兵庫県民謡~デカンショ節
兵庫県丹波篠山市は、かつて丹波国、篠山藩青山氏六万石の城下町。江戸時代、山陰道の要衝の地であったことから、徳川家康によって篠山城が築かれ、山陰街道(笹山街道)は京へ向かう重要な場所でもあったそうです。この篠山で歌い踊られてきたのが《デカンショ節》です。
■曲の背景
源流は盆踊り口説
《デカンショ節》はもともと《三つ節》あるいは《三つ拍子》、《三つ星》と呼ばれる唄であったといいます。踊りのなかで、手を3回打つところから《三つ拍子》といったようですが、そのルーツは関西に多く残る口説の盆踊り唄であったようです。これは《江州音頭》のような「ヨイトヨイヤマカドッコイショ」といった唄ばやしがあったのだそうですが、やがて《みつ節》となって「ヨーイヨーイデッコンショ」と訛ったといいます。そして篠山では「ヨーイヨーイデッカンショ」となって、今日に伝えられてきました。
篠山藩藩主の青山家は、学問を奨励し、明治維新後に「鳳鳴義塾」等、私立の旧制中学校を創設しました。その中の優秀な者を東京の寄宿舎に遊学させてたといいます。夏には千葉県の八幡の浜で過ごしたそうですが、明治31年(1898年)、宿泊先の江戸屋の二階で、篠山出身の学生達がこの《デカンショ節》を歌ったところ、偶然に同宿していた旧制一高の水泳部員がこの歌を覚え、学生の間で流行し、寮歌や校歌等とともに、東京でも歌われるようになったのだそうです。
デカルト・カント・ショペンハーウエル説は…無関係!?《デカンショ節》の曲名について
ところでこの「デカンショ」については、哲学者デカルト、カント、ショペンハーウエルを省略したものだと言われることがあります。ただこれは、上記のように、学生達の間で広まったということで、学生達のこじつけかと思われます。
また「出稼ぎしよう」という意味だとか、青山藩士が徹夜で飲み、歌い明かしたということで「徹今宵」から「テッコンショ」となった、「天下将」から「テンカノショウ」となった、方言の「デゴザンショウ」から転訛した…等さまざま言われています。
元唄と考えられる《三つ節》のハヤシ詞が「デッコンショ」ですので、もとは「ドッコイショ」程度のハヤシ詞の転訛と考えられるともいわれています。
さて曲名について《デカンショ節》を《篠山節》とか《丹波篠山節》と呼ばれることがあります。篠山の唄というネーミングなのかもしれませんが、地元には《デカンショ節》とは全く別の旋律の《篠山節》が伝承されています。
〽︎帰りゃしゃんすか 袖引き留めて
(ハ キタサ)
忘れしゃんすな 篠山を
(ソリャソーリャ コーリャコリャ)
この唄と区別するためにも《デカンショ節》と呼ぶのが適当かと思われます。
また、地元では《デッコンショ節》として、現行の《デカンショ節》の元唄とされている唄があります。
〽︎丹波篠山 山家の猿が
(ヨーイヨイ)
花のお江戸で 芝居する
(ヨーオイヤレコリャ デッコンショ)
アー山家の猿が
(ヨーイヨイ)
花のお江戸で 芝居する
(ヨーオイヤレコリャ デッコンショ)
このメロディは、《デカンショ節》と似ているのですが、《デカンショ節》よりもテンポが遅く、歌の終わりのハヤシ詞が「ヨーオイヤレコリャデッコンショ」となっています。また、7775調の素唄のあとに、上の句第2句目から返す歌い方も特徴です。なお、踊りも手を3回打つ振りが入りますので、もとの《三つ節》の特徴を残しています。
この《デッコンショ節》は、かつて《丹波篠山節》として、《安来節》の黒田幸子等が歌っていたものと同系です。
■音楽的な要素
曲の分類
踊り唄
演奏スタイル
歌
三味線(二上り調子)
太鼓
笛・尺八等
拍子
2拍子
音組織/音域
民謡音階/1オクターブと2度
曲の構造/特徴
① 前奏は「ハヨーイヨーイデッカンショ」から歌い出されます。
② 唄は独唱。上の句と下の句の間に「ヨーイヨーイ」、歌の最後に「ハヨーイヨーイデッカンショ」が入ります。
③ 伴奏は現行では三味線・鳴物、尺八・笛が使われています。尺八と笛は、歌の旋律をほぼなぞるように入ります。
■評価例
[知識・技能]
① 三味線・鳴物等の伴奏に乗って、いきいきとした踊りに合うように楽しい雰囲気で歌われていることに気付いている。
[思考・判断・表現]
① 民謡音階のもつ、素朴ながらもなつかしいような感じを聴き取り、踊り歌の雰囲気につながっていることとの関わりについて考えている。
② 歌パートとおはやし(唄バヤシ)パートに分かれて、歌や踊りを盛り上げるような感じを聴き取り、その働きの面白さを感じ取りながら、曲全体を味わっている。
[主体的に学習に取り組む態度]
① 《デカンショ節》が踊り歌として歌われてきたことや、《デッコンショ節》のような古い踊り唄の発展、比較聴取し、今日までの発展に興味をもち、音楽活動を楽しみながら主体的・協働的に学習に取り組もうとしている。
下記には、《デカンショ節》の唄、三味線、太鼓の採譜を掲載しました。
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