《開田コチャ節》~嫁入唄として知られる酒盛り唄(長野県木曽郡木曽町開田)
開田は霊峰・御嶽の裾野に広がる高原の村で、平成の大合併で木曽町となりました。特に木曽馬の名産地として知られた山里です。
古くからの習俗を伝えていて、古い民謡が残されていることでも知られています。中でも酒盛り唄として、今でも歌われているのが《開田コチャ節》です。
唄の背景
婚礼で歌われたコチャ節
この《コチャ節》は、開田の伝統的な婚礼の場で歌われてきました。また、哀調のある旋律、娘を送る父の心情が読み取れる歌詞から、近年《開田嫁入唄》として人気の民謡となっています。
開田の婚礼は、次のような流れであったそうです。
当日に仲人が嫁迎えに行きます。この時は2尾のイワシ藁でしばり、樽酒に添えて持参します。家に着くと、まず「わらじ酒」という盃事が行われ、酒が振舞われます。
そして、花嫁の母親が濡らした右手で釜のすすを付け、仲人の額に二本線を描き、確かに娘を渡したという証とするのだそうです。
ここで《コチャ節》が歌われるのだそうです。仲人は、
〽︎今宵この家の 小娘をソーレ
花にして 一枝国の土産に
コチャ一枝国の土産に
を歌い出します。それを受けて、娘の親が、
〽︎娘をやりて 出て見ればソーレ
笠の端が ほのかに見えつ 隠れつ
コチャほのかに見えつ 隠れつ
を歌い返します。
婿方の家に着くと、姑が花嫁の足を洗います。続いて、控えの間で「オチツキノモチ」という餅を食べると、披露宴になります。
始めに茶碗で酒を2杯。3杯目を注ぐと《横手》という祝い唄を歌います。
4杯目を飲み干し、5杯目を注いだところで、納めの唄として《大根種》が歌われます。
この《大根種》が終われば、他の唄を歌ってもよいことになり、宴が進んでいくのだそうです。
全国的には「箪笥長持唄」のような歌で進行することが知られますが、開田では古くから《横手》《大根種》《コチャ節》等の民謡で進められたのだそうです。
コチャ節の源流はコチャエ節
《コチャ節》の詞型は、甚句形式の7775調ではなく、75574調です。ハヤシ詞以外を示すと、次のとおりです。
〽︎今宵この家の(7)
小娘を(5)
花にして(5)
一枝国の(7)
土産に(4)
この唄の源流は、各地に残る「コチャエ節」です。また、竹内によれば《お江戸日本橋》の解説では、現茨城県・千葉県・東京都・神奈川県に広く分布する「芋の種」であるとされています[竹内 2018:337]。
《お江戸日本橋》とは、
〽︎お江戸日本橋 七つ立ち
初上り 行列揃えてアレワイサノサ
コチャ 高輪夜明けて 提灯消す
(コチャエ コチャエ)
という歌詞で歌われる江戸の花柳界で歌われたお座敷唄です。
この唄の元となった祝い唄が、《羽田節》として流行り、品川宿では、
〽︎お前待ち待ち 蚊帳の外
蚊に食われ 七つの鐘の 鳴るまで
コチャ 七つの鐘の 鳴るまで
コチャカマヤセヌ
(コチャエ コチャエ)
等といった歌詞が流行りました。そのハヤシ詞をとって「コチャエ節」として大流行します。県内では原村の《こちゃかまやせぬ節》(諏訪郡原村)、伊那の《龍勝寺山》(伊那市高遠)などが同系統です。
開田の《コチャ節》は都節音階でしっとりと歌われますので、もとはお座敷調であったものが酒席や婚礼など祝いの席などで歌われるようになったものと思われます。歌詞をよく見ると、祝い唄の歌詞以外にも、各地の作業唄(草刈唄、麦打唄等)で歌われるものの類歌があります。
ちなみに、同じ開田の古い祝い唄の《大根種》が伝わっていますが、詞型が75574調を基本とするもので、その源流は上記の「芋の種」と考えられます。
〽︎目出度きものは 大根種
花咲きて 実がなりて俵 重なる
〽︎その唄返やせ いよ戻せ
花咲きて 実がなりて俵 重なる
開田では「芋の種」を源流とする《大根種》と、「コチャエ節」を源流とする《コチャ節》が同居していることになります。
音楽的特徴
拍子
2拍子
音組織/音域
民謡音階/1オクターブと4度
歌詞の構造
基本の詞型は75574+74調の古風なものです。
更に、「コチャ」を付して、最後の75を繰り返しますので、実際の歌い方は下記のとおりになります。
〽︎今宵この家の 小娘をソーレ
花にして 一枝国の 土産に
コチャ 一枝国の 土産に
地元では、上の句の第1句目、第2句目、ソーレまでを独唱、その後から合唱のように参会者が付けていく、音頭一同型式をとります。
演奏形態
歌
付け
※舞台調として尺八伴奏を付けた演奏や、三味線を入れたものもあります。
下記には《開田コチャ節(開田嫁入唄》の楽譜を掲載しました。
ここから先は
¥ 100
Amazonギフトカード5,000円分が当たる
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?