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解明難しき「打低」の要因。虎は今季も打てないのか。~調査報道『投高打低の真実』@日刊スポーツ・プレミアム

前回、「打者は速球に強くなければ生き残れない」とするブログを書いた。

書き終えてつくずく自分は打てる人に関する情報を欲す傾向を有していると感じたが、今回は「打てる人が少なくなった」ことについて書く。引用は日刊スポーツ・プレミアムの調査報道「投高打低の真実」から。

当該記事は、以下のような切り出しから始まる。

近年、日本プロ野球は急速な「投高打低」が続いている。昨季、両リーグで規定打席に届いた打者のうち、打率3割を超えた選手は3人しかおらず、日本人はソフトバンク近藤だけ。一方、防御率1点台で規定投球回に達した投手は6人もいる。

西武時代の松坂大輔氏の最高防御率が2・13(06年)だったことを考えれば、どれだけ異常な現象が続いているか、分かってもらえるだろう。打者の長打率は下がり続け、投手の球速は上がり続けている。「投高打低」の原因はなんなのか? 今後も続くのか? さまざまな角度から分析し、「投高打低の真実」として、6回連載で検証してみよう。


初回は、"異常現象”の状況整理としてスポーツ報道らしく、直近7年間の1試合平均得点の減少傾向を読者と共有するところから始まっている。

◆1試合平均得点

18年 4・32 19年 4・26 20年 4・11
21年 3・76 22年 3・57 23年 3・48
24年 3・29


次に、得点力低下の要因として「使用球の変化」に当たりをつけ検証と推察を行っている。

実際、昨年の春先、村上宗隆の「今年のボールは飛ばない」の発言を機に、ボールの問題が選手間でささやかれていたことは報道でよく耳にした。使用球が"容疑者"として扱われるのは、至極、当然だろう。

しかし、調査班は野球界の「ボールの歴史」を2011年からの2年間、「国際大会で使用するメジャー球に近い球」として導入された統一球の頃のデータにまで遡り、この嫌疑を棚上げする。

使用球が“真犯人”たりえなかったのは「1試合平均得点」の推移や「統一球」の後の13年にボール製造に関して一定の改善を施されたことなどを根拠とするもので「規定を見直す必要のない時期に飛ばなくする理由がない」と結論づける。

突然、飛ばなくなったというイメージのインパクトは昨季(2024年)の方が小さかった。統一球を使用する前年、10年の平均得点は4・39。差は1・11もあり、さすがに「飛ばなさすぎる」の声からはじまり「メジャー球よりも飛ばない」となった。

反発係数は規定内に近くても、縫い目の高さの影響が強く、飛距離が落ちたと推測されている。翌13年には改善され、平均得点は3・99に上がった。


「統一球」の2年間の1試合平均得点は、11年 3・28、12年 3・26と昨季2024年と大差なく、はては「2024年も『統一球』に近しいボールを使用したのではないか」と怪しむ声も以下のように一蹴する。

昨季の平均得点3・29は一昨年の3・48と比べ0・19しか落ちていない。6年連続で下がっている期間でも、最大で違ったのは20年と21年の0・35だった。

ボール製造は繊細で、わずかな誤差を意図して操作するのは難しい。しかも規定を見直す必要がない時期に飛ばなくする必要もない。ボールの規定に変更があり、ある年に急激に下がることがあっても、6年間という期間で徐々に飛ばなくなっている期間は、これまでにもなかった現象だった。


そして「投高打低」の現象は「投手のレベルアップに対し、打者のレベルが停滞していると考える方が、自然だと言えるのではないか?」とし、使用球に関する言及はここで蓋を閉じる。

もちろんボールの製造過程において、製造機械やボールの材質の劣化があり、年々少しずつ徐々に反発係数が落ちていった可能性は否定できない。しかしトレーニング環境や技術向上の理論などは、さまざまな面で進化している。球場も狭くなる傾向がある。ボールの影響があったとしても「投高打低」の現象は、投手のレベルアップに対し、打者のレベルが停滞していると考える方が、自然だと言えるのではないか?


第二回目以降は「打低」の要因、遠因をメジャーとの比較などを通じ探っている。

例えば、NPBの場合、得点力低下の主要因は本塁打とOPSの低下と見立て、同時に「1試合平均三振数」は悪化はしていないとする傾向をも見出したうえで、それらを「バットに当てに行く傾向」と捉え、打低(本塁打数、OPS低下)の遠因としている点はなかなか興味深い。

◆1試合平均三振数推移
19年 7・60 20年 7・50 21年 7・34
22年 7・29 23年 7・24


レベルの上がった投手に対し、打者や打撃指導者は「ボールを飛ばすこと」より「バットに当てること」を優先しているということ。「空振り」や「三振」を嫌った結果、得点力に大きく影響する本塁打や長打が減少。得点力の衰退が加速していったのだろう。


一方、メジャーに関する言及も豊富だ。この数年、NPBほどの打低傾向ではないとしながらも、日米の平均打率の比較や1試合の三振数の傾向などをもとに、日米の野球の質の違いなどに言及している。

◆日米の平均打率(日本は括弧内)

18年 2割4分8厘(2割5分6厘)
19年 2割5分2厘(2割5分2厘)
20年 2割4分5厘(2割5分)
21年 2割4分4厘(2割4分6厘)
22年 2割4分3厘(2割4分4厘)
23年 2割4分8厘(2割4分3厘)
24年 2割4分3厘(2割4分3厘)


(1試合あたりの三振数について・・)09年まで6個台だったが、10年以降は7個以上にアップ。16年には8個以上に増え、現在まで続いている。三振が減り、本塁打が減り続けている日本とは、逆の現象が起こっている。

日本は三振数を下げ、スモールベースボールを推奨して得点力を上げていく方向性を強化しているようにみえる。結果的に「投高打低」から抜け出せないどころか、さらに加速してまっているのではないだろうか?


また、メジャーに関しては、打低傾向の食い止めに「フライボール」革命や投手の粘着物厳禁とピッチクロックなどが投高への抵抗の役割を担っていると解説している。

ピッチクロックはともかく、粘着物厳禁に以下のような影響が見られるとは、メジャー門外漢にはいささか驚きだった。

メジャーの「投高打低」の流れは、長打力や本塁打数の向上だけで止めたのではない。

21年シーズンの途中には、投手が指先に滑り止めのような粘着物を塗っていないか、チェックを厳格にした。これによりフォーシームの平均回転数は、前年の2304回転から2274回転に落ちた。

もうひとつは23年から導入されたピッチクロックだ。盗塁数は倍増し、得点力がアップ。「投高打低」の阻止にひと役買っている。


そしてメジャーでは忘れてはならない「薬物(ステロイドなど)禁止」の厳格化と投手に利するトラックマンなど精密機械の開発と発展に関しても言及があり、読者はここまで一定の納得感を得て日米共通の「打低」の状況整理ができるようになっている。

しかし、この後は読者によっては、ややもすると不満がでてきそうな構成が続く。

フォーシーム平均球速の高速化など投高現象を振り返りながら、打低の謎を解き明かそうと試みているのだが、単に打低のエビデンスの強化に努めているにすぎず、あげくになんとも歯切れが悪い仮説を導いてくる。

上述した1試合平均の三振数の減少傾向と同様の現象が1試合平均の四球数にも見られることを受けて、以下のように論を呈しているのだ。

「本来、四球が多い打者は三振も多い。早いカウントから打ってくる打者は四球が少なく、三振も少ないのと同じ理屈で、じっくりと打ってくる打者は長打を狙うため、早いカウントからストライクゾーンギリギリの難しい球を打たない傾向がある。追い込まれるまでは狙い球と違った球を打ちにいかないタイプが多い。」

「得点力が下降線をたどっている6年間で三振数が減り続け、四球数も下がっているということは、長打を狙う打者が減少していると裏付けられる。これが「投高打低」の最大の原因ではないだろうか?」


はたして、この理屈で読者からの「いいね」はどのくらいつくだろうか。

調査班は、要は「じっくりと打ってくる打者は長打を狙い」「好球必打の早打ち傾向の打者は単打狙い」「三振をきらって早打ちする打者がふえた」と言いたいのだろうが、この仮説はいささか杓子定規で粗い見立てではなかろうか。

少なくとも「投高打低」の最大の原因とはいささか強引すぎると感じた。

そして調査報道は、球団別の本塁打数とOPSの変遷をたどりながら「打低」の真相に突き進むのだが、以下のような解説を聞くと再び、打低の状況整理に舞い戻ってしまった感が拭えない。

プロ野球全体の得点が6年間落ち続けている中、球団別でも落ち続けているのは、DeNAの平均本塁打数と西武のOPS。DeNAはそれほどの落ち込みではないが、西武の落ち込みはひどいものがある。6年間で最高値をマークした年の数値と昨季の数値を比べると、平均本塁打数で0・8、OPSで・197も低下。落ち込み度は、いずれも12球団でワーストだった。

一方で特筆できるのは日本ハム。昨季は記録的な「打低」だが、最高値だった20年の平均本塁打数から0・04もアップさせた。


西武の打撃陣の凋落と日ハムの躍進は「若手野手の台頭」の有無を見れば容易に想像がつくことで、球場特性などに関する記述もあったが、ここでもやはり「投高」を印象付ける程度のデータでしかないように個人的には思えてしまう。

かくして調査班は最終稿にて、「打低」からの突破案として以下5つの改善策を提唱してみせる。

(1) ボールが徐々に飛ばなくなった可能性はあるが、昨季だけ極端に飛ばなくなった可能性は低い。得点力が下がった原因は他の理由があるのでは?

(2) 得点力が下がったのは平均本塁打数とOPS(出塁率+長打率)の低下が原因。

(3) メジャーでは「飛ばす」を追及したが、日本では「当てる」を重視。日本は三振数が減り、長打も減ったが、メジャーは三振数が増え、長打も増えた。

(4) 日本の投手は急激に球速が上がり、18年からの7年間で3キロもアップ。打者は投手のレベルアップに取り残されている。

(5) 球団によって「投高打低」の格差がある。戦術面や指導法に違いがあるのではないか。


結論が出ない、出にくい問題への改善策に対し、否定する知識をもたないのでなんともコメントのしようがないが、それよりも締めくくりとしての、前中日打撃コーチの和田一浩氏とヤクルト投手コーチ伊藤智仁氏の「打低」現象に関するコメントが面白い。

和田氏 日本の場合、ホームランバッターが育ちにくい環境がある。プロやアマの指導者や野球ファンを含めて、空振りや三振を嫌う傾向が強い。引っ張ってゲッツーなんかを打つと大ひんしゅくを買いますよね。でも得点を上げるなら、やっぱり長打力を上げていかないと。空振り、三振、ゲッツーを恐れずにバットを強く振っていけるバッターを我慢して使っていける環境を作らないといけない。

それにバッターは150キロ以上の真っすぐになると、極端にフライが減ってゴロが多くなる。長打が出ない原因なのに、ゴロがよくてフライがダメなんてあり得ない。打撃に関しての方向性が間違っている。ピッチャーは速い球を投げるのにどうやって投げればいいか、ある程度、統一されているでしょ。でもバッターは統一されていない。それがピッチャーのレベルにバッターがついていけない理由だと思う。


伊藤コーチ ホークアイなんかの精密測定機器の発達で、ピッチャーの球速はどんどん速くなってきている。それにバッターに打たれにくい球種やコースも投手によって個別に調べられる。それが受け身のバッターより有利な点。ただ、スピードに関しての限界値が近づいていると思う。球の出力に対し、肩肘がついていけなくなっている。

ケガが多くなっているのも、それが原因。ただ、レベルアップの要因はスピードだけじゃない。これからはリリースする角度や、どれぐらい前でリリースできるかとか、バッターに速いと感じさせるフォームが研究課題になる。個人差があって難しいんだけど、球速が同じでも速く感じるフォームとか、開発されるでしょう。まだまだレベルが上がる余地はあると思う。

実際にボールが飛ばなくなったのかもしれない。しかし、打てなかった要因をボールのせいにして完結させたら、飛ぶボールを導入しない限り永遠に「投高打低」の流れは続くと思う。みなさんはどう思うだろうか?


以上、「調査報道」という意欲的なお題目に飛びついて読んだものの、いざ読んでみると「打低」の真相は「投高」傾向の「裏返し」としか読み取れなかった、というのが正直な感想だ。

もっとも本コラムのタイトルが「投高打低の真実」ゆえ、打低を裏付けるデータからその背景を探るのが精一杯、と捉えるのが本筋なのだろう。私自身が「打低」の具体的な解明をいささか望みすぎたきらいがあった。

では、打低の要因の真の解明はどうすれば行えるのだろうか。スイングスピードやスイング軌道などの技術的な要素か、プレッシャー耐性など意識によるもの、はては体力的な要素なのか、野球ファンとしてとても興味がある。

ここは専門家の出番を待つこととしたい。

しかしその一方で、ひょっとして打撃とは、イチロー氏がいうところの「感覚」「タイミング」「間(ま)」といった数値で測れない、言語化できないことが幅を利かせる種目なのかもしれない、という思いに至ることもある。

「打線は水物」とは昔から言われている。そう考えると、投手に比べ打者がシーズンによって成績が安定しない要因も合点がいく。

いずれにしても打低の謎は、データ主義だけでは解明にたどり着きにくい複雑高度な難題のような気もするのだ。

木浪聖也は23年には「恐怖の八番打者」としてチームの栄光に多大な貢献をしたが、昨年は一転、打率を5分以上下げ「凶負の八番打者」と揶揄されるようになってしまった。

打撃不振の要因を木浪自身「何も変えようとしなかったこと」と関西のテレビ番組で分析していたが、ファン目線からしても「まちがいない」と感じるのだ。

「3年好成績をのこしてはじめてレギュラー」とは金本知憲氏が阪神監督時代、よく口にしていたことだが、そのためには、打者は毎年、意識なりなにかしらの変化を継続しなければならないのだろう。

木浪はそこを見誤った。昨年のキャンプで「意識は守備が7割」などと言える立場ではなかった。打撃に関して変えなければならないポイントを見いだせなかったのが、躓きの要因ではなかったか。

一昨年、カモにしていた戸郷勝征に木浪は、昨年、見事に抑え込まれた。投手は打たれた打者のことを決して忘れたりはしない。

2025年シーズン、今季も投手のフォーシームの高速化、変化球の多様化の傾向は変わらないだろう。

こうした打者受難の時に、NPBに3割打者は何人現れるのだろうか。阪神は打てるのだろうか。ベイスターズは今季も強力打線が健在か、虎党には興味深くも目をそむけたくなるテーマでもある。

「大勢、マルティネスを打ち崩せるか」

投手力だけでは優勝はできない。

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