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香川県民謡~金毘羅船々

「讃岐のこんぴらさん」で知られる仲多度郡琴平町。その花街の宴席で歌われてきたのが《金毘羅船々》です。


■曲の背景

歌1番のみの珍しい詞型
他に類歌のない、珍しいお座敷唄です。
「讃岐のこんぴらさん」は琴平山(象頭山)中腹に琴平神社として祀られ、参詣の際は、785段の石段を歩いて登らなければならないことでも知られています。金毘羅とは海上安全の神様として広く信仰されてきました。江戸時代には、金毘羅参詣のために大坂(現大阪市)から丸亀(現香川県丸亀市)、多度津(現香川県仲多度郡多度津町)あたりを乗合船が就航、この船は「金毘羅船」と呼ばれ、大いに利用されたそうです。一説には、大坂で生まれた歌が「金毘羅船」に乗って、伝わったものともいいます。歌は、元禄頃から歌われ始め、幕末から明治初期にかけて日本中に大流行したものだといわれています。
この歌は、珍しい詞型です。

〽︎金毘羅船々(8) 
 追手に帆掛けて(8)
 シュラシュシュシュ(5)
 まわれば四国は(8)
 讃州那珂の郡(8)
 象頭山金毘羅(8)
 大権現(5)
 一度まわれば(7)

ハヤシ詞以外は8音が続き、最後で5音でしめるようになっています。

拳遊びに使われたお座敷唄
この歌はもともと1番しかなく、歌が終わると「一度まわれば」で初めに戻るというエンドレスの楽曲です。
花街では、二人が相対してジェスチャーするなどのゲームをする「拳遊び」があり、この時に《金毘羅船々》が使われたのだそうです。それまで1番しかなかった元唄ですが、昭和に入ってから、新しく詞が補作されたといいます(作者は不明)。

三味線練習曲としても広まる
この歌は、コブシをつけて朗々と歌うメリスマ様式(歌詞1音節に対して複数の音を当てはめるタイプ)ではなく、シラビック様式(歌詞1音節に対して1音を当てはめるタイプ)の楽曲です。そのため、三味線を習うときに都合がよく、口三味線のように扱うことができるので、《岡崎女郎衆》と同じように、三味線の稽古曲として使われます。特に、越後瞽女の稽古曲として習ったということがはっきりしています。

■音楽的な要素

曲の分類
お座敷唄

演奏スタイル
 歌
 三味線(二上り調子)
 太鼓・鉦 等
 笛

拍子
 2拍子

音組織/音域
 律音階

金毘羅舟々の音域:1オクターブと6度

※唄の終わりと「一度まわれば」のハヤシ詞は都節音階に転調

曲の構造/特徴
①唄は独唱、「一度まわれば」の唄バヤシが入ります。
②前奏を聴いてから元唄1番を歌い、「一度まわれば」の唄バヤシからすぐに繰り返す、終わりのない形です。演奏会等では「一度まわれば」のあとに前奏を間奏として続ける場合もあります。
③伴奏は三味線・鳴物、笛等が使われています。
④1番の最終句「大権現」からハヤシ詞「一度まわれば」の間が都節音階に転調します。唄の第5句目から都節音階で歌う演奏もあります【譜例1】

【譜例1】律音階と都節音階の比較

⑤地元芸妓の演唱等、弾むリズム感で歌われることが多いですが、付点をつけずに弾まない演奏もあります【譜例2】

【譜例2】リズム感の比較

■評価例

[知識・技能]
①三味線・鳴物等の伴奏に乗って、宴会等での楽しそうな雰囲気で歌われていることに気付いている。
[思考・判断・表現]
①歌パートとおはやし(唄バヤシ)パートに分かれて、歌や踊りを盛り上げるような感じを聴き取り、しかもエンドレスにつなげて歌われている構造の面白さを感じ取りながら、曲全体を味わっている。
②律音階のしっとりとした感じから、歌の終わりで都節音階に転調、がらっと雰囲気が変化する味わいを聴き取り、日本音楽での転調のおもしろさについて考えている。
[主体的に学習に取り組む態度]
①《金毘羅船々》がお座敷の宴席で歌われてきたことや、香川から全国に流行したという民謡の広がりに興味をもち、音楽活動を楽しみながら主体的・協働的に学習に取り組もうとしている。

以下には《金毘羅舟々》の採譜を掲載しました。

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