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《秋山下甚句》~中津川の谷間にこだまする甚句(長野県下水内郡栄村)

秋山郷は新潟県津南町を流れる中津川の上流に位置する山里で、越後秋山(新潟県中魚沼郡津南町)と信州秋山(長野県下水内郡栄村)からなる地域の総称です。古くから、上野国(現在の群馬県)草津の平勝秀が源頼朝に敗れて落ち延びた等の平家落人伝説を残す秘境です。

小赤沢集落

農業が主な産業でかつては焼畑も行われていたそうです。また豪雪地としても知られ、人々は雪の下に半年暮らさなければならず、「陸の孤島」と呼ばれるほど厳しい生活環境でした。その秋山で歌われてきた民謡に《下甚句》があります。


唄の背景

越後の甚句が移入
《下甚句》とは、この唄の歌詞の冒頭部を曲名にしたものです。

〽︎下へ下へと 中津の水は
 どこのいずこに 止まるやら

〽︎下へ下へと 行く水止めて
 積もる思いも 流さずに

〽︎下へ下へと 枯れ木を流す
 流す枯れ木に 花が咲く

秋山郷での表記は《下甚句》ですが、実際には「しもへじんく」と呼ばれているようです。津南町内では《下へ甚句》と表記されています。
歌詞を見ると、上記の歌詞のように中津川をイメージしたと思われる歌詞が並びます。

秋山郷を流れる中津川(屋敷集落付近)

秋山郷では明治から大正にかけて、ブナ・スギ・ヒノキなどの木材を切り出して、中津川で木を流し、筏に組んだそうです。こうした木流しに従事した人々が、こうした唄を歌ったのでしょうか。
音組織は民謡音階ですが、大変美しい旋律だと思います。第4句目の最高音から下行するところが、特に印象的なメロディです。

歌詞の構成は7775調のいわゆる甚句形式です。実際に歌われる時には、上の句を音頭のソロで歌い、後半下の句をその他の人々が歌います。第3・4句目を歌ったあとに、続けて第3句目の後半4文字から続けて最後まで歌います。

〽︎[音頭]
 ア下へ下へと 中津の水は
 [付け]
 アどこのいずこに 止まるやら
  いずこに 止まるやら

こうした歌い方は珍しいようですが、津南町の《下へ甚句》も同じ形式です。また、甚句の本場の新潟には数多くの甚句が歌われていますが、例えば、よく知られている《長岡甚句》(新潟県長岡市民謡)では、次のように歌われます。

〽︎ハァーエーヤ長岡
 柏の御紋
 (ハ ヨシタヨシタヨシタ)
 七万余石の アリャ城下町
 イヤサ余石の アリャ城下町 
 (ハ ヨシタヨシタヨシタ)

というスタイルです。下の句を歌った後に、「イヤサ」を加えて下の句第3句目の後半4文字以降を最後まで歌います。《下甚句》ではハァーとかアリャといったリフレインはありませんが、歌詞の骨格のみを見ると、後半の返し方に同じような特徴を感じさせます。


音楽的特徴

拍子
2拍子

音組織/音域
民謡音階/1オクターブと2度

秋山下甚句の音域:1オクターブと2度

歌詞の構造 
7775調の歌詞の上の句をソロで歌い、後半にその他の人々が下の句を返します。

〽︎[音頭]
 ア下へ下へと 中津の水は
 [付け]
 アどこのいずこに 止まるやら
   いずこに 止まるやら

※歌い出しの「ア」については、調子を整えるために発声されるようで、歌わない場合もあります。

演奏形態

唄バヤシ

下記には《秋山下甚句》の楽譜を掲載しました。

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