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《吉野草刈唄》~風越山麓に残された愛らしい仕事唄(長野県木曽郡上松町)

木曽谷でも中ほどの上松町吉野には、大変素朴な《草刈唄》が歌われてきました。


唄の背景

里山の草刈り作業の唄
この唄が歌われている吉野は、上松町東部の風越山麓の集落です。古くから栽培されている「吉野蕪」も最近では郷土野菜として注目されています。
吉野は木曽馬の産地でした。戦時中までは家々で3~4頭の馬を飼育していたそうです。夏になると、朝方に風越山などへ出かけて草刈りをし、その草を馬の背につけたり背負ったりして運び、馬の飼料にしたり、農作物の肥料にしたりしたそうです。また、秋の彼岸前の夏草とか「山の口」といい、彼岸過ぎには「刈り干し」という作業があり、集落の人々が揃って風越山へ出かけて、草刈りを行ったのだそうです。

〽︎草をヤァー刈るかよ 風越山で
 どうぞ交じりの 嵐草

風越山は吉野集落の共有地で、草刈り場は「カヤト」と呼ばれる草原でした。ここは美しい緑の草原で、ここを吹き渡る夏風の風景が、木曽八景の1つ「風越晴嵐(せいらん)」として知られています。
風越山での草刈りでは、山麓から刈り上げていき、山頂でその草を大きな束にして、一気に転がり落としたものだそうです。

寂しく単調な作業をなぐさめる唄
野良で歌われる草刈唄のような仕事唄は、単調な作業の気晴らしに、作業の動きをリズムに合わせて歌うタイプのものもありますが、荷を運ぶ馬や牛を追いながら、一休みして朗々と歌うようなタイプのものも多いです。
吉野では、飼育している馬の世話を男子が行い、草刈りには女子が出かけて行ったのだそうです。

〽︎草をヤァー刈るには 鎌二丁欲しや
 わしとあなたの 相刈りに

こうした歌詞に見られるように、女心を歌った歌詞も見られます。
7775調の甚句形式で、つぶやくように歌うことができます。各地の仕事唄には、地域で流行っていた唄を仕事の場で歌ってきたというところが多いですが、吉野の草刈りの唄も、木曽谷一円で歌われている甚句の旋律とほぼ同形です。現在でもよく歌われている木曽町福島の《木曽甚句》は、岐阜県の《中津甚句》と関係があるようだといわれていますが、こうした「流行り唄」が取り込まれ、草刈りのおりに歌われてきたものと思われます。


音楽的特徴

拍子
2拍子

音組織/音域
民謡音階/1オクターブ

吉野草刈唄の音域:1オクターブ

歌詞の構造 
基本的な詞型は7775調。第1句目の3文字のあとに「ヤァー」を伸ばします。

〽︎草をヤァー刈るかよ 風越山で
 どうぞ交じりの 嵐草

演奏形態

※上の句をソロで歌い、下の句を複数の歌い手が[付け]として斉唱する歌い方があり、仕事唄らしい雰囲気となります。

下記には《吉野草刈唄》の楽譜を掲載しました。

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