
ご存知の通り、ピカチュウは架空の不思議な生き物で、アニメのキャラクターだ。
つまり、2D。おくちに奥行きはない。どうしよう。詰んだ。考えた。閃いた。
みんな、ヘレンケラーって知ってる?
私は昔学習漫画で読んだから知っている。
作中、サリバン先生は実際の舌と唇の動きをヘレンケラーに触れさせることで言葉の発音を教えた(読んだのが20年前なので間違ってたらごめん)。
ここから、舌や唇などの口の動きは発音と関係していることがわかる。
…口の動きは、発音に関係する?
なら!
発音は、口の動きに関係している!
だからピカチュウの発音を知れば、ピカチュウのおくちのなかが分かるかもしれない!
ご存知の通り、ピカチュウのことばは<ピ(pi)>/<カ(ka)>/<チュ(tyu)>/<ウ(u)>という4つの音で構成され、それが組み合わされることで意味を持つ語として発音されている。
よって、ピカチュウが【サトシ】を呼ぶときは<ピカピ(pikapi)>となる。
※以下、< >を音、【 】を意味を持つ語として捉えてほしい。頑張れ、
応援してる。また、この記号の振り方と音声記号の表記は学術的に間違っ
ているがご了承ください。
さて、ピカチュウのおくちのなかについて考えよう。
ピカチュウの発語は、主に<ピ(pi)>/<カ(ka)>/<チュ(tyu)>/<ウ(u)>の4つだ。
これをさらに細かく分解すると、子音3種類(p/k/ty)と、母音3種類(i/a/u)で構成されていると考えることができる。
単純に計算すると12個の音を発することができそうだ。
式: 3×3 + 3 =12
(子音×母音) (母音)
だが、これまで20数年ピカチュウを見てきた人間としてこれに異を唱える。
だって大きなおともだちのみんな!ピカチュウが<チャア(tyaa)>って喜んでるところを見たことがあっても、<プウ(puu)>とか<キイ(kii)>とか言ってるとこ見たことなくない??それに母音も先頭語として言えるなら<イカ(ika)>とか<ウチュウ(utyuu)>とかも言えるはずだよね??見たことある?ある?!あったら教えて!!!!
また、主要人物に対するピカチュウ的呼び方でも分かることだが、ピカチュウは【カスミ】を<ピカチュピ(pikatyupi)>と呼ぶ。
もし何の制限もなく12音発音できるなら、カスミに対する呼び方は<カチュピ(katyupi)>となるはずだ。
でもピカチュウはそれができない。きっと、ここにピカチュウのおくちの秘密が隠されている!
ここまでで分かったこと
・ピカチュウのことばは子音3種類(p/k/ty)、母音3種類(i/a/u)で
構成されている。
・しかし、発音できるのは<ピ(pi)>/<カ(ka)>/<チュ(tyu)>
/<ウ(u)>/<チャ(tya)>/<ア(a)>の6つ。
・一音目に発することができるのは2つの子音(p/ty)のみ。
これで調査するべきことがわかった。
私が調べるべき項目は以下の3つだ。
これから調べること
1.(p/ty)と他の音の違い
…なぜ(k)は子音なのに一音目にならず、母音(i/a/u)も一音目に
ならないのか。
2.(i/a/u)に共通すること
…なぜ(e/o)はピカチュウのことばになれなかったのか。
3.(i)と他の母音の違い
…なぜ<チュウ(tyuu)>/<チャア(tyaa)>は発音可能で、<チイ
(tyii)>は発音できないのか。
では、早速調査フェーズに移行しよう!
私が今回の調査のために訪れたのは国立国会図書館!
この図書館は言わずと知れた国内最高峰の知識の宝庫だ。
所蔵資料数は日本最大。だから!絶対に何かしらの資料があるはず!
しかし、結論から言おう。
なーんも分からんかった。私に国立国会図書館は豚に真珠だった。
理由としては、人文総合情報室の開架にあった資料が主に辞典のような参考図書であり、子音や母音の口腔内の動きの概要を探りたい私の目的に合わなかったからだ。
しかも、初手でここに来たから閉架にある資料もどういうものを請求していいか分からない。私の性格の雑さが悪い方向に露呈してしまった。
皆もどこかに行くときはしっかり下調べしようね!お姉さんとの約束だぞ!
国内有数の英知から何も得られなかった私。
では、ピカチュウのおくちのなかを知るにはどうすればいいのだろう。
私は原点回避することにした。
今回調査に使ったのはこれ!
ひつじ書房から発行されている工藤浩ほか著『改訂版日本語要説』(2009年6月)だ。
出版社の商品紹介ページが見つからなかったので、国立国会図書館サーチの書誌詳細へのリンクを添付しておく。
日本語要説 (ひつじ書房): 2009|書誌詳細|国立国会図書館サーチ (ndl.go.jp)
実をいうと、私は元国文学科。音声学や言語学の概要をちょびっとだけ勉強した。
正直本当にこの女にそれ相応の知識があるかと言われたら全くないが、この教科書は日本語学の教授チョイスだ。それだけでこの本に頼る価値はある。
そのため、この教科書を用いてピカチュウのおくちのなかを解き明かしてみよう!
参考ページは「第5章 現代語の音声学・音韻論」4節(P.122)から7節(P.138)まで。
その調査結果を下記にまとめる。
まとめ
1.(p/ty)と他の音の違い
…母音は通常発音するのに声帯の振動を伴う有声音だ。対して、(p/t
/k)は全て無声破裂音である。そのため、ピカチュウは発音開始時
に毎回喉を狭めて空気の破裂を起こし、声帯を震わせずに話している
と考えられる。また、無声破裂音の中でも(k)は軟口蓋音である。
その音から始められないということは、恐らく発音開始時における空
気の破裂位置が軟口蓋より前になるのだろう。
2.(i/a/u)に共通すること
…(i)は前舌狭口母音、(u)は奥舌狭口母音、(a)は中舌広口母音で
ある。対して、(e)は前舌半狭口母音、(o)は奥舌半狭口母音だ。
ピカチュウが発音時において半狭口の状態ができないということは発
音時におくちの開きが細かく調整できない可能性がある。そのため、
狭口母音である(i/u)もしくは広口母音である(a)でしかピカチュ
ウのことばになれない。
3.(i)と他の母音の違い
…拗音(y)のイ列の音声記号はないため、ここでは同音の<チ(ti)>
として考える。<チ(ti)>および<チャ(tya)>行音は全て破裂音で
あり、その後摩擦音となることは共通する。その中で<チュウ(tyuu)
>や<チャア(tyaa)>は発音可能なのに<チイ(tyii)>はできないの
は後続の母音(i)の影響だろう。<チ(ti)>の音は前舌面が硬口蓋に
接触後、それが接近した状態を保たないと調音ができない。だから、ピ
カチュウは舌を硬口蓋に長時間接近させることが難しいと思われる。
これらをもとにピカチュウのおくちの口腔断面図を予想するとこうなる。
まとめから、ピカチュウのおくちは硬口蓋に舌が当てづらい可能性が高いため、口内の空間が縦に長いか舌先が短いことが予想できる。しかし、アニメでは舌でケチャップを舐めるシーンもあるため、舌の長さはあるが口内の空間が縦に長く舌を口蓋に当てづらいと考える方が有力だろう。また、この空間によって空気が硬口蓋側の口腔に溜まることも想定でき、発音開始時空気の破裂位置が軟口蓋より前になるという予想も補強できる。なぜなら、ピカチュウは母音の発語傾向からおくちの動きを細かく調整できないことと、長時間硬口蓋に舌を当てられないことから舌に状態をキープするための筋力がないことがわかっているからだ。空気の破裂は口腔内の気圧を高め、それを開放することにより発生する。そのため、おくちや舌で空気圧を調節する必要がある(k)よりも、唇や歯茎で空気の破裂が起こせる(p/t)が先頭の子音に成り得るのだ。
また、今回の調査にあたり先行研究がないかと思い、「CiNii Research」も検索した。
CiNii Research
CiNiiとは、論文、図書・雑誌や博士論文などの学術情報で検索できる誰でも利用可能なデータベースだ。「CiNii Research」では、文献以外にも研究活動に関わる多くの情報を検索できる。しかもここでヒットした論文は無料で読めるものもある。最高かよ。
フリーワードで「ピカチュウ 音声」を入力して検索すると論文が8件ヒットした(2023年8月上旬時点)。
しかし、そのどれもがピカチュウのおくちのなかに言及していなかった。
私という素人が調査した結果がどこまでピカチュウのおくちのなかに肉薄しているか確かめたかったが現時点では難しいようだ。
ここまでの調査で私がピカチュウのおくちのなかを切実に調査したように見えるかもしれないが、私自身全くそうは思わない。
なぜか。それは、今回の調査ではピカチュウのねずみポケモンという分類を軽んじている。
何!?ピカチュウのCVは大谷育江さんだから人間の発音についてのみ調べればいいって?!馬鹿者!ピカチュウは人間じゃない!ねずみポケモンやろがい!
ピカチュウは【ピカチュウ】って名前だから<ピカチュウ(pikatyuu)>って鳴くんじゃない!君は自分の名前から鳴き声を決める生物を見たことがあるか?きっとピカチュウは<ピカチュウ(pikatyuu)>って鳴くから【ピカチュウ】って名付けられたんだ!私は!!!ポケモンの世界の現実からピカチュウについて考察したいんだよお(絶叫)!!!!!!
また、今回経験則で否定したことだが、私はオーキド博士でもないので本当にピカチュウの発語は6音しかないのか断定できず、疑問が残る。
さらに、言語学系の専攻でもないので【ピカチュウ】が本当に4音で構成されている語なのかもよく分かっていない。
もしこれらの前提が覆るならピカチュウのおくちの構造についても考え直す必要が出てくるだろう。
友達に「ピカチュウのおくちのなかが知りたいんだよぉ~!!!!」と地下鉄構内で嘆いたあの日、私はピカチュウ的50音発音表を作ることも視野に入れていた。
もしこの表の作成が可能だったら、私は今頃アニメ全話と「ピカチュウのうた」を文字起こしして<音>と【語】を対応させていただろう。
でも、主要人物に対するピカチュウ的呼び方を思い出してほしい。
<ピ(pi)>の音が【サ】/【シ】を表し、【シ】に対する発音が<ピ(pi)>/<チュ(chu)>となる時点でそれは私の能力で作成できる範囲を逸脱している。
このようにできない研究はあれど、ピカチュウのおくちにはまだまだたくさん調査できるふしぎがいっぱい詰まっている。
だから、私のピカチュウのおくちに対する探究は続く!続くったら続く!