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《原エーヨー節》~山浦地方のエーヨー節の流れ(長野県諏訪郡原村)

原村は八ヶ岳の裾野の傾斜地に位置します。八ヶ岳連峰や蓼科山、入笠山などが見渡せる高原の村です。歴史は古く、縄文遺跡がたくさんあります。また、八ヶ岳西麓の原山と呼ばれる一帯は、御射山社があり、古くから原山様と呼ばれ信仰されていました。

原村の風景

近世に開墾された新田村が多く、明治8年(1875)に8つの新田村が合併し、原山にちなんで原村が誕生しました。この地域で歌われてきた盆踊り唄に《エーヨー節》が伝わっています。


唄の背景

賑やかで楽しいエーヨー節
「エーヨー節」とは、歌詞の中でも下の句第4句目の前に入るリフレインの「エーヨー」にちなむものです。

〽︎ハァー諏訪の原村 またよいところ
 (ハヨイソレ)
 木の葉隠れに エーヨー 雉の声
  (ハヨイソレ)
 
諏訪地域では広く歌われた盆踊り唄です。中でも、八ヶ岳南西麓の茅野市、原村、富士見町にかけてのいわゆる山浦地方が本場であったようです。集落ができはじめると、諏訪・高島藩により新田開発が行われるようになります。江戸時代には、坂本養川(さかもとようせん)の尽力により、水路が整備され、諏訪地方の水不足を解消しました。
こうした背景もあり、この「エーヨー節」は、新田開発に心寄せた農民の田植唄が源流であるとされています。

越後甚句の広まり
「エーヨー節」は、7775調の詞型からなる甚句系の唄で、前述のとおり、下の句第4句目の前に「エーヨー」と入るのが特徴です、甚句の多い新潟県の「越後甚句」には「エヨ」とか「イヨ」と入る唄があり、民謡研究の竹内によると、この種の「越後甚句」を「エーヨー型甚句」と呼んでいます[竹内 2018:414-416]。
樽叩きで知られた《新潟甚句》(新潟県新潟市)では、

〽︎ハァー新潟恋しや 白山様の
 (ハ アリャサアリャサ)
 松が見えます エーヨー ほのぼのと
 (ハ アリャサアリャサ)

と歌われています。他にも《亀田甚句》(同県新潟市)など同種の甚句が歌われています。
こうした「越後甚句」は長野県内にも伝播が多く、特に北信地方では《古間甚句》(上水内郡信濃町)等で、「エーヨー」の部分「ノオ」として歌われています。その他にも「ノーオー」「イーヨー」等に変化して歌われています。
この「エーヨー型甚句」は、竹内によれば長野・岐阜にも多いと紹介されており[竹内 前掲]、諏訪の「エーヨー節」も、この甚句が広まったものと考えられます。

エーヨー節の広がり
「エーヨー節」のもう一つの特徴に「ヨイソレ」というハヤシ詞があります。上の句の後に入ります。地区によっては下の句のあとにも入れる場合があります。
この「エーヨー節」は諏訪地方だけでなく、上伊那地方にまで伝播しています。これらの圏内では「エーヨー節」と呼ぶだけでなく「ヨイソレ」とか「ヨイソレ節」などと呼ばれることもあります。
こうした特徴の「エーヨー節」は県外にも伝播し、近くでは山梨県でも歌われているそうです。また、岐阜県では、ハヤシ詞から「ヨイトソレ」「ヨイトソリャ」というネーミングで踊り唄として伝わっています。岐阜県ではこの唄を、もとは《諏訪節》と呼んでいたといいますので、諏訪から流行ってきたことを裏付けられると思います。
また、製糸業で栄えた岡谷市あたりでは、飛騨などから野麦峠を越えて働いた工女たちが歌った《糸ひき唄》があります。

この唄は岡谷で歌われていた盆踊り唄の《エーヨー節》を、製糸の糸繰り作業で歌われていたものです。これを覚えて各地へ帰った工女さんたちが、それぞれの土地に《糸ひき唄》が伝播しましたが、《エーヨー節》が思わぬ形で、広まっていったことと思われます。
諏訪地域でも広く歌われてきた《エーヨー節》ですが、特に元米澤小学校(現茅野市立米沢小学校)校長で、茅野市民俗資料館(現八ヶ岳総合総合博物館)研究調査委員会の委員長を務め、諏訪の民謡を研究されてきた五味元喜による採譜がよく知られています。レコード化が早く、昭和31年(1956)に、五味元喜、湯田坂数七によりビクターオーケストラ伴奏による吹込みが行われ、この節回しが諏訪ではよく知られたものとなっています。

原村のエーヨー節の特徴
上記のように集落によって《エーヨー節》の細かなちがいがあります。原村の節回しは、上記の五味調の《エーヨー節》とはやや違い、茅野市内を含めた山浦地方で広く歌われている歌い方です。
また、第4句目前の「エーヨー」の部分の字送りに特徴があります。第3句目の7音を歌ったあと、すぐに「エーヨー」に入る歌い方が多いですが、原村では7音目の後を1拍分しっかり伸ばしてから「エーヨー」を歌い、最終句の第4句目に入ります。ここが最大の特徴に感じられます。


音楽的特徴

拍子
2拍子系

音組織/音域
民謡音階/1オクターブ

原エーヨー節の音域:1オクターブ

歌詞の構造 
詞型は甚句系の7775調です。上の句、下の句の後に「ハヨイソレ」のハヤシ詞が入ります。

〽︎ハァー諏訪の原村 またよいところ
 (ハヨイソレ)
 木の葉隠れに エーヨー 雉の声
  (ハヨイソレ)

演奏形態


唄バヤシ
※近年、三味線を入れて伴奏としています。

以下には、《原エーヨー節》の楽譜をしました。

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