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《木曽甚句》~どこか哀愁を感じさせる踊り唄(長野県木曽郡木曽町)

木曽の盆踊りは「なかのりさん」の《木曽節》がよく知られていますが、この《木曽甚句》もよく踊られてきました。《木曽節》が踊られるイベントでも、木曽踊りとして歌い踊られています。


唄の背景

一番一番が短い一口唄
唄の形式は7775調の典型的な甚句です。上の句一息、下の句一息で歌い切れる短い唄ですが、次々と唄の文句が続きます。口説ではなく、《木曽節》や周辺の盆踊り唄とも共通の歌詞で歌われます。
ハヤシ詞はありません。唄の冒頭の3文字を歌ってから「ナー」が挿入される以外はリフレインもありません。

〽︎木曽のナー深山に 切る木はあれど
 思い切る気は 更にない

踊りの振りは独特なリズム感で、決して複雑な踊りではありませんが、唄のリズムと付かず離れずで、拍節的なものではなくとても楽しい踊りです。

木曽甚句の踊りの様子

中津甚句との関係
この甚句はどこからきたものでしょうか。文献では中山道を美濃まで南下した中津川宿、岐阜県中津川市の《中津甚句》と関係があるといいます。
《中津甚句》とは中津川市の民謡で《中津川甚句》ともいわれます。一般的にはそのハヤシ詞から《ホッチョセ節》と呼ばれています。

〽︎様とナー旅ょすりゃ 月日も忘れ
 (ハァホッチョセ ホッチョセ)
 鶯啼くよな 春じゃそな
 (ハァホッチョセ ホッチョセ)

全国的に知られている節はしっとりとしたものですが、もともと中津川の花街で歌われたものは、もう少し重々しく、端正な雰囲気のお座敷唄です。それが、周辺の農村で歌われるようになって、《中津川甚句》とか《中津甚句》として流行し、美濃から名古屋などでも歌われたそうです。木曽谷でも歌われたといい、町田によると、木曽でよく知られている「なかんりさん節」の《木曽節》が広まる前には、《中津甚句》が歌われていたといいます[町田 1965:74]。
それでは《木曽甚句》と比べてみるとどうでしょうか。《中津甚句》は上記のとおり、「ホッチョセホッチョセ」というハヤシ詞がありますが、現在の《木曽甚句》には入りません。《中津甚句》は、お座敷唄の《ホッチョセ節》よりもテンポが速く、リズムも弾んでおり「ホッチョセ」も掛声のようなハヤシ詞です。単純に中津川市の《ホッチョセ節》と直接的に似ているかといわれるとやや距離を感じさせます。しかし、木曽谷で歌われてきた《中津甚句》が少なくとも母体となったいうことは想像されますが、確証はありません。古い録音を聴き比べると、その答えが見つかるかもしれません。
また、木曽郡上松町の《吉野草刈唄》が伝承されていますが、この《木曽甚句》の旋律とほぼ同じです。こちらは踊り唄ではなく作業唄ですが、木曽谷で流行った甚句が取り込まれたものと思われます。


音楽的特徴

拍子
2拍子系

音組織/音域
民謡音階/1オクターブ

木曽甚句の音域:1オクターブ

歌詞の構造 
基本的な詞型は7775調。第1句目の3文字のあとに「ナー」を伸ばします。

〽︎木曽のナー深山に 切る木はあれど
 思い切る木は 更にない

演奏形態

※音頭取りのソロと踊り手の合唱(地元ではこう呼んでいる)に分かれて歌う。舞台調では上の句、下の句をそれぞれ通して一人で歌うことも可能。

下記には《木曽甚句》の楽譜を掲載しました。

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