『打者は速球に強くなければ生き残れない』"兄貴”の至言は投高打低の今に通ず。~改めて「金本チルドレン」の無念に思うこと~
2025年が始まった。NPB各球団は本格的に動き出し、ルーキーたちの入寮や選手の自主トレ情報も耳に入るようになった。これからスポーツ新聞各紙はコンテンツが充実していく。「キャンプインまでもう少し」を楽しめる嬉しいひとときだ。
そんな中、目を引いた記事があった。江越大賀、陽川尚将阪神OBの"古巣”年賀会出席のニュースだ。
両氏は高浜祐仁氏とともに1月1日付けで、球団が新設した野球振興室に配属されたという。この記事を読んで、ふと「高山俊」のことがよぎった。
高山はかつて、上述の江越、陽川、そして北條史也氏、中谷将大氏、故横田真一氏らと「金本チルドレン」に名を連ねた。
かつての同士が次々とユニフォームを脱ぐ中、未だNPB復帰を目指し現役でプレ−している。日大三高時から注目してきたプレーヤーゆえ、どうしても気になるのだ。
ドラ1入団ということもあり「金本チルドレン」の中でも、最も期待を集めた高山。
現に1年目に新人王を獲得し前途洋々と誰もが感じていただけに、その後の低迷は虎党にとってまったくの「想定外」だった。
2023年シーズン後に阪神を自由契約となり、昨季はオイシックス新潟アルビレックスで現役を継続。オイシックスは独立リーグから二軍に参加したチームで、高山はイースタン・リーグの二軍で懸命にアピールしていた。
成績は312打数88安打。打率.282、長打率.359、OPS.355(~NPB公式HP~)
結果として24年度内のNPB復帰は叶わず、今季も "挑戦”は続く。
阪神ファンが期待と大きな夢を膨らませていた打者
高山の2024年シーズンの奮闘を知ろうと、1冊の書籍を購入した。『オイシックス新潟アルビレックスBCの挑戦』(双葉社/小山宣宏著)がそれだ。
本書の第6章「タイムリミットは7月31日」の中で、藪田(元広島)とともにNPB復帰を目指す高山に関するページが割かれ「阪神ファンが期待と大きな夢を膨らませていた打者」の見出しから始まっている。
その中で興味深かったことが2つあった。
1つは、高山のNPB復帰に関する橋上監督の以下の記述だ。
上述した高山の昨季の打撃成績は「悪くはない」。しかし、NPB復帰を果たすには「物足りない」。これが昨季の「講評」ということなのだろう。32歳となる今季、NPB復帰へのハードルは一層、高くなることだけは間違いない。
期待から失望へそして・・
2つ目は阪神の最終年、岡田彰布監督による高山評だ。
本書にも記載されていたが、22年シーズンオフ、監督就任直後の岡田氏は、秋季練習で高山の再生に注力していた。そして実際に高山を見て以下のようなコメントを残した、とある。
「全然悪くないよ。力がなかったら1年目からあんな打てんよ。この状態で終わってしまったらもったいない。」
そこから翌春季キャンプでは一転、失望に変わる。
シート打撃で加治屋連、大竹耕太郎に対して心地よい打撃ができない高山の姿を見て岡田氏はこう呟いたという。
「昨日の2打席は相当ショックやと思うけどな。真っすぐのあの詰まり方はな」
そして「昨日も(施設で)正座してノート書いとったからよっぽど重症やなと思ったよ。・・」と続けている。
岡田氏の高山に対するキャンプでのマンツーマン指導はすでにスポーツ雑誌などで明らかになっているが、春季キャンプを最後に岡田氏の口から「高山」の名を聞くことはほとんどなかったと記憶している。
「金本チルドレン」無念の要因
こうして高山は阪神から戦力外を告げられたわけだが、それにしても、どうして高山等「金本チルドレン」はNPBで活躍ができなかったのだろうか。
正解にたどり着けることはないとわかっていながらも、素人なりに思うことはある。
北條氏や横田氏は怪我や病があったが、その他の野手は「速球が打てなかった」からだと考えている。
速球への対応力不足がプロでの活躍を阻む要因の一つ、とする考えは、金本知憲氏自身の発言から紐解いた見解で、また「真っすぐを芯で捉えられない」とした上述の岡田氏による高山の打撃ヘの見立とも重なる。
そしてわたし自身かねてから若手野手のプロ野球選手としての可能性を見極める「物差し」としていることでもある。
「打者はストレート、速球に強くなければいけない」
金本氏は2016年の監督就任当初から「最近の若手野手は速い球が・・」と嘆いていた。
就任1年目のオープン戦の試合後、サファテら快速球を連発するソフトバンク投手陣に封じられた自軍に対し「速球をいかに打つか、このチームのテーマですよ」と記者の前で話し、さらには以下のように貧打を嘆いてみせたことも1度や2度ではなかった。
ファン記憶でも「半速球や変化球は打てるのだけど・・」との嘆き節をスポーツ紙で目にしたことは相当数あった。
さらに評論家へ立場を変えても「速球対応」へのコメントは続いた。
大山悠輔の飛躍に必要なこととして「ワンランク上へ高めの速球に強くなること」(デイリー2020.12・19)と力説し、極めつけは2023年6月27日のスポーツニッポンに寄せた解説だ。
このなかで金本氏は、交流戦終了時、首位を走りながらも勢いに陰りを見せ始めた岡田阪神への提言として、阪神打線復活のカギは、「直球を捉えること」と説いている。
以下、抜粋する。
わたしは、この中に金本氏の打撃論の真髄が詰まっていると思っている。
そして同時に、金本氏が監督時代、自らが手塩にかけた野手たちが「突き抜けられなかった」要因を端的に示しているようにも思えるのだ。恐らくプロ野球OBから異論はでてこないと思う。
投高打低の傾向が顕著な今、思うこと
金本氏は当該記事での解説を以下のように締めくくっている。
投高打低の傾向が顕著な今、改めてファンも肝に命じておきたい警句ではないだろうか。
近年NPB投手の平均球速は年々上昇しており、若手選手が速球に対応する難しさはかつてなく増している。
金本氏が話しているように「長年レギュラー」として活躍するためには、好投手の速球対応は欠かせないだろう。
まもなくキャンプが始まる。
プロ野球ファンは、自らの推しがレギュラー獲得を狙う立場であるなら、打撃面に関してはオープン戦での「速球対応力」にこれまで以上に注目してみたらどうか。
おそらくだが、この物差しがあると、かなり良い見通しに達すると思う。
近頃、プロ野球OBのみならずNPB未経験者までもが活発にレベルスイングやアッパースイング、はては縦振りなど自ら思う最適な打撃論を動画で提唱している。
しかし、「速球が打てるようになれば形はどうでもよい」と考えるのは乱暴だろうか。形よりも実、と思うのだ。
小幡竜平は昨年12月のイベントで、レギュラー獲得へ向け「大勢、高橋宏斗討ち」をターゲットとすると意気込んだ。心意気や良し、だ。
「150キロを打てなければレギュラーは掴めない」
「金本チルドレン」の無念がそう教えてくれている。