《秋山熊曳唄》~マタギが伝えた熊狩猟の凱旋歌(長野県下水内郡栄村)
秋山郷は新潟県津南町を流れる中津川の上流に位置する山里で、越後秋山(新潟県中魚沼郡津南町)と信州秋山(長野県下水内郡栄村)からなる地域の総称です。古くから、上野国(現在の群馬県)草津の平勝秀が源頼朝に敗れて落ち延びた等の平家落人伝説を残す秘境です。
農業が主な産業でかつては焼畑も行われていたそうです。また豪雪地としても知られ、人々は雪の下に半年暮らさなければならず、「陸の孤島」と呼ばれるほど厳しい生活環境でした。この秋山郷に、日本でも珍しい熊狩猟の《熊曳唄》が歌われてきました。
唄の背景
秋田マタギの伝統を引く熊狩猟
秋山郷では熊の狩猟が行われていました。熊は12月頃から冬眠準備に入るといい、猟師たちは苗場山(2,145m)、鳥甲山(2..037m)だけでなく、志賀高原、その他、群馬県野反湖や新潟県境の赤倉山(1,939m)まで狩りに出たそうです。
こうした熊狩りを生業としていた人々がマタギです。単純なハンターではなく、伝統的な方法で集団によって行ってきた歴史があります。
越後塩沢の鈴木牧之は天保2年(1831)に「秋山記行」という記録を残しましたが、その中の湯本(現在の切明集落)の記述の中には、秋山に来ていた「秋田の狩人」と話を聞くシーンがありますが、秋山で秋田マタギが狩猟を行ったことが知られます。
また、秋田から大赤沢に住み着いたマタギの家もあったといい、秋山ではそうした狩猟の歴史が残されています。
力強い凱旋歌
《熊曳唄》は、射止めた熊を勢子たちで力を合わせて雪の上を曳いてくる時に歌われた歌で、言わば熊との戦いに勝った凱旋歌であるといわれてきました。
〽︎アー苗場山頂で 熊獲ったぞ
ヨーイトナ ヨーイトナ
〽︎アー十二様のおかげで 熊獲ったぞ
ヨーイトナ ヨーイトナ
獲物である熊を仕留められたのは、十二様のおかげであると歌われます。十二様とは、当地域ではいわゆる「山の神」のことで、この地域には十二神社という社が各地に祀られています。
雪深く、雪崩の危険のある場所で伝統的な狩りを行ってきた人々にとっては、山の神への祈りがありました。このヨーイトナ ヨーイトナという掛声は、木遣り等の掛声にも歌われるものですので、楽曲の性格としては「木遣り唄」と同系統のものと考えられます。
音楽的特徴
拍子
無拍拍子
※2拍子、あるいは3等分割のようなリズム感を感じさせ、6/8拍子のようにも聞こえますが、自由に朗々と歌われていたものと思われます。
音組織/音域
民謡音階/6度
※[ラ-ド-レ-ミ-ソ]による音組織を基本とし、民謡のテトラコルドを重ねての1オクターブの音階構成にはなっていません。
※下記の譜表にはC音が書かれていますが、語調の関係でごくたまに出てくるのみのため、6度と記述。
歌詞の構造
75調あるいは77調をソロで歌い、後半に勢子が「ヨーイトナ」を付けます。
甚句形式の7775調のように、一句一句が他の番数とつながりがある歌詞とはなってはいないようです。
〽︎[音頭]
アー苗場山頂で 熊獲ったぞ
[付け]
ヨーイトナ ヨーイトナ
演奏形態
歌
掛声
下記には《秋山熊曳唄》の楽譜を掲載しました。
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